第59話 彼の未来(エルード視点)
目が覚めて、俺はゆっくりと窓の外を見た。
日が昇る前に起床するのは、既に性分になっている。こうして朝日が昇るのを待つのは、いつものことだ。
「もう……いいのか」
幸福な夢を見て、俺はそんなことを呟いていた。
あの辛い夢は、日常によって塗り替えられていた。もしかしたら、俺はもうあの夢にこだわらなくてもいいのだろうか。
そう思ってしまった。復讐を果たすことから、目をそらしたいと思ってしまったのだ。
「馬鹿な……」
そう思った自分を、即座に否定しようとした。
父と母は、あの男達によって殺されたのだ。その復讐はするべきである。その気持ちを再燃焼させようと思った。
そう思っている時点で、俺は自分が解放されたがっていることに気づいてしまった。俺は、復讐したくなかったのだろうか。
「いや、違う……それは、俺の本懐だった。今でも、あの男達は許せない。それは、変わっていないはずだ」
俺は、確かに復讐を果たしたかった。
その気持ちは、確かにあった。助かった時、俺はそれを決意したし、そのために全てを犠牲にしても構わないと思っていたはずである。
しかし、俺は変わったのだ。あの時の俺と今の俺は違う。そんなものより、大切なものができてしまったのである。
「俺がそうなるとはな……」
そう自覚した時、俺は思わず笑っていた。
自分の変化が、おかしくてしかったなかったのである。
温かくて幸福な記憶は、俺の心を溶かしてくれた。それを成し遂げてくれた者達には、感謝しなければならないだろう。
「特に……あいつには」
俺が思い浮かべたのは、アルシアの顔だった。
彼女と出会い、彼女と接し、俺は変わっていた。シャルリナや他のラーファン家の人々も多大に影響を与えてくれたが、一番のきっかけは彼女である。
あの温かい光に、俺は心地よさを覚えていた。朝日のように人々を照らす彼女は、俺の暗い心をも照らしてくれているのだ。
「父よ、母よ……俺は親不孝かもしれない。だが、もう俺は復讐などにはこだわらない。この温かい日常を守ることの方が、今の俺には大切なことなのだ」
父と母には、申し訳ないと思った。
だが、きっと二人も許してくれるだろう。あの二人ならば、復讐よりもこちらを優先するように言ってくれるはずだ。
その日の夜に、俺はまた夢を見た。
それは、父と母との幸福な夢だった。
夢の中で二人が笑っていたのは、俺が正しい選択をしたからなのだろう。真実はわからないが、俺はそう思うことにした。
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