第12話 ジジの休日⑤

応接室に案内されたジジは色々と考えていた。

テンマのことを凄い人と分かっていたが、ロンダの町での反応にジジは驚いてた。いつも一緒にいることで、テンマの凄さに慣れていたのである。


ジジはドロテアのこともいつの間にか同様に考えていた。暴走気味で困った所もあるが、母や姉のような身近な存在だと考えていたのだ。


特にロンダの町でドロテアは国の英雄で町の誇りでもあったのだ。ジジは改めてそのことを思い出し、迂闊にドロテアの名前を出したことを反省していたのだった。


「ジジちゃん、ドロテア様が戻ったというのは本当なの!?」


ギルマスのカリアーナはノックもせずに扉を開けて入ってきて、ジジに肉薄すると真剣な表情で尋ねた。


「ひゃい、ドロテア様と昨日戻ってきました。町に戻ってからは別行動で、ドロテア様はお屋敷に戻っているはずです」


カリアーナの剣幕にジジは怯えながら答えた。


「キイィーーー! 人に仕事を押し付けて町を出ていったのに、町に戻ってきたのに連絡もくれないなんて信じられないわ!」


カリアーナはハンカチの端を噛み、悔しそうに叫んだ。ジジは余計なことを言ったのではないかと焦った。


「き、昨日の午後に戻ったばかりで、ドロテア様も屋敷のことを心配していました。そちらが落ち着いてから、こちらに連絡するつもりだったのでは……」


何の確証もない話で、話しているジジは段々と声が小さくなってしまった。


「そ、そう……、でも、ドロテア様と色々と約束していたのに、何年も連絡がなかったのよ。私はドロテア様に裏切られたのかと……、グスッ、女の幸せを捨てて頑張ってきたのにぃ~。え~ん!」


カリアーナは戸惑ったように話していたが、最後には子供のように泣き始めてしまった。


ジジは予想外の展開に焦ってしまい、カリアーナを慰めるしかできなかった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



しばらくしてカリアーナは落ち着くとジジに尋ねた。


「テンマ様は一緒じゃないの?」


(カリアーナさんまでテンマ様を様付で呼んでいるのね)


ジジはそんなことを考えながら答えた。


「テンマ様は開拓村に行ってます。たぶん数日後にはロンダの町で合流する予定です」


「そうなのね。テンマ様には色々と聞きたいこともあるのよ。テックス様の登録した内容で理解できないこともあってね。できればお会いして話をしてみたいわ」


「わ、わかりました。テンマ様にお会いしたら、そのことを伝えておきます」


ジジはテンマに話さないといけないことが増えてしまい内心では焦っていた。


カリアーナはそんなジジの気持ちなど知らない。笑顔でジジの返事を聞いて、世間話を始めた。


「ジジちゃんは綺麗になったわねぇ。ピピちゃんは……、あ、相変わらず可愛いわ」


カリアーナもピピが成長していないことに驚いたようだ。

ジジはカリアーナが孤児院の院長と同じ反応をしたので吹き出しそうになった。それを我慢して本来の目的であるお土産を渡すことにする。


「これは私の作ったお菓子です。ギルドのみなさんでお食べください」


クッキーの詰め合わせの袋を十個ほどテーブルの上に出した。


「あらぁ、本当にジジちゃんはテンマ様とそっくりねぇ。テンマ様もいつもお土産を持ってきてくれたわぁ。お礼に昼食は私がご馳走するわ!」


「あっ、それなら私に任せてください! 旅先で覚えた料理を作って収納しています。昨晩の食事会にカリアーナ様は来られなかったので、ご馳走させてください!」


ジジはそれならと笑顔で提案した。しかし、ジジの話を聞いたカリアーナは少し目を細めて尋ねてきた。


「食事会をしたのね。誰を招待したのかしら?」


ジジはカリアーナの雰囲気に気付かず普通に話す。


「子供のころからお世話になっていたルカさん、あっ、今は冒険者ギルドのギルマスであるルカさん、あと冒険者ギルドの職員が数名です。それにドロテア様が屋敷の使用人を連れてきてくれました。昔にお世話になったので楽しかったです! あっ!」


