第22話 ドロテア騒動再び
ドロテアが浮かない顔で宿に向かって歩いていると、それを心配してエクレアが声を掛ける。
「ドロテア様、何か心配事ですか?」
(お前のせいじゃ~!)
「う、うむ、大したことでは無いのじゃ」
(大したことじゃ~!)
「そうですか。私は夢の中を歩いているみたいにウキウキとした気分ですわ!」
(そのまま夢の中へ行って欲しいのじゃ~)
ドロテアは心の中で愚痴を溢しながら宿の中に入って行く。
(あとはバルドーだけが頼りじゃ!)
「ドロテアお姉ちゃんおかえりなさ~い!」
ドロテアの姿を見たピピがドロテアに駆け寄って抱き着いてきた。
「にゃ、にゃんで!」
ドロテアはピピが居ることに驚き、思わず大きな声で噛んでしまった。ドロテアはピピからゆっくりと顔を上げて宿の食堂の奥を見る。
「にゃんでテンマが戻っておるのじゃーーー!」
宿の外にも響き渡るような声でドロテアは絶叫するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジが夕食の準備でメアリさんと厨房に言って、俺達は食堂でお茶を飲んでいた。
宿にドロテアさんが入ってくると、最初に気付いたピピがドロテアさんに走り寄って行く。ピピがドロテアさんに抱き着くと、ドロテアさんは何故か凄く驚いていた。
そして俺と視線が合うとドロテアさんは叫び声を上げた。
「にゃんでテンマが戻っておるのじゃーーー!」
失礼な事を言うなぁ!
「俺が戻ったらダメなの?」
「ち、違うのじゃ~、色々と誤魔化すことが、あっ! いや、テンマに会いたかったのじゃ!」
誤魔化すと言ったよねぇ!? 絶対に言った!
「それで、今度は何をしでかしたのかな?」
眉をピクピクさせながら質問する。
「わ、私は何もしてないのじゃ! 勝手にエクレアが宮廷魔術師を大量に引き連れてきたのじゃ。王宮と揉め事になるなんてないのじゃーーー!」
ふぅ~、最近は大人しいと思っていたら、やってくれちゃったようだねぇ。
◇ ◇ ◇ ◇
マリアさんとエクレアさんから話を聞く。
エクレアさんはカリアーナさんと同じ歳で、ほぼ同じ時期にドロテアさんの弟子になったらしい。見た目は20代後半だが、年齢は40代後半のようだ。
彼女も貴族家の娘で、父親は伯爵家だったこともあり、ドロテアさんが宮廷魔術師を辞めた時に伯爵家の立場もあり、国の為にドロテアさんについて行かなかったようだ。
うん、知的な美人さんで、胸はそこそこだが形は良さそうだ。
「それでエクレアさんが宮廷魔術師を辞めるように、ドロテアさんが勧めたという事ですね」
「別に私が勧めたわけでは、」
俺が睨むとドロテアさんは話すのを途中で止める。ドロテアさんひとりだけ床で正座している。
「更にエクレアさんを慕う魔術師が辞めると言いだしていて、その人たちの面倒もドロテアさんが任せろと言ったのですね」
「数人だと思ったのじゃ~!」
また睨むとドロテアさんはすぐに顔を下げるのであった。
「数人のはずが既に30人以上もいて、更に100人単位で増える可能性があると言うのですかぁ」
どう考えても不味い状況だぁ。
宮廷魔術師というぐらいだから、この国でも優秀な魔術師が多いはずだし、その宮廷魔術師から100人単位で人を引き抜いたとなると、それこそ国と喧嘩でもしようとしているみたいである。
「やってくれたなぁ~」
思わず声に出して言ってしまう。
「すまんのじゃぁ……」
ドロテアさんも申し訳なさそうに俯いてしまった。
「ちょっとぉ、あなた何様なの! この国の英雄と呼ばれているドロテア様に、成人したての坊やが偉そうに何を言っているのよ!」
エクレアさんが興奮してまくしたてる。
そういえば、ドロテアさんはこの国の英雄だったなぁ。
やらかしが多くて、ドロテアさんが英雄だとは思えなくなっていた。
「よすのじゃ~、悪いのは私なのじゃ……」
珍しくしおらしいドロテアさんに驚く。
「でも、こんな坊やにドロテア様が侮辱されているのを、私は許せません!」
べ、別に侮辱はしていないと思うけど……。
「いい加減にするのじゃ! テンマは私のはん、ギャァーーーーー!」
また、伴侶とか言おうとして激痛で転げまわっている。
エクレアさんはドロテアさんの転げまわる姿を見てオロオロとしている。
「テンマ様、夕食の準備ができましたがどうなさいます?」
ジジがいつの間にか食堂に来ていて、俺に尋ねてくる。
「そうだね。後は夕食を食べながら話をしようか?」
「わかりました。すぐにご用意します」
その様子を見ていたアンナも給仕のために、ジジと一緒に厨房へ向かう。
「あなた! ドロテア様が原因不明の奇行をしているのに夕食ですってぇ!」
エクレアさんが何故か興奮して文句を言ってくる。
「ドロテアお姉ちゃんは良くこうなるのぉ~」
ピピが楽しそうに転げまわるドロテアさんを見ながら言う。
「ゆ、許せませんわ!」
エクレアさんが立ち上がり魔法を使おうと魔力を練り始めた。
「あら、私のテンマ君に何をするつもりかしら?」
マリアさんは静かだが冷たい声で言いながら、火と風の刃を一瞬で4つほど背後に展開する。それを見てエクレアさんが顔色を変えて魔力を霧散させた。
「おい、どういうことだ! なんでテンマがマリアのものなんだ!?」
マリアさんの発言に一番反応したのはバルガスだった。
「あら、間違えちゃったわ!」
「お、驚かすなよぉ」
バルガスが動揺しながらもホッとした表情をする。
「私がテンマ君のものだったわ!」
「な、なんだとぉ! やっぱりテンマがマリアに手を出したのか!?」
おいおい、手は出していないぞ。
「違うわよぉ~。これから手を出してもらうのよぉ~」
こらこら、そんな事は……、
「な、なんで? 俺を捨てるのか!?」
おぉ、修羅場だぁ!
