第93話 獣たちの咆哮《ほうこう》
『ぐわあああっ!』
老将の悲鳴とともに
ゴドオォン……!
しかしなぜ、どうやって?
戦いを見守っていた者たちはみな、理解をこえた現象に目をうたがう。
「な、何だいまのは?」
ざわめく騎士団員たち。
わずか十秒たらずの出来事だった。
刃物もなにも使わず、ただ触れていただけで鋼鉄の腕を切断。
何をすればそんな芸当ができる。
しかも切り落としたのは剣を持っていた右腕。
『切り札だよ、俺の!』
右手から魔力を流し込んで、敵機兵の腕そのものを変形させてやった。
もう組みついてしまった以上こちらのもの。
……かと、思いきや。
『おのれ、まだ終ってはおらぬぞ!』
勇輝は振り落とされそうになるのを必死にこらえる。
『まだまだ!』
天馬が巨大な翼を広げる。
大空に逃げようとするのを、クリムゾンセラフは蹴りでへし折ってやった。
『ぐおおおっ!』
苦悶にうめくグスターヴォ。
だが不屈の闘将は、やられっぱなしでは済まさなかった。
残された左手が背中越しにむかってくる。
しがみついていたクリムゾンセラフは避けきれず、顔面をつかまれる。
親指が、紅い天使の左眼に深々と突き刺さった!
「ギャッ!?」
『ユウキ様!』
眼球をえぐられる激痛に勇輝はのけぞった。
実際に生身の眼球をえぐられたわけではない。
だが守護機兵の身体が傷つくと肉体にも激痛が走るのだ。
グスターヴォはそれだけでは済まさない。
残った四本の指も、頭を握りつぶそうと凄まじい力を込めてくる。
「ガアアアアッ!」
目が。
頭が。
とてつもない激痛に勇輝は獣のように叫んだ。
それでもクリムゾンセラフは引きはがされない。
全身から魔力を放出して、天馬の巨体をじわじわと破壊していく。
『グオオオオオオオ!!』
『ガアアアアアッ!』
二頭の巨獣が
「ああっ……」
バタバタッ。
ご令嬢たちの数人が、二人の苦しそうな
歴戦の騎士たちはさすがに気絶することはないが、両者が味わっている激痛を想像して顔面
ピシッ、ピシッ、ピシッ……!
天馬の全身に大きな亀裂が走っている。
しかしそれは天使の
決着は近い。
あとほんの一押しで勝敗は決まる。
みなが
「負けるなんて許さなくってよ!
きちんと自分の責任を果たしなさい!」
もうとっくに避難したはずの、マリアテレーズ皇女殿下の声だった。
「マリアテレーズ様のお声よ!」
「えっ、ど、どちらに?」
ご令嬢たちが騒ぎ出した。
「あっあそこに!」
一人の生徒が校舎を指さす。
皇女殿下は校舎の屋上から見下ろしていた。
背後には飛行型守護騎兵『
さっさと軍司令部まで飛んでいこうとするクラリーチェを止めて、皇女殿下はずっとここで戦いを見守っていたのだ。
「勝って正義をお
無様な姿を見せてはだめ!
それが貴女のいう聖女なのでしょう!」
マリアテレーズ殿下の
『う、お、おおお……!』
クリムゾンセラフからよりいっそう強大な魔力が放たれる。
ピシッ、ピシッ、ピキッ。
天馬ペガサス騎士ナイトの亀裂がさらに拡大していく。
『ぐ、うううああっ』
騎士の顔が、胴が、翼が、馬体が、破片となって崩れ落ちていく。
ピシッ、メキッ、バキバキバキ……!
『ウオオオオオーッ!!』
バキイイイィィィン!!
ついに聖都最強の守護騎兵は、搭乗席のみを残して砕け散った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます