第19話 攻略と謀略
テンマ達はダンジョンの入口までギルマスとネフェルさんを送り届けた。
「テンマ君、無理にお願いはできないが、戻ってきたら報告してくれると助かる」
ギルマスは遠慮がちに言っているが、目で懇願しているきがするぅ。
「テンマ君、ギルドに来たら私を指名してね。どんな要望でも叶えてあげるから。ねっ!」
ネフェルさんの言い方だと、なにか違うお店で指名をお願いされている気がするぅ。
「テンマ、早く!」
ミーシャのご指名は宝箱を開けたいだけだよね……。
それから残りの隠し部屋を回った。
ポップする魔物は弱かったが、宝箱の罠はピピとミーシャが調べて、罠があるとリリアやタクト、ジュビロに調べさせたりして訓練もする。
1層で見つかった宝箱はミーシャとリリアの順で開ける。2層にも隠し部屋が3部屋見つかり、タクトとジュビロも宝箱を開ける事ができた。
「つ、次は俺だよな!」
バルガスが期待した目で俺を見てきた。
「次はお姉ちゃんだよぉ~!」
ピピのひと言で2層の宝箱をバルガスは開けることはできなかった。
そして3層に降りると俺は確信する。
あの研修施設のダンジョンはこのダンジョンを参考にして創ったな!
多少の違いはあるが全体の構造はほぼ同じであった。あの研修施設のダンジョンは、無駄にはみ出した通路が無くなって、複雑すぎる道は単純化されていた。
たぶん、ここを参考にして研修向けに作り替えたんだろうなぁ。
隠し部屋や宝箱もあの研修施設のダンジョンにはなかった。
「隠し部屋はありそうか?」
バルガスは次こそ自分だと思っているのか質問してくる。
「んっ、なんと6部屋もある!」
「よっしゃー! これで俺も開けられるぜ!」
バルガスは喜んで拳を突き上げて叫んだ。
「宝箱を開けたことがないの?」
ミーシャが何気なくバルガスに質問する。
「何を言ってるんだ。俺が何年冒険者をしてると思っているんだよ。これまでだって宝箱を開けたのは10個じゃ足りないぜ!」
バルガスは自慢気に発言しているが、全員から冷たい目で睨まれている。
タクト「僕は初めてだったのに……」
ジュビロ「俺もだよ……」
リリア「ずるいわね……」
ピピ「ずるい~!」
ミーシャ「次はピピだね……」
それを聞いてバルガスが焦って言い訳をする。
「ま、待ってくれ。隠し部屋の宝箱は俺も初めてなんだよ!」
「「「でもねぇ~」」」
全員が納得できない顔で言う。
「た、頼む! 宝箱と言ってもポーションとかナイフとか、お宝と呼べない物ばかりだったんだ。だから俺にも開けさせてくれ!」
相変わらずバルガスはバカだった。余計な自慢をしなければ良かったのに……。
「まあみんな、一緒に行動しているのだからバルガスにもチャンスはあげよう。次はバルガスの開ける順番にするぞ!」
まあ、次々と見つかるのだからバルガスにもチャンスをあげないとね。
「な、なんだ! またなんか企んでいるのか!」
なんて失礼な奴だ!
「違うよ! まだたくさん見つかりそうだからバルガスにチャンスは必要だと思っただけだよ。そんなことを言うなら取り消すぞ!」
「す、すまん! いつもテンマには酷い目に合わせられているから、つい……」
確かにバルガスには悪ふざけをやり過ぎたかぁ。
「まあ、良いよ。……暫くキツネ耳は我慢してもらうからね」
「うっ、わかった……」
すぐに見つけた隠し部屋に行く。ポップした魔物を倒すと、リリア達が罠の有無の確認始める。
「わ、わからないわ~」
しかし、罠が無いので3人にはわからないみたいだ。
後ろでバルガスがイライラと様子を窺っている。
結局、ピピとミーシャが罠はないと伝え、バルガスが宝箱の前に立った。
「よし、開けるぞ!」
バルガスは緊張した顔で宝箱に手をかける。
「わっ!」
「うおっ、なんだ!」
フフフッ、大成功!
