第41話 体力がなく

 私は、エルード様とシャルリナとともに屋敷の庭を走っていた。

 それなりの距離があるため、一周だけでも結構な運動になるだろう。それを三周しようというのだから、エルード様はかなり体力があるようだ。


「はあ、はあ……」


 一方、シャルリナは一週目の半分もいかないくらいで息を切らしていた。

 ずっと引きこもっていた彼女には、既に辛いようである。


「つ、辛い……こんなの無理では……」

「シャルリナ、頑張って」

「いや、無理ですよ。大体、この庭は広すぎます……どうして、こんなに広いのでしょうか? 半分くらいでよくないですか?」

「え? まあ、庭の広さはよくわからないけど……」


 話してみてわかったが、シャルリナは思っていたよりも元気だった。

 これだけ愚痴が言える元気があるなら、まだ問題ないだろう。

 だが、疲れていない訳ではないようだ。汗はかいているし、息は切れているし、辛いのは本当なのだろう。


「少しペースを落としたら?」

「え?」

「私やエルード様に合わせていると、多分きついと思うよ。もっとゆっくりと走った方がいいと思う」

「そうですね……でも……」

「うん?」


 私の言葉に、シャルリナは微妙な反応をしてきた。

 よくわからないが、ペースを落とすのが嫌なようである。

 一応、頭では私達のペースに合わせるべきではないということはわかっているようだ。だから、何か嫌な理由があるのだろう。


「どうかしたの?」

「いえ、その……一人で走ると虚しいではありませんか」

「虚しい?」

「遥か前に二人がいる状態で、私が走っていると、とても惨めな気がします。だから、あまり離れたくありません」


 シャルリナは、一人で走りたくないようである。

 要するに、寂しいということなのだろうか。

 それなら、私が傍についていてあげよう。別に、エルード様のペースに合わせられるとも思っていなかったし、私はそれでも構わない。


「それじゃあ、私が傍についてあげるよ」

「え?」

「シャルリナのペースに合わせるから、少しペースを落とそう?」

「叔母様……」


 シャルリナは、私の言葉に少し嬉しそうな顔をした。

 やっぱり、寂しかったのだろう。私が一緒にいるとわかって、喜んでくれているようだ。


「ありがとうございます。それなら、叔母様は私についてもらっていいですか?」

「うん、大丈夫だよ」

「お兄様は、放っておきましょう。あの人は、孤独に走るのです」


 シャルリナは、少し笑っていた。

 その笑みは、エルード様を孤独にできるからこぼれたものなのだろうか。

 相変わらず、彼女は彼を煽るのが大好きなようである。

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