第16話 ジジと二人?
俺は自分で追い詰めるようなことを言ってしまったことで、半ば呆然として夜まで過ごしていた。
夕食も何を食べたのか記憶がない。サーシャさんの視線やドロテアさんの早く子供を作れという発言にも反応できずにいた。何となくジジが顔を赤くしているのだけは気付いたぐらいだ。
夕食後に女性陣が新ドロテア屋敷の大浴場を満喫して出てくると、俺は完全に追い詰められる。
「ミーシャ、部屋でゆっくりと旅の話を教えてね」
「わかった」
まずはサーシャさんがそう話してミーシャと寝室に向かった。
「私達も部屋で遊ぶのじゃ!」
「「『わかったぁ~!』」」
エアルが先頭になりメイやピピ、それにシルやピョン子も自分達の部屋に向かった。年齢ウン百歳のエアルが子供のように楽しそうにしているのは、ちょっと違うと思うが今はそんなこと関係ない。
「ドロテア様、お部屋の準備ができています」
「そうか、私は一人寂しく寝るのじゃ。ふふふっ」
ドロテアさんは一人寂しくと言いながらも、意味ありげな笑顔を俺に向けてからリビングを出ていった。
頭の中はパニックになっていたが、俺は冷静を装ってジジに話しかける。
「俺達も『どこでも自宅』で休もうか?」
「ひゃい!」
ジジが顔を真っ赤にしたけど、俺も死ぬほど顔が熱い。
D研の入口のある部屋に向かって歩き出すと、ジジが恥ずかしそうに後ろをついてきた。
「お、俺はどうすれば……」
後ろでランガが呟いたのが聞こえたが、それに答える余裕などなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
『どこでも自宅』のリビングでお互いに向かい合って座っていた。
俺の対女性スキルにはこの状況を乗り越えるすべなどなく、動揺して落ち着きがない。こんな時はシルモフかジジ膝枕で気持ちを落ち着けるのだが、シルはいないしジジ膝枕は……。
そんな俺の動揺に気を遣ったのかジジが言った。
「私は自分の部屋で寝ますので、テンマ様も部屋でお休みください」
確かに俺はそのことは考えて『どこでも自宅』で寝ることにしたのもある。しかし、そう話したジジの顔は少し寂しそうだと思った。
俺は何をしてるんだ!
十八歳になるまでにジジとの関係をもっと進めて、十八歳になったら結婚できればと漠然ではあるが考えていた。
ジジも俺のことを嫌いじゃないとどこか安心して、何とか自然にそうなるのではと俺は誤魔化して逃げてきたのだ。
俺はなんて卑怯で情けないんだ!
精神耐性スキルが珍しく仕事をしてくれたのか、少し落ち着いて決心を固めると。精一杯の勇気を振り絞って言った。
「ジジ、……一生そばにいてほしい」
俺は自分でも驚くほど直接的にジジに思いを伝えた。
「はい、私はテンマ様に助けていただいたのです。一生テンマ様にお仕えします!」
ちがーーーう! プロポーズのつもりなんだよぉ~!
ジジの答えに、俺は心の中で絶叫して落ち込んだ……。
これは俺が悪いんだと思う。
これまで誤魔化して都合よくジジに甘えてきた。自分の気持ちをハッキリと伝えてこなかったのが悪いんだ。
くっ、俺にもっと勇気をくれぇーーー!
「ジジ、……そうじゃないんだ」
う、うまく話せない……。
「あっ、……お、お望みなら、こ、今晩、わ、私を差し出します」
もっと、ちがーーーーーう!
「ジジ、……好きなんだ、……ジジのことが」
言ったぞぉーーー!
「ひゃい、わ、私もテンマ様のことは大す、す、すきでしゅ……」
す、好き! 俺のことを好き! 他人から初めて言われたぁーーー!
前世も含めて初めて女性から好きと言われた気がするぅ~。
ピピやメイ、ドロテアさん達から言われた気もするが、それは別だ。
「だ、だ、だから、仕えるとかじゃなくて……、ちゅまになってくれ!」
噛んだぁーーー!
肝心なところで噛んでしまった。で、でも、伝わったか?
「ちゅ、ちゅ、ちゅま?」
伝わっていないよぉーーー!
戸惑って首を傾げるジジは可愛いが、今はそんなことを考えているときじゃない。
恋愛の女神様、助けてくださ~い!
俺の願いは予想外の展開を引き起こした。
「あぁ゛~、イライラするぅーーー!」
声の聞こえたほうを見ると、目の下に隈を作った駄女神が降臨していた。
◇ ◇ ◇ ◇
『どこでも自宅』でジジと二人っきりなったのは、他の連中に邪魔されたり勘ぐられたりしたくなかったことのもある。
しかし、俺は完全に忘れていた。『どこでも自宅』の生産工房に引き篭もり、夜なべして怪しげな下着を作り続ける駄女神のことを……。
駄女神アンナは少しやつれたような表情で俺を睨みつけてきた。
「いくら
そんなことは言われなくとも分かっているよ……。
「テンマ君、あそこで噛むのはさすがにあり得ない!」
くっ、駄女神にダメだしされているぅ~!
なぜかアンナに君付けで呼ばれている……。
「ジジちゃん、ヘタレのテンマ君がプロポーズしたのだから、それに気付いてあげないとダメよ!」
「プ、プロポーズ!?」
ジジはアンナに指摘されて、俺にプロポーズされたことを始めて気付いたようだ。
「テンマ君、あなたがジジちゃんに惚れているのはみんな知っているのよ。ヘタレすぎていつまでも関係が進まないから、どれほどみんなが心配していたことか。ふぅ~、やっと決心を固めたと思ったら、『ちゅまになってくれ!』は絶対にないわ!」
な、なんだよぉ、みんな知っていたのかよぉ~。
それもショックだけど、お願いだから噛んだのを突っ込まないでくれぇーーー!
「しゅみません!」
悔しいけど、また噛んで謝ってしまった。
アンナは呆れた表情で俺を睨んできた。そして今度はジジに向かって話した。
「ジジちゃん、あなたも『一生そばにいてほしい』と男に言われて、『一生お仕えします』と答えるのは絶対にあり得ないわぁ~。どうしてプロポーズだと分からないかなぁ。あなたもかまととぶっていないで、女の子としてテンマ君と向かい合いなさい!」
「か、かまとと……」
ジジはアンナの言葉にショックで固まってしまった。
ジジがかまとと……、それは違うと思う……。
「テンマ君、あなたはジジちゃんを愛していて、ちゅまではなく妻になってほしいのよね!?」
「ひゃい!」
くっそぉ~、また噛んだぁー!
「ジジちゃん、あなたはテンマ君を愛していて、妻になりたいでしょ!?」
「ひゃい!」
あっ、ジジも噛んだ。似た者同士だぁ~。
「ここに私アンナは、二人が愛し合っている証人となります」
おいおい、神父にでも、あっ、女神か……。
「二人はこの後すぐに寝室に向かってください。反論は愛の証人である、アンナが許しません!」
強引すぎるよぉ~! それに愛の証人ってなんなのぉ~!
「あっ、ジジちゃん、これを使ってみて、渾身の新作よ!」
いやいや、それはいくらなんでも過激すぎるでしょう!?
ジジの顔が信じられないくらい真っ赤になっている。
俺はちょっと期待して、ドキドキしているけど……。
アンナは強引に俺とジジを寝室に連れていき、部屋の鍵を閉めたのであった。
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