第30話 収拾がつかない……
改めて自分の作った研修施設のことを考えてみる。
この世界に転生して、すぐに自分がチート的な存在だと気付いた。そしてこの世界では魔法やスキルをうまく活用していないと気付いた。
だから自分が考察して検証して得た知識を伝えたい。その知識を広めて活用することで、人々が少しでも幸せになればいいのにと考えたのだ。
運よくアルベルトさんやロンダの人々から協力を得て、ロンダに研修施設を作ることができた。その後も王都やエクス群島などにも、研修施設を作って増やしてきた。
ほとんどは勢いで、それほど深く考えずに研修施設を作ってきた。
しかし、それは正しかったのだろうか?
「きちんと見直さないとダメだな……」
研修で教える知識は、一歩間違えれば危険だと考えいた。だから研修に参加するには契約魔術を使ってその知識を悪用させないようにしたのだ。
契約魔術があるから安心して研修施設を増やして、人に管理をお願いしてきたのだ。
それは間違ってもいないし、問題も起きていないと思っていた。
だけど……。
転生後の人生や命の危険を感じながら、俺は真剣に研修に取り組んできた。
そんな研修をしてきた俺としては、特別研修生の四人のような遊び半分で研修に参加することは納得できない!
俺もゲーム感覚ではあったけど……。
俺の周りの人達は真剣に研修に参加していた。だから他の人達も同じように研修に参加していると考えていたのだ。
「研修施設を封鎖するかな……」
バルドーさん経由で国王にも厳しく参加する貴族や騎士の選別を頼んでいたはずだ。それなのにこのような有様では納得できない。
一時的に研修施設を封鎖して、研修に参加できる基準の見直しや、テコ入れが必要かもしれないかぁ。
「テンマ様」
んっ、その呼び方もどうなんだろう?
出会った頃に様付けは止めるように話したのに、ジジは今でもテンマ様と呼んでくる。
ジジは婚約者になったのだから、別の呼び方をしてもらいたい。
旦那様……、まだ結婚していないから早いかぁ。
ダーリン……、き、嫌いじゃないけど、なんか微妙。
あなた……、くっ、悪くない! でも早いよなぁ。
テンマ……、名前呼びは恋人みたいでいいのかなぁ。
「テンマ!」
そういえばミーシャは呼び捨てだから、ジジには他の呼び方をしてもらいたい。
いやぁ、婚約中と結婚後ではまた違うから、ジジと相談して考えるかなぁ。
あれっ、俺は何を考えていたんだろう?
「テンマァーーー!」
シルが叫びながら空を飛んできた。俺は慌ててシルを受け止める。
シルの飛んできた方向を見ると、ミーシャがシルを投げた姿勢になっていた。そしてミーシャは顔を上げるとジジを指差して言った。
「ジジがテンマに声をかけてる!」
ジジを見ると困ったような顔をしていた。それを見て自分が何をしていたのか思い出した。
あぁ~、四人組が謝罪してたんだぁ~。
四人組は俺がテックスだと気付くと土下座して謝罪してきた。
そして研修から放り出されたら家に帰ることができない。だから許してほしいと懇願してきたのだ。
今も四人は並んで正座している。
それを見ながら俺は考え込んでしまった。
「いやぁ~、ゴメン、ゴメン。色々と考え始めたら声が聞こえていなかったようだ。はははは」
ミーシャ君、だからといってシルを投げるなよぉ~。
俺はまたみんなからジト目で睨まれたのである。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は改めてジジに尋ねる。
「ジジの話は何かな?」
「テンマ様、研修施設を封鎖すると言われました。でも、彼らのことだけで研修施設を封鎖しては、他の真面目な人達が可哀想だと思います」
え~と、そんなことを呟いていた気がするぅ。
無意識に封鎖について呟いたのをみんな聞いていたようだ。
四人組は真っ青な顔で縋るように俺を見つめている。確かに自分達が原因で研修施設が封鎖されたとなると、四人組の未来は暗いだろう。
まあ、それは自業自得ともいえるのだが……。
「研修施設を完全に封鎖するつもりはないよ。ただ一時的に封鎖して、研修参加の条件を見直してから、改めて研修施設を再開しようと考えただけだよ」
でも一時的にでも閉鎖することになれば、その原因ともいえる四人は……。
「で、でも、研修に参加して生活が良くなったと、町が活気に満ちて嬉しいと町の人が言ってました。そ、それなのに……」
ジジは目に涙を溜めていた。彼女はロンダで休日を過ごして、町の人達と交流したのだろう。その中で研修施設の話が出たのかもしれない。
うん、馬鹿四人組のことで他に影響を与えるのはやめよう!