「リリアちゃんに聞いたわよ。恥ずかしい言葉を人前で叫んだって。そんな人とは恥ずかしくて夫婦でいられませんでしょ?」
なんか、全然違う話になっていないか?
エクレアさんも混乱している。
「なっ、リリアが裏切ったのかぁ!」
「う、裏切っていません! 本当の事を伝えただけです!」
「くっ、あれはテンマのせいだぁ!」
あれ、俺に飛び火した!?
「ま、待つのじゃ~、マリアの話は私も納得できぬのじゃ~!」
ドロテアさんが復活して参戦したぁ!
「お、お姉さん、大丈夫ですわ。ジジちゃんとドロテア様が先なのは分かっていますから」
どんな理解やねん!
「ピピもぉ~!」
ピピまで参戦するのじゃありません!
「そ、それなら、も、問題無いのじゃ」
問題大ありです!
「お、俺はどうなるんだぁーーーーー!」
バルガスが絶叫してリリアを追いかけ。それを見てシルがバルガスを追いかける。
「テンミャァーーー! ゆるじてほじいのじゃ~!」
ドロテアさんはテーブルに手をかけて立ち上がると、必死に懇願してくる。
料理を運んできたジジとアンナがどうして良いか分からず、立ち尽くしている。
な、なんでこうなるかなぁ~。
この
◇ ◇ ◇ ◇
大人しく全員がテーブルについて夕食を食べ始めた。
あの状況を収めてくれたのは、なんとメアリさんであった。
厨房から出てきたメアリさんが、バルガスを怒鳴りつけると、バルガスは直立不動で動きを止め、シルはご飯を上げないと言われて大人しくなった。
ドロテアさんにはいい加減にしてくれと泣きついて、ドロテアさんもこれには困ってしまい大人しく正座に戻ったのだ。
仕方ないのでエクレアさんにはテックスが自分だと話すと、エクレアさんが土下座して謝罪を始めたが、これもメアリさんに止めるように言われて、取り敢えず夕食を食べることになったのである。
食事をしながら、合流したバルドーさんに事情を話して相談する。
「バルドーさん、何とかなりそうかなぁ?」
「しかし、それほど辞めるとなるとさすがに難しいですねぇ」
バルドーさんはこうなる可能性を国王や宰相には忠告していたらしい。
「悪いのはあのぼんくら国王と宰相どもじゃ!」
またぁ~、国王をぼんくら呼ばわりして大丈夫なのぉ!?
ドロテアさんは国王や宰相の責任にしようとする。
「確かに悪いのは国ですが、宮廷魔術師がこぞって辞めてしまって、ドロテア様やテックス様の下に集まってしまっては、元老院や貴族なども黙っていないでしょう。
それに国の魔術師が大量に辞めたことが他国に漏れると、それこそ戦争になるかもしれません」
せ、戦争!? 洒落にならないじゃん!
「だ、大丈夫です。私が我慢すれば……。グスッ、魔術師としても女としても私が犠牲になれば……」
女は関係ないと思うけど……。
「そうじゃ、エクレアが我慢すれば良いのじゃ!」
このぉ、あんたが我慢する必要がないと言ったからだろうがぁ!
「わ、わかりましたわ……グスッ」
しかし、理不尽な事で辛い思いをするのを見るのは、非常に腹が立つ。
バルドーさんに真面目な提案しようと思ったが、隣で話している声が聞こえて集中できない。
バルガス「もう二度と恥ずかしい発言はしないと誓う!」
リリア「絶対ですよ! 私だって年頃の乙女なんですよ!」
バルガス「絶対にしない! だからマリア、捨てないでくれぇ~」
マリア「でもねぇ、テンマ君が凄く立派だから……」
バルガス「全然立派じゃねぇ~、やつのは俺より小さかった!」
リリア「あ、あ、あぁ~、また変な話をするぅ~!」
バルガス「い、いや、変な話では……」
マリア「そうなの……、ふふふっ、それは楽しみねぇ」
何が楽しみなのぉ~。
気になり過ぎて話ができないよぉ~。
「すまないが、少し静かにしてくれないか?」
話ができないので注意する。
「だ、誰のせいで、」
「ふふふっ、ごめんなさいね。あなた、いい加減にしてください。その話は今晩ゆっくりとね」
「こ、今晩ゆっくりと……」
こ、今晩ゆっくりと……。
気になって余計に話ができるかぁーーー!
結局、夕食を食べ終わって落ち着いてから話をするのであった。
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