第8話 銀の乙女
「……面倒くせえのが来やがった」
小声でそうつぶやくとリカルドは不機嫌そうにアゴヒゲをなでた。
「
銀髪の美少女はリカルド隊長に冷たい視線をむける。
まさに
リカルドは嫌そうに目をそらしながら、弱気な口調で返事をする。
「あー、そいつはこれからランベルトにさせようと思っていたところだ」
「そうでしたか」
そう短くつぶやくと、彼女はツンと横を向いた。
「それでは参りましょうランベルト」
「あ、ああ」
うなずきながら、ランベルトは勇輝の方へ視線をやった。
「……そちらの方は?」
冷たそうな美少女が勇輝を見つめる。
勇輝は彼女のきつい視線にうろたえた。
「先ほど保護した少女だよ。ユウキさん、こちらはクラリーチェです」
紹介されて、軍服姿の少女は自己紹介をはじめる。
「聖都神聖騎士団、遊撃隊所属、クラリーチェ・ベルモンドです、よろしく」
「よ、よろしく、相沢勇輝です」
握手を求められたので勇輝はそれにこたえた。
ささいな事だが、あいさつで握手をするのは勇輝にとって初めての経験だ。
ちょっとだけドキドキした。
「それではユウキさん、こちらにどうぞ」
「あ、はい」
クラリーチェにうながされ、勇輝たちは立派な建物にむかって歩き出す。
と、そこでリカルドが耳打ちしてきた。
「気ぃつけろよ、その女ぁ何でも
「セクハラでもバラされたんすか?」
「うっせえ!」
図星だったらしい。
白い犬歯をむき出しにしたしかめっ
「じゃーなークソガキ、こってり
「ふん!」
後ろから飛んでくる大人気ない憎まれ口に、勇輝は鼻息を飛ばしてやり返した。
勇輝たち三人は、道すがら様々な人々とすれ違った。
出入り口を警備しているのは、金属鎧を装備した生身の騎士たち。
中央ホールには甲冑かっちゅうを脱いだ
黒い僧服をまとった聖職者もいた。
ランベルトたちが彼らに道をゆずって頭を下げていたので、勇輝も何となく合わせて頭を下げておく。
廊下の掃除をしているおばさんたちは典型的なメイドさんスタイルだ。
勇輝はコスプレ以外でメイドさんを見るのが初めてだったので、汗をかきながら労働している中年のメイドさんというのは奇妙に新鮮だった。
彼らの髪の色は黒髪、赤毛、金髪と様々で、人種も様々。
しかし紅い眼をした人間はいなようだ。
やはり珍しいのだろう、勇輝の紅い眼に気付いた人は、みな目を丸くして驚いていた。
ランベルトたちはどんどん建物の奥深い場所へと進んでいく。
自然とすれ違う人の数が減り、
「あの、どこに行くつもりなんですか?」
なんとなく不安な気持ちになって、勇輝は小さな声でたずねた。
「おや言葉遣いが急にしおらしくなりましたね?」
ランベルトがちょっとからかうように笑う。
「いやその、さっきはごめんなさい。ちょっとパニックになっていたもので……」
頬をポリポリ指先でかきながら勇輝は謝罪した。
あやうく墜落して心中する所だったのだ。
こんないい加減な言葉ではつぐなえない話なのだが、ランベルトは気前よくその謝罪を受け入れた。
「どうぞ気にしないで下さい。あんなに怖い目にあったのですから、仕方のない事ですよ」
(いい人だ。俺はもしかすると、ひどい誤解をしていたのかもしれないな)
勇輝はこのランベルトという青年を見直した。
初めにお嬢さん呼ばわりされた時はカッと頭に血が上ってしまったが、この外見では当然だ。
彼はあくまで見たまま、感じたままを言っただけだったのだ。
「いやホント、すいませんでした」
「いえいえ騎士として、ご婦人をお守りするのは当然ですとも」
「あはは、ちょっと複雑だな。実はさ……」
「あなたには、これから私たちの長官に会っていただきます!」
勇輝たちの会話を無理にさえぎる露骨なタイミングで、クラリーチェが会話に割り込んだ。
「……はっ?」
「あなたは先ほど『どこに行くつもりなんですか』とたずねたはずです」
「あっハイ」
「私たちは今、長官の部屋に向かっています。これが質問の答えです」
そう言ってクラリーチェはプイと顔をそむけ、一人でスタスタ歩き出してしまった。
なぜかは知らないが、彼女ははじめて会った瞬間からずっと不機嫌そうにしている。
「俺、彼女に何かしたかな?」
「そんなことはありませんよ、彼女は仕事熱心なだけなんです、どうかお気になさらず」
「そうかな、なんか敵意みたいなものを感じるんだけど……?」
勇輝は小さくつぶやいた。
どうも彼女は勇輝を歓迎していないように思える。
「あのー、長官っていう人は、どういう人なんですか?」
この質問には、ランベルトが答えた。
「はい、軍務省長官ヴァレリア・ベルモンド
まあ簡単に言ってしまうと、この聖都を守る軍隊の中で一番偉い人です」
「はあ、何でまたそんなえらい人と会うんです?」
「……それは本人に会ってお確かめください。ほら、もうすぐそこですよ」
言葉をかわしながら
すると突き当たりに手槍を握った騎士が二人、直立不動で立派な扉を守っていた。
中にいる人物から入室の許可を得るために待たされること少々。
無事許可を得た三人のために、扉が重々しい音をたてて開かれていく。
そのものものしい重厚な空気に、勇輝はすこし緊張するのだった。
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