比べないで

080



最近気づいていた。

日下さんの左手の薬指、指輪がない。

会社に来るときは必ずしていたというのに。


最初は見間違いかなと思った。

珍しく忘れたのかもと思った。

だけど違うみたいだ。

やっぱり今日も指輪がない。


そしてもうひとつ大事なこと。

日下さんの笑顔もなくなっていることに気づいてしまった。


悲しそうに笑うