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駅までの道のりを並んで歩くも、日下さんは前を向いたまま何もしゃべってはくれない。
「あの、日下さん、どうかしたんですか?最近ずっと元気ないですよね?」
「そうかな?」
「そうですよ。金木犀にも行ってないですよね?」
日下さんはようやく私の方を向き、泣きそうな声で呟いた。
「……ねえ芽生、俺のこと笑わせてくれるんじゃなかったの?」
「え?」
「……俺のこと、笑わせてよ」
今にも消えてしまいそうなくらい切なく寂しそうな顔をする日下さんを見て、私は心臓が押し潰されそうになった。日下さんに何があったかわからないけれど、とにかく日下さんを笑わせなくてはいけない。
「え、えっと、急に言われると難しいですね。じゃあ変顔します。いきますよー、せーのっ」
精一杯の変顔をしてみせると、日下さんはほんのり口の端を上げ、耳元に口を寄せた。
「芽生、抱きたい。今、すぐに。いい?」
その言葉に全身鳥肌が立つ。
私は返事の代わりに日下さんの手をぎゅっと握った。そうしないと日下さんがどこかに行ってしまいそうな気がしたから。
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