「ジジの言うとおりだな。みんなの生活が良くなればと考えて俺は研修施設を作ったんだ。だからこんなことで他の真面目な人達に迷惑を掛けるのは良くないよな」
俺はジジの目を見つめながら話した。
「ありがとうございます。テンマ様!」
ジジは目に溜まった涙を拭って、笑顔を見せてくれた。
ほんまにええ
「ジジ、俺達は婚約したんだから、そろそろ様付けはやめないか。結婚してからの呼び方も考えてほしいなぁ」
「ひゃい!」
ジジは真っ赤な顔で返事してくれた。
「おいおい、そこでイチャイチャするのは変だろ?」
ランガがニヤニヤしながら口を挟んできた。
「いや、これは重要なことだ! ランガはいつからサーシャさんを呼び捨てにしたんだ? サーシャさんにあなたと呼ばれたのはいつからだ?」
ランガはこれでもサーシャさんを奥さんに持つ先輩だ。参考のために尋ねてみた。
「ば、馬鹿野郎、恥ずかしいことを聞くんじゃねぇ! そ、そういうことはグストに聞けよ!」
「ランガ、ふざけたことを言うんじゃねぇ!」
おおっ、先輩のグストにも聞きたい!
「おいおい、俺は知っているんだぞ。家に帰るとルーちゃん、グーちゃんと呼び合っているんだろ!」
おおっ、そんな呼び方もあるんだ!
「な、な、なんでお前がそれを知っているんだよ!?」
「サーシャから聞いたんだよ! 知らなかったのか、グーちゃん?」
グストは口を開けたまま固まってしまった。そこにゴランが参戦した。
「うちはゴンちゃん、ディーちゃんだぞ。それが普通じゃねえのか?」
な、なんと、鹿獣人のディーナさんを捕食した虎獣人のゴランは、そんな甘々の夫婦生活を送っているのか!?
「ほ、ほれみろ。仲の良い夫婦はみんな同じように呼び合うんだ! ランガ達夫婦は仲が悪いんじゃねえかの!?」
「ば、馬鹿言うんじゃねぇ。俺達は今でも熱々だ!」
「ねえ、なんの話をしているの?」
「「「あっ!」」」
グストとランガの言い合いになり、ゴランが参加してさらに白熱の展開になった。だがミーシャに声をかけられたことで、一気に自分達が恥ずかしいことで言い合いしていることに気付いたようだ。
俺は悪くないよ……。
俺は話を変えようと似非ジートに尋ねる。
「確か君は獣人を差別するようなことを言っていたよね?」
フェイクジートは涙目になった。
「おい、お前が関係ない話を始めたくせに。しれっと話を戻してるんじゃねぇ!」
ランガは俺に文句を言ってきた。
「勝手に話を広げたのはお前達だろ。コイツは獣人を差別するようなことを言っていたんだぞ。ゴランを見てみろ! 見た目はまさしく暑苦しくて厳つい顔つきだ。でも、ときおりピクピク動くケモミミが可愛いじゃねえか。俺は絶対にケモミミを差別する奴なんて許さないぞ!」
あれっ、なんかまたジト目でみんなから見られている気がするぅ。
ジジまでそんな目で見ないでぇ~!
ゴラン君、頼むから顔を赤くしてつぶらな瞳で俺を見ないでくれぇ~!
完全に収拾がつかなくなり、続きはロンダの町に戻ってアルベルトさんなども含めて話をすることになったのである。
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