第29話 結局俺が一番悪い?
声をかけてきた少年を思い出そうとしたが思い出せない。必死に考え込んでいると、少年も俺が覚えていないと気付いたようだ。
「数年前に『三人一金貨損』の話をテンマ様にしてもらいました。今ではヴィンチザード王国内で知らない人がいないほどの有名な話になっていますよ」
あっ、思い出した!
「ラコリナ子爵の息子さんだ!」
三年前にパクリ物語『三人一金貨損』を話してあげた少年だ。彼はアーリンと同じ年の聡明そうな少年だったが、少年というより青年っぽく成長していて気付かなかった。前より父親のラコリナ子爵に面影が似ている。
彼は苦笑いして話した。
「今は研修中なので家や父のことは話せません。でもあの時にお話を聞いた気持ちは忘れられませんでした。『正しいことをする人は報われる。だから、正しいことをしなさい!』、母からも何度も聞いていました!」
おうふ、それほど真面目に話していないよ……。
暇つぶしに前世で聞いた落語や時代劇を思い出して話しただけだ。確かにそんな教訓が含まれていることは知ってはいたが……。
国中で有名って、そんなの聞いてないよぉ~!
「テンマ、ラコリナ家は伯爵になられたはずだぞ?」
グストに言われてそんなことを聞いて気も少しはする……かな?
「……マルコはその冒険者を知っているのか?」
優男はマルコが俺に声をかけてから、何か考え込んでいたみたいだった。戸惑った様子でマルコに尋ねた。
「この無礼な冒険者はお前の差し金か!?」
マルコが答えるより先に、復活した偽グストが大きな声でマルコに詰め寄った。
「やめろ! マルコは私の
優男は似非グストを叱りつけた。
おっ、優男君は思ったよりまともなのか? それに従弟ということは……。
「ウィスパー
マルコは詳しく話さなかった。しかし、俺はそのお爺様とか伯父様に心当たりがある。ウィスパーと呼ばれた優男も思い当たることがあるようだ。
ウィスパーは顔色を変えてマルコに確認する。
「も、もしかして、お爺様と父上、それに叔母上と妹が折檻を受けることになった、あの……」
うん、彼はゴドウィン家の血を引いているね!
女性に対しての接し方と、最後は金を使ってでも女性を口説こうとする執念。間違いなく同じ血縁だ。そして……。
「申し訳ございませんでした! どんな罰でも喜んでお受けします。どうか、どうか、母上達やお婆様達には内緒にしてください!」
土下座するとさらにそっくりだ!
最初から一緒にいた三人も、後から合流した連中も目がとび出すかと思うほど驚いている。
どうも憎めないゴドウィン一族だと思ったが、ジジに言い寄ったことは許せない。少しお仕置き代わりに脅かすような話をする。
「もう手遅れだよ……。ゴドウィン侯爵やエーメイさんには話してあるはずだ。今度同じようなことがあれば、ゴドウィン一族と俺との戦争だとね」
俺は深刻で悲し気な表情でウィスパーに話した。彼は絶望した表情になり、マルコが間に入ってきた。
「テンマ様、どうかゴドウィン一族まで類が及ばないようにお願いします! 私とウィスパー
おうふ、なんで自害するのぉ!
「フッ、そうだな。我が一族の因習で命を絶つほうが、祖母様達や母上達の折檻より辛くないだろう。ただもっとたくさんの女性と愛し合いたかったなぁ~」
ウィスパー君や、お前は反省していないだろ!
ウィスパーは思いを馳せるような表情で呟いていた。
「テンマ、彼らの命でゴドウィン一族との戦争はやめてやれよ。俺からも頼むよ!」
「そうだ。確かにお前の婚約者であるジジちゃんに手を出そうとしたことは許せないと思う。だがゴドウィン侯爵家の殲滅は可哀そうだぞ!」
グストとランガが俺に頼んできた。
お前達は俺がそんなことをすると思っているのかぁーーー!
俺はそれがショックだ……。
「いやいや、冗談だよ。何を真に受けているのかなぁ~!」
場をなごませようと軽い感じで話した。
みんなからジト目で睨まれている気がするぅ~!
結局、俺が一番悪いような雰囲気になってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
彼らは王都の研修施設からロンダへ特別研修を受けにきた貴族家の嫡男連中だった。
研修施設では身分に関係なく扱われる。しかし、彼らは無意識に身分や爵位を出てしまうことが多く、面倒臭いので特別に他と分けて研修することになったのだと、グストが小声で教えてくれた。
特別研修生を引率してたのは、グストの元パーティー仲間で虎獣人のゴランであった。ゴランはいつもと同じように、魔物を間引きしながらダンジョン村へ向かっていた。もちろん研修生の訓練も兼ねてである。
先に来た四人は魔物の間引きをせずに先行して進んできただけであった。後から来た連中は比較的まともで、ゴランと一緒に魔物を間引きしながら移動してきたのだ。
「あなた達は研修指導者であるゴランの指示を従わなかったのですか?」
グストはいつもと違って騎士モードで話していた。
「ダンジョンで研修のはずだ。こんな雑用を我々がする必要はない!」
魔術師装備の男が不満そうに話した。グストは困ったような顔をする。
「グスト、こいつらに研修を受ける資格はない。王都に送り返せ!」
俺は本気で腹を立てていた。研修を甘く考える奴に研修に参加してほしくないのだ。
「ちょっと厳しすぎますよぉ」
偽ジートが薄ら笑いして俺に話しかけてきた。
ゴドウィン侯爵家のウィスパーやラコリナ伯爵家のマルコが、俺に丁寧に対応していることに他の特別研修生も驚いていた。
だが先行していたウィスパー以外の三人は、どこか俺のことを下に見ている。
「黙れ! 研修に貴族や騎士を参加する条件として、研修中の身分は関係なく、指導者の指示に従う約束だったはずだ。俺の知らない間にそれらを守っていないとしたら、今後は貴族や兵士の参加は絶対に認めない!」
俺の作った研修施設で、好き勝手させてたまるか!
「アンタが研修のことをとやかく言うのは筋違いじゃないか?」
フェイクグストが薄ら笑いを浮かべて文句を言ってきた。
「よ、よせ、彼と揉めてはダメだ!」
ウィスパーが注意した。
「ウィスパー殿、彼がゴドウィン侯爵でも気を遣う人物であることはわかりました。ですが研修について口を出されるのは筋違いだと私も思います!」
今度は魔術師装備の男がしたり顔で話した。
「しかし……」
ウィスパーがどこまで俺のことを聞いているのかしらない。彼は戸惑った表情で呟いた。
「はぁ~、お前達は馬鹿だなぁ。テンマが研修施設を作ったんだぞ。俺としてもテンマにそう言われたら、お前達に研修を受けさせることはできないぞ!」
グストは彼らに呆れたのか、いつもの話し方に戻っていた。そしてグストの話を聞いた四人は顔色を変えて呟いた。
「「「だ、大賢者……テックス……」」」
俺は研修を軽く考えている奴に、研修をさせるつもりはない!
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