Recollection-11 「前兆」

ザッ ザッ ザッ ザッ、、、、


ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ、、、


小さな山の麓にある獣道にも似たこの酷い道は一周すると約5kmある。


日が昇り始めて直ぐに走り出し、既に6週目も終わりに近付いた時、僕の心臓は限界だと悲鳴をあげた。  


走るのをやめて、歩いて仮宿舎の方へ向かう。


(、、まだまだだな僕は。)


彼は自分ではそう思っていた。



シーヤとマリーが家に遊びに来てから2ヶ月弱余りが過ぎていた。秋の風が吹き始め、木々が少しずつその姿を変え始めている。


コルメウム城の東側にある小さな山「ディギトゥス・ミニムス山」


この山の山腹には仮宿舎があり、近くには小川もあるので漁や狩ができれば生活も出来てしまう。


ここが専ら見習いの護衛団員が身体を鍛え、剣術指導を受ける場所だ。


あれから直ぐに入隊許可の出た僕は、朝はここで走り込みをする。  


先生隊長から、先ずは体力作りと足腰の訓練の為の走り込みが主軸だと言われたからだ。


遠くから、良く通る声が飛んできた。


「イェット!遅ぇぞ、早くしろよ、メシなくなっちまうぜえ?」


その声は粗暴だが、なんだかんだ僕を気にかけてくれるいい奴、短髪の黒髪に榛摺はりずり色の瞳の男がいた。


「ハァッ、 イグナッ、ハァッ 凄いね、、ふう、流石だよ。」  


「まぁな! 体力だけは負けないぜ?」


イグナ・シーガードは僕の幼馴染の1人だ。


僕が護衛団に入隊すると話すと、水クセェな!と言いながら入隊を申し出た。


エトナの民以外が入隊の申し出をする事は少なくない。愛国心が強いのだ。それもオズワルド王の人柄を表している。


イグナと一緒なら心強い。だけど頼りっぱなしは駄目だ。イグナに負けない様、僕自身が強くならなくては。


もしかしたら、この感情は「エトナの民としての誇り」だったかもしれない。


それとも、3ヶ月前は立ち尽くす事しか出来なかったあの経験が「護れる様に強くなりたい。あの時の四神の様に。」と、僕を駆り立てるのかも知れない。


そう思いながらも、イェットは胸の中の「笑顔の女の子」こそが最大の理由だと気付いていた。


今は無理でも、いつかは、、。




「おいテメェ等! 早く食っちまってくれよ! 片付けがいつまでたっても終わンねーンだよ!私もこの後学び舎行かなきゃなンねーンだからよ!」


仮宿舎に着くと、癖っ毛を後ろで結った、一際背の低い榛摺色の瞳の口の悪い女の子が朝食の準備をしてくれていた。


彼女はノーア・クリストファー。14歳で、マリーの友人でもある。


「おいイグナ、お前はいつも食うの急ぎ過ぎだから喉詰まンねェ様に気ィつけろよ!? それからイェット、テメェはしっかり食って身体作ンな!」


「へいへい、わぁーてますよノーアの旦那ぁ。」


「わかったよ、ノーア。ありがとう。」


ふんっ!と腕を組み顎をあげて片目でこちらを見るノーア。何だかんだ言って、彼女は僕等を気に掛けてくれている。


彼女は2ヶ月程前、丁度僕等が入団した後に調理員兼世話役を買って出てくれた。


きっと彼女なりの理由があるのかも知れない。




今日は麦パンと羊の乳、牛の干し肉が2切れ。


干し肉をかじりつつ、麦パンをかじって羊の乳で流し込む。こういうのでいいんだよ。


走り込みを始めてからか、少し物足りなく感じる。育ち盛りだからかな。


「そんなに急いで食べて大丈夫か?急がなくても、誰も盗ったりしないよイェット?」


いつの間にか目の前に座っていた、襟足を結った黒髪に鳶とび色の瞳、がっしりした体型の彼はプロディテオ・カートゥ。


僕達より3歳年上の17歳の先輩だ。僕とイグナが入隊してから面倒を見てくれている優しい人だ。


「おっ!早速イャットとイグヌに先輩風吹かせてますねブロディさん。流石〜!」


次いでやって来たのは前髪で片目が隠れている、黒髪で栗皮くりかわ色の瞳の背の低い彼はドルチス・モルテン。2歳年上の16歳の先輩だ。皆にはドリーと呼ばれ親しまれてる。


「そんなんじゃないよ。大切な、数少ない後輩だからな。あと、いい加減名前を憶えてやれよ、イェットにイグナだ。あと、俺の名前も若干違うんだ、、。ブ、じゃない。プ、だ。頼むぜドリー。」


プロディテオは笑顔で3人の顔を1人ずつ見ていった。


「流石ですねプロデ、、プロデォさん!!いやあ申し訳ない!」


「、、今ワザと間違えたろこの野郎ドリー!」


プロディはドリーの首に腕を回し、拳で頭をグリグリしている。


「ったく、ドリーさんにゃ敵わんぜ!」


「そうだね、本当に。」


ドリーもプロディテオを信頼し、慕っていた。


僕達も先輩達が大好きだ。


「早く食えってンだテメェ等ァッッ!」


そう言うとノーアはズンズンとイグナの所へ行き、ヒョイと残っていた干し肉を一口で食べてしまった。


「あ!ちょっ、うわぁ、、そりゃないぜノーアの旦那ぁ、、俺ぁ好きなモノは最後に取っとく主義、、」


ゴクリと喉を鳴らして干し肉を飲み込んだノーアが可愛い顔をワザと小憎たらしい顏にして言う。


「お前のその主義が災いしたなぁ、えぇ⁉︎ イグナ?」


「そりゃないぜ旦那ぁ、、」


「その旦那ってのやめろ!女だぞ一応。」


「一応って何すか? 実は付いてたりするんすか?や、前から思ってたんすよねぇ、マリーは胸凄いのに、旦那はペチャンコっすもんねぇ、、身体洗う時、手拭い綺麗になんないっすか?ほら、洗濯板みたいっすから!」


「イグナお前ぇ、、死にてェらしいなァ!!」


この2人の会話は、まるで夫婦の様だ。


皆、笑っていた。




これがずっと続けば良かったんだ。




そこへ、2人の男がやって来た。


1人は黒髪に黒い瞳の男。


もう1人は


翡翠色の髪に飴色の瞳の隻眼の男だった。




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