第19話 最期の望みは
私は、ゴガンダ様の奥様であるスレイナ様と対面していた。
彼女は、私に対して、敵意などを持っていなかった。複雑な思いはあるようだが、無下に扱ったりするつもりはないようだ。
自分で言うのも変な話だが、私には特に非があるという訳ではない。浮気相手は母であり、私は結果として生まれただけである。
それを理解しているから、スレイナ様は私に何か言ったりするつもりがないのだろう。そんな理性的で優しさに溢れた彼女は、とても素晴らしい人である。
「さて、あなたにはこの後、夫……あなたにとっては、父親ですね。彼と会ってもらいます」
「は、はい……」
当然のことではあるが、私はこの後ゴガンダ様に会うことになるようだ。
スレイナ様に比べると気は楽だが、こちらも中々緊張する対面である。実の父と初めて会うというのは、少し怖いことなのだ。
そもそも、私はどういう顔をしてゴガンダ様と会えばいいのだろうか。
それが、まったくわからなかった。彼と私は親子という関係ではあるが、とても複雑な関係である。
そんな彼にどう接するべきなのか。その答えは、未だに出ていない。
「……一つだけ知っておいて欲しいことがあります」
「なんですか?」
「あの人は、もう長くはありません。もしかしたら、今日にでもこの世を去る可能性もあります。そんなあの人の最期の望みが、あなたと会うことなのですよ」
「私と会うことが……最後の望み……」
スレイナ様の言葉に、私はとても衝撃を受けていた。
ゴガンダ様の最期の望みが、私と会うこと。その事実に、心を打たれてしまったのだ。
彼に対して、色々な思いはある。だが、これから死にゆく彼に対して、その思いをぶつけることなど意味はないのかもしれない。
きっと、未練を残したくないのだろう。私と会って、全ての決着をつけてから、逝きたいと思っているのだ。
その思いに、私は応えるべきなのだろう。色々な思いは捨てて、一番真っ直ぐな思いだけ残しておけばいい。
これから、父親と会うことができる。私は、それを楽しみにしていればいいだけなのだ。
「あなたは、優しい子なのですね……」
「え?」
「私の言葉を聞いて、表情が変わりました。お礼を言うのは変かもしれませんが、ありがとうございます。あの人のことを……どうか、よろしくお願いします」
「……はい」
スレイナ様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
彼女は、とても優しい人だ。夫のために、私の心を溶かしたのだから、本当に思いやりがある人なのだろう。
こう思うのは、彼女の思いを無下にするようなことかもしれないが、ゴガンダ様はどうしてスレイナ様を裏切ったのだろうか。こんな温かい人を裏切るなど、信じられないことである。
だが、そういうものはもう捨てることに決めている。だから、私はただ一つの思いだけを持って、ゴガンダ様と会うのだ。
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