第16話 宝箱はどうなの?

テンマ達が『深淵のダンジョン』に到着したころ、王宮でも問題が発生していた。


「何度も同じことを言わせるな。こんな報告は認められない!」


宮廷魔術師筆頭のバルモアは呪の館の調査報告書を読んでエクレアを怒鳴りつける。


「何度も同じ報告書を出させているのは貴方ではありませんか。私はきちんと調査して報告しています。問題点がない以上、それを報告書にするのは当然でしょう」


エクレアは興奮するバルモアを、馬鹿にするように答える。バルモアも馬鹿にされていると感じて、さらにヒートアップする。


「いい加減な報告をするな! これ以上言う事を聞かないと宮廷魔術師から追い出すぞ!」


「いい加減な報告とはどこの事ですか! それをあなたは証明できるのですか!?」


これまで不満があっても、国の為にも我慢してきたエクレアだったが、今回のバルモアの横暴ぶりには我慢の限界だった。


バルモアも予想外のエクレアの反応に動揺する。

しかし、引き下がれなくなったバルモアはさらに露骨な要求をする。


「私の言うとおりの報告書を書けば良いのだ。それができないなら宮廷魔術師の称号をはく奪する!」


エクレアは微笑んでバルモアに返事する。


「わかりましたわ」


バルモアは漸く目的が果たせるとホッとした。


「あなた達も聞きましたね。嘘の報告書を書かなければ、彼は私を宮廷魔術師から追放すると言いました。私は嘘の報告書を書けませんので、私は宮廷魔術師を辞めます!」


これにはバルモアも焦ってしまう。

国王陛下と宰相からエクレアに調査させよと言われていたのに、本人が辞めたとなれば、その経緯を調査される可能性が高い。


何とかしなければならなかったが、頭を下げたくないバルモアはどうするか対応を考えていると、他の魔術師の女性が宣言する。


「私も辞めます!」


すると次々とエクレアを慕う魔術師達が一緒に辞めると言い出した。


エクレアを慕う魔術師は優秀な者が多かったが、バルモアの言う事を聞かないために、優秀だったが不遇な立場の者が多かった。

エクレアの辞めた宮廷魔術師への未練などなかったのだ。


バルモアさらに追い詰められてしまった。

迷っていると、ますます同調者が増え、宮廷魔術師の半数以上が辞めると言い始めてしまった。


バルモアは仕方なくエクレアに謝罪して、改めて話し合おうと思った。しかし、その前にエクレアがバルモアに言う。


「それでは、後はご自由になさってください」


それだけ言うと部屋を出て行こうとする。

バルモアは引き止めようとしたが、次々と他の魔術師が自分に文句を言ってエクレアの後を追うので、引き止める事もできなかった。


宮廷魔術師の部屋から半数近くの魔術師が居なくなり部屋が静かになると、バルモアの取り巻きの魔術師がバルモアに声を掛ける。


「ま、不味くありませんか?」


(不味いに決まっている!)