「いや、特に意味はない」
「このぉ~、ガキみたいなことするんじゃねぇーーー!」
ネフェルさんにやれなかったからバルガスにやってしまった。
これくらいお茶目ないたずらで許してくれるよね。てへっ。
「ごめん、バルガスがあんまり緊張していたから、気持ちを和らげてあげようと……」
「和らぐかぁー!」
うん、無理だよね。
「バルガス早く開けて!」
ミーシャが我慢できないのか文句を言う。
「わかったよ。テンマ、変な事をするなよ!?」
「それはしろと言う振りかなぁ」
「なんだよ、その振りとは? まあいい、絶対にやるなよ!」
くっ、振られている気がするぅ~。
「早くする!」
「わかった! 開けるぞ」
バルガスが宝箱を開けて中を覗き込む。
よし、俺は何とかお約束は我慢したぞ!
しかし、ミーシャとピピ、リリアまで残念そうな顔をしている。
ミーシャ「なんかしょぼい……」
タクト「まさかだね……」
ジュビロ「そんな気も……」
リリア「運がない……」
ピピ「はずれ~!」
「ま、待て、高級なポーションかもしれないぞ!」
バルガスが必死に訴える。
宝箱にはポーション瓶が1本だけだった。
「中級の回復ポーションだね……」
俺も驚いている。これまでの中で最低の宝であった。
ここまでにポーション類はエリクサーか万能薬が入っていた。
あと若返りポーションも5本見つかっている。若返りポーションは非常に高価らしい。欲しがる人が多いのでエリクサーや万能薬の次に価値があるらしい。飲めば10歳ぐらい若返ると鑑定には出ていた。
なぜかバルガスが宝箱を開けたら、最低の結果だったのだ。
ずいぶん後になり、これの理由は判明する。隠し部屋のお宝は経過年数が長いと、お宝も高価で希少なものが出るらしい。
このダンジョンの3層で二十数年前に隠し部屋が発見されており、それの関係でお宝の価値が低かったのである。
「テ、テンマァ、お前、何かしただろ!」
「ふざけるなぁ! 宝箱の中を俺が決められるわけないだろがぁ!」
「いや、先にお宝が何か知っていたんだ! だから俺に開けさせたんだ!」
「いい加減にしろ! そんなことするかぁ!」
それから暫くはバルガスと罵り合うのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
テンマ達がギルマス達を送り届けていた頃、王宮内では宰相がイライラとしていた。
「なぜ宮廷魔術師筆頭のバルモアは報告に来ないのだ」
宰相は朝から使者を何度も送り、バルモアに報告に来るように連絡をしていた。
手が空き次第に来ると返事はきていたが、昼過ぎになってもバルモアは現れなかった。
そこに昼過ぎに使者として出していた者が戻って来た。
「バルモアはなぜ来ない?」
「宮廷魔術師が大量に城を出たとの事です。理由は分かりませんが、その件で宮廷魔術師筆頭のバルモアは忙しいと代わりの者が……」
報告を聞いた宰相はバルドーから聞いた話を思い出して、緊急で対応が必要だと判断する。
「すぐに王宮内のどこにバルモアがいるか捜索させろ。王宮から出ないように門にも使者を送れ、私が直接、宮廷魔術師の部屋に行って事情を聞いてくる。
緊急事態だと関係各所に連絡を入れろ!」
宰相の執務室から次々と人が出て行く。宰相も護衛を伴って宮廷魔術師の部屋に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
その頃、ジデガン伯爵は元老院の議長を代々務めるベルント侯爵と、王家と繋がりの深いデンセット公爵と面会して、バルモアの事を報告していた。
「それでは、何度も調査をやり直させたことでエクレアが辞めると言い出したのだな?」
ベルント侯爵はジデガン伯爵の話を聞いて質問をした。
「はい、バルモアからはそのように聞いています。エクレアが納得できないと言って宮廷魔術師を辞めると言い出したそうです。さらにそれに同調した魔術師の十人近くが辞めると言い出したそうです」
ベルント侯爵は話を聞くと笑い出した。
「ハハハハ、ちょうど良いではないか。邪魔なエクレアが居なくなれば思い通りの報告ができるはずだ」
「し、しかし、エクレアの報告を何度も握りつぶしています。その事が公になると……」
ジデガン伯爵は調査されれば不味いのではと考えて答える。
「何を言っておる? 握りつぶしたのではないぞ。調査が足りないからバルモアが再調査を命じただけだろ。それを、納得できないと仕事を投げ出したのはエクレアだ。それも他の魔術師を誑かして一緒に辞めさせたとなれば、エクレアを反逆罪で訴えれば良い!」
ベルント侯爵はすべての責任をエクレアに押し付けようと言い出した。
「で、ですが、エクレアは国王陛下や宰相殿からの信頼が厚い人物です。信じてもらえるか……」
「だから良いのじゃ! 国王陛下や宰相が信頼している人物が仕事を投げ出したとなれば好都合ではないか!」
これまで黙って聞いていたデンセット公爵が会話に入ってきた。
「聞いた通りだ。お前はすぐにその方向で動くようにバルモアに指示を出せ。私は元老院を動かして、今回の失態を追求する準備をする」
「わ、わかりました」
ジデガン伯爵は言われた通りに動こうと、すぐに元老院議長の部屋を出る。
しかし、ジデガン伯爵はあのバルモアがこちらの思惑通り行動できるか不安でしかなかった。それに逃げるようにバルモアが自分の執務室を出て行った姿を思い返して、余計に不安を感じるのであった。
(なぜ、バルモアはあれほど怯えていたのだ?)
◇ ◇ ◇ ◇
宰相が部屋に入ると、宮廷魔術師の部屋には魔術師の姿が少なかった。
宰相に気が付いた魔術師の数人が近づいて来る。
「宰相閣下、直接来られるとはどうされたのでしょうか?」
「私が何度も宮廷魔術師筆頭のバルモアを呼び出したはずだ! 奴は今どこにいる!?」
予想以上に宰相が怒っていることに話しかけた魔術師は慌てる。
「そ、それは、我々も知りません。どこかに行くと言われまして……」
「ここにいる魔術師は誰も知らないと言うのか!」
「はい、行先も言わずに……」
宰相と話をしているのはバルモアの腰巾着で、普段からバルモアの機嫌を取るだけで魔術の才能はあまりない男だった。
目の前にいる宰相のこめかみには青筋が浮かんでいた。
「閣下、彼は私が来た時に話をした相手です」
使者としてこの部屋に来ていた者が宰相に耳打ちする。
「バルモアは何時からここに居ないのだ?」
「それは……」
「魔術師が少ないようだが、何があった!?」
「それは……」
「他の者で何があったか説明できる者はいるか?」
「「「………」」」
残っている魔術師達はバルモアに機嫌を取って頼っているような能力の低い者達であった。彼らはバルモアの機嫌を損ねないように仕事をこなすだけだったので、バルモアの失態を告げ口するようなことはできないと考えていたのである。
「私が宰相であることは分かっているな?」
「は、はい、もちろんです!」
「では、私の質問に答えないということは、国に叛意があると言う事になるが、それで構わないのだな?」
「「「………」」」
残っている魔術師の誰もがそんなつもりは全くなかったが、普段から接することのない宰相よりもバルモアに嫌われることの方が恐ろしかった。
彼らは早くバルモアが戻って来てくれと思うだけで、質問に答える勇気もなかった。
彼らはそれほど大問題だと認識することも、考えることもなかったのである。
「おい、騎士団を呼べ! 全員から話を聞く。少しでも私に秘密にしていたことがあれば、家族もろとも反逆罪で死刑にしてやる!」
「えっ、お、お待ちください!」
「黙れ! 私は宰相としてお前達に質問したのだ。それなりの覚悟はあるのだろう!」
「は、話します。なんでも、」
「黙れと言っただろうが! おい、騎士団に調べさせろ! 拷問官も呼べ!」
残っていた魔術師は口々に本当の事を言い出すが、宰相は聞いていない振りをして話を聞いていた。
直ぐに騎士団が現れると、魔術師達は必死にバルモアの悪口や不正を話し始める。
「おい、調書を取って本人にサインさせろ。ここで見聞きした内容は口外禁止だ! 私の許可があるまで誰も部屋から出すな! そして誰も会わせてはならん」
宰相は騎士団の責任者に後を任せて国王の所に向かうのだった。
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