ジジは普通に答えながら前日のことを思い出して笑顔になっていた。しかし、答え終わってカリアーナの顔を見て、声が出てしまった。


ジジにはカリアーナの後ろに吹雪が吹き荒れているように見えていたのだ。


「私は誘ってくれなかったのね……」


「ち、違います! ルカさんと昔から知っている冒険者ギルドの職員の人達だけの食事会だったんです。そしたらドロテア様が屋敷の人達を呼んでいて、私も驚いたんです!」


ジジは必死に事情を説明した。しかし、カリアーナの後ろの吹雪は治まる気配はなかった。


「分かっているわ。ジジちゃんは本当にいいだもの。私を仲間外れにするつもりなら、こうやって挨拶やお土産を持ってきてはくれないでしょ。でもドロテア様は使用人に声をかけても、私には声をかけてはくれないみたいねぇ」


カリアーナが話しているのを聞いていたジジは、吹雪に雹が混じり始めたと思って恐くなった。


「珍しい食材や料理もたくさんあります。昼食をご馳走させてください!」


ジジは涙目でカリアーナに頼み込んだ。そもそもカリアーナに連絡をしなかったドロテアが悪いのだが、ドロテアに迷惑を掛けるとジジは思ったのだ。


「ジジちゃんが気にすることはないわ。でも料理のことは気になるから、ご馳走してもらおうかしら?」


「はい、お任せください!」


ジジはホッとしていた。料理を食べればカリアーナの機嫌も少しでも良くなるのではと思ったのだ。そして、昼食の間に念話でドロテアに知らせようと考えていた。



   ◇   ◇   ◇   ◇



昼食はカリアーナだけでなく、ドロテアから教えを直接受けていた六人も参加した。


カリアーナはかつてのドロテアと同じように、錬金術師ギルドと魔術師ギルドのギルドマスターを兼任していて、参加した六人はそれぞれのギルドと研修施設を管理していたのである。


「ふぅ~、素晴らしい料理だったわ」


すでにジジの用意した昼食を食べ終わり、お茶とデザートであるプリンを食べていた。


「喜んでもらえて私も嬉しいです」


ジジが用意したのは昼食ということで、軽くカツサンドとシーフードサンドであった。それだけでは海の食材が少ないので、エビやイカ、カニなどのてんぷらを添えて出した。


てんぷらは食材の形が分かるので、カリアーナ達は食べるのに戸惑っていた。しかし、ピピがあっと言う間に食べつくし、おかわりを要求したのを見て食べ始めた。そしてピピと同じようにカリアーナ達もおかわりを要求したのであった。


「本当にジジちゃんは優しいわねぇ。ドロテア様と大違いよ!」


カリアーナの発言に他の六人も大きく頷いていた。他の六人もドロテアが町に戻ってきたのに、連絡のないことに腹を立てていたのである。


「あっ、そのことですが、ドロテア様がみなさんを今晩の夕食に招待したいと連絡がありました。昨日は屋敷の使用人を労ったようですが、今日は皆様を招待して労う予定だったみたいです」


実はジジが慌ててドロテアに念話で連絡すると、ドロテアは完全に忘れていた。焦ったドロテアは何も考えられず、ジジが提案して裏で話を進めたのである。


「まあ、ドロテア様は私達のことを忘れていたわけではないのね!」


「そうだと思います。屋敷の留守を任せていた使用人に、たまたま昨晩の夕食のことを聞いて労っただけで、皆様を先に招待するつもりだったようです」


ジジの話を聞いてカリアーナさんは涙ぐみ、他の六人も嬉しそうに話をして盛り上がり始めた。


ジジは自分がギルドに来たことで、問題が大きくならないで良かったとホッとした。


それでも精神的に疲れてしまい、今日の挨拶回りは終わりにしようと考えていた。この後はドロテアに今晩の招待用の料理を届け、宿でゆっくりしようと考えていた。


その頃、宿には冒険者ギルドの職員が来ていた。職員はルカに食堂を貸し切りするように指示されたのである。


その日の夜、ジジはルカ達お姉さん軍団に根掘り葉掘り質問責めにあったのである。



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