バルモアは焦り過ぎて最悪の状況になったと自分でも理解していた。しかし、金や地位に興味のないエクレアを説得する方法が思いつかないのだった



   ◇   ◇   ◇   ◇



バルガスはテンマから頼まれて冒険者ギルドでギルマスと会っていた。


「その事か、白いウルフ系の従魔を連れていると聞いて、すぐにドロテア様の知り合いのテンマ君のことだと気が付いたよ。

すでに、問題ないから気にするなと通達を出してある。他に要求はあるのか?」


バルガスはギルマスのドロテアに対する忖度に驚いていた。


「い、いや、念のために報告に来ただけだよ」


バルガスは頼み込まなくても、勝手にギルマスが忖度してくれたので、テンマから色々と譲ってもらって儲かったと思った。


「バルガス、テンマから話がしたいと連絡があった」


ミーシャは文字念話でテンマから連絡があったのでバルガスに伝えた。


「おっ、なんだ、どこに行けば良いんだ?」


バルガスの質問にミーシャは自分のキツネ耳を指差す。


バルガスは意味が分からず不思議そうな顔をする。


「バルガスさん、キツネ耳を付けないとダメだよ!」


ジュビロがミーシャの意図をバルガスに伝える。


バルガスも漸く理解したが、不思議そうに自分達を見ているギルマスに気が付いて、この場でキツネ耳を付けるのを躊躇う。


「早くしろとテンマが言ってる!」


容赦のないミーシャの発言に内心で勘弁してほしいと思ったが、それほど急ぐなら何か緊急事態の可能性もあるので、諦めてキツネ耳を取り出して頭に着ける。


ギルマスが目を見開いて驚く姿を見て、バルガスは頬が熱くなるのを感じた。


『バルガスぅ~、聞こえているかぁ~、チ○ンチンの小さいバルガスぅ~』


『「だれのチ○ンチンが小さいだぁ!」』


キツネ耳を付けると同時にテンマからの念話が聞こえてきた。バルガスはその内容に興奮して念話だけでなく、大きな声まで出してしまった。


しかし、正面のギルマスに恥ずかしい文句を言っているように見える。


「バルガスさん、それはさすがに……」


「ちょっとぉ~、女性のいる前で恥ずかしいこと言わないで下さい!」


タクトは呆れたように呟き、リリアは頬を赤くしてバルガスに文句を言う。


『「違う、誤解だ!」』


『否定の誤解だから、やっぱりチ○ンチンは小さいのかぁ~』


『「いい加減にしろ! 俺のはピィーーーだぁ!」』


バルガスはまた大きな声で恥ずかしいことを叫んだ。


「いい加減にして下さい! マリアさんに報告しますよ!?」


リリアが本気でバルガスに文句を言う。


「バルガス、本当に大丈夫なのか……?」


同情するように目でギルマスが呟く。


『「違う、違うんだぁーーーー!」』


『違うの違うだから、やっぱりチ○ンチンは小さいのかぁ~』


容赦のないテンマの冷やかしだった。



お茶を用意して部屋にネフェルが入ってくると、ギルドマスターがバルガスの頭を叩き、リリアが顔を真っ赤にして目に涙を溜めているような状況だった。


「ど、どうしたんですか!?」


「ネフェルさ~ん、バルガスさんがついに変態オヤジになっちゃいましたぁ~」


「ま、待ってくれ、誤解だ!」


バルガスは必死に言い訳をしようとする。

しかし、魔道具については詳しく話せない約束になっているので説明のしようがなかった。


タクトがミーシャに、魔道具のことを話す許可を貰えないかテンマに聞いて欲しいとお願いしようとするが、ギルマス達の前ではそれさえも上手く話せなかった。


そんなタクトを見てジュビロが呟いた。


「自分で伝えれば良くないか?」


「先に言えよ!」


タクトとジュビロまで揉め始め、収拾がつかない状況になるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



『「それで、話はなんだ!?」このクソガキ!』


事情を話してギルマスとネフェルが納得してくれた。


バルガスはこめかみをピクピクさせながらテンマに念話で質問する。

バルガスはシルの初めての念話の時より上手く念話を使えないようで、必ず声に出てしまっているし、心の中で考えたことがテンマに伝わっていた。


『クソガキは失礼じゃないかな?』


『「悪いな、念話が上手く使えないんだ」先に言っとけよ!』


『(チ○ンチンは小さいと心まで歪んじゃうんだぁ~)』


テンマは念話を失敗した振りをして、またバルガスを冷やかそうとする。しかし、バルガスは我慢してテンマに再度質問する。


『「そ、それで、話とは何なんだ!?」お前こそ小さいんじゃないのか!』


『昨日聞き忘れたんだけど、隠し部屋や宝箱について聞こうかと思ってね。(バルガスよりは大きいぞ)』


テンマは話の最後に悪口を追加して念話する。


『「隠し部屋は5年か10年ぐらい前に発見されたが、最近は発見されていないぞ。隠し部屋にも宝箱はあったらしいが、他にもダンジョンで宝箱は発見されている」普段の行いの悪いお前には見つけられないだろうがな』


『あれ、そうなんだ?(普段の行いの良い俺は、昨日も隠し部屋と宝箱を発見したけどね)』


『「なんだとぉーーー!」』


『(今日も発見してなんとエリクサーを見付けちゃった。てへっ)』


『「エリクサーだとぉ!!!」』


バルガスの叫び声で、今度はネフェルも一緒に収拾がつかない状況になるのだった。

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