第11話 ジジの休日④
ジジは朝早くから目を覚ますと、朝食を食べてからピピと一緒に孤児院に向かった。
昨晩はルカ達を無事にやり過ごすことができて、ジジはホッとしていた。ドロテアがジジを正妻のように普段から話しているが、テンマとジジはまだそんな関係ではないからだ。あまり追及されるとボロが出そうなのである。
ジジとピピは町の中央広場から孤児院に向かって歩いていく。孤児院より大きな教会が先に目に入った。教会は以前より人の出入りがあるよるようで、何人も出入りする姿を見かける。
孤児院が見えてくる辺りまで近づくと、ジジは様子が変だと気が付いた。
孤児院の建物は無くなっていて、先ほど教会に人が出入りしていると思ったのは、孤児院跡地に建てられた商店のような建物だったのだ。
ピピも気付いたようで二人は走り出した。近づいてよく見ると、孤児院のあった場所は土地神様グッズの販売店になっていた。
ジジが呆然としていると、ピピが声をかけてきた。
「お姉ちゃん、あれ見て!」
ジジはピピの指差した販売店の横を見た。そこには小さな門があり、孤児院と看板に書かれていた。
ジジはホッとすると、すぐに小さな門を抜けて奥に入っていく。
販売店の横をすり抜けるような道を抜けると以前の半分ほどの広場と、奥には新しい二階建ての孤児院があった。
新しい孤児院を見てジジは不思議に思った。孤児院の予算が足りなくて縮小したのかと考えていたのだ。それなのにシンプルだがしっかりした造りの孤児院が建てられていたからだ。
ピピは気にした様子もなく、孤児院の玄関に走っていった。ジジもピピを追いかけるようについていく。
玄関を入ると見覚えのあるシスターがいてジジ達に声をかけてきた。
「孤児院にどんな御用でしょうか。……あれっ、ピピちゃん、あっ、そっちはもしかしてジジちゃん!?」
「シスターお久しぶりです!」
「久しぶり~!」
ジジとピピが挨拶するとシスターは笑顔を見せた。
「ジジちゃんは素敵な女性になったわねぇ~。ピピちゃんは、……本当にピピちゃんなの。まったく変わらないみたいだけど……」
ピピがあまりにも成長していないのでシスターも戸惑った。ピピは不満そうに頬を膨らませ、文句を言った。
「ぷぅ~、ピピはピピだよぉ~!」
「そ、そうなの、たくさん食べて成長しないとね……」
ジジはシスターの話を聞いて吹き出しそうになったが、我慢してシスターに尋ねた。
「い、院長先生はいらっしゃいますか?」
「ええ、いるわよ。案内するわ」
シスターはそう答えるとジジ達を笑顔で案内をしてくれたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジ達は以前とは比べられないくらい綺麗な応接室に案内された。豪華ではないが新しい家具類が置かれており、壁や棚の上には土地神様の絵や置物が置かれていた。
ジジは土地神様を実際に知っているので不自然な感じがしていた。
「お姉ちゃん、あんまり土地神様に似てないね」
ピピが言うとおり、絵も置物も完成度が低った。
「そうね。土地神様はもっと上品でいて、可愛らしいところもあるわね」
そんな話をしているとノックする音が聞こえ、扉を開いて院長が入ってくる。そしてすぐにジジに尋ねてきた。
「テンマ様はご一緒じゃないの?」
「えっ、はい、テンマ様は開拓村に行きました。後日合流する予定です」
ジジは院長がテンマに様を付けて呼んだことに驚いていた。
「ジジとピピはテンマ様とまだ一緒なのね、よかったわ」
院長は安心したようにジジ達に笑顔を見せ、ようやくソファに座って落ち着いたような表情をみせた。
「それで今日はどうしたの?」
院長は落ち着いた様子でジジを見て尋ねた。
「えっと、お世話になった孤児院に寄付をしようかと思いまして」
ジジはテンマと出会った場所でもある孤児院に寄付しようと考えていたのだ。不器用な自分を育ててくれたことにも感謝していたからだ。
「それはありがとうございます。でも、寄付は必要ないわ。自分の幸せのために使いなさい」
院長は温かい笑顔でジジに優しく話した。
「テンマ様に貰った給金はほとんど使わずにあります。だから今いる子供達のために寄付させてください!」
ジジは院長が自分のことを心配して、寄付を断ったのだと思って話した。
「でもねぇ~、孤児院の予算は余っているくらいなのよ。ジジも気付いたでしょ。土地神様のグッズ販売店ができて、売り上げの一部は孤児院の運営に回されているのよ。それにロンダの町は景気がよくて、子供の引き取り手が多くいてね。孤児院にいる子供も少ないのよ」
「そ、そうなんですか……、土地神様のお陰で……」
「この国は土地神様に守られるようになったのよ。だから土地も潤い、農産物は豊作が続いているわ。だから土地神様に感謝して、何ならグッズを買って大切にしてくれればいいのよ」
「お姉ちゃん、それなら今度土地神様に会ったら、お礼を言わないとダメだね!」
「そうね、たぶん今頃はテンマ様と一緒にいるはずだから、ロンダの町に一緒に来るはずよ!」
院長の話を聞いてジジとピピは笑顔で会話していた。院長はピピの話には笑顔を見せていたが、ジジの話を聞いて驚いていた。
「と、土地神様がテンマ様と……」
院長は呆然としたように呟いた。
「この前も一緒にご飯を食べたよぉ~!」
ピピの話に院長はさらに驚いた表情になった。すぐに身を乗り出して真剣な表情でジジに頼んだ。
「ジジちゃん、もしよかったらテンマ様に土地神様を教会に連れてきてくれないかしら!」
ジジは院長の剣幕に驚いた。
「は、はい、テンマ様と土地神様にお願いしてみます……」
「あ、ありがとう!」
院長はジジの手を握り締め、今にも跪きそうな勢いで感謝を述べたのである。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジは疲れた表情で孤児院の門から出て歩き始めた。
「院長先生、凄かったね……」
ピピは少し呆れたようにジジに言った。
「そ、そうね、それほどテンマ様が凄いということよ、たぶん……」
ジジは戸惑った様子でジジに答えた。
あれから院長先生はテンマや土地神様のことを色々尋ねてきたのだ。無難に答えていたのだが、途中から院長はジジのことを様付で呼び出した。
ジジはそれだけはやめてほしいと頼み込み、お土産のクッキーの詰め合わせを大量に置いて逃げ出したのであった。
ロンダの町でお世話になったお店や人に挨拶して回ろうとジジは考えていた。だがジジは孤児院だけで精神的に疲れ、気付くと町の広場まで戻ってきていた。
ふと商業ギルドが目に入り、思い出したようにジジはピピに言った。
「お世話になったカリアーナさんに挨拶に行きましょう」
カリアーナはドロテアがテンマと一緒にロンダを旅立ったことで、ドロテアの代わりに錬金術師ギルドのギルドマスターになった人である。
ジジもテンマとの雇用契約でお世話になっていたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジ達は商業ギルドに入ると、錬金術師ギルドのある階に移動する。ジジは受付の女性に話しかける。
「あのぉ、錬金術師ギルドのギルドマスターのカリアーナさんにお会いできますか?」
「えっ、ギルマスに? ギルドマスターは研修施設に行ってます。お忙しい人なので会うのは難しいと思うわよ」
そういえば昨日の夕食にカリアーナが来ていなかったとジジは思い出した。
(ギルマスはやはり忙しい仕事なんだぁ)
ジジはそんなことを考えながら、それならお土産だけ渡そうとした。
「あら、ギルマスなら今さっき戻ってきたわよ?」
ジジがお土産を渡す前に、他の職員の女性が受付の女性に声をかけた。
「そうなの? でも面会の予約もないからねぇ~」
受付の女性は困ったように話した。
「大丈夫です。ドロテア様と久しぶりにロンダの町に戻ってきたので、このお土産をカリアーナさんに渡したと思っただけです」
ジジがお土産のクッキーの詰め合わせを出して渡そうとした。しかし、受付の女性や他の職員も目を見開いて固まっていた。
その様子にジジもクッキーを手に持ったまま固まってしまった。
受付は静寂に包まれた。
しばらくすると受付嬢が再起動したように身を乗り出してジジに尋ねてきた。
「ドロテア様が町に戻ってきたの!?」
「は、はい、昨日一緒に戻ってきました……」
「あなたはすぐにギルマスを呼んできて!」
受付嬢は他の職員にギルマスのカリアーナを呼ぶように指示を出した。そしてジジのほうを振り返ると丁寧に話した。
「お嬢様、大変失礼しました。応接室にご案内させていただきます」
受付嬢の絶対に逃がさないという雰囲気に、ジジは逃げ出したくなった。だが雰囲気からしても逃げ出せないと感じて、諦めてドナドナされるのであった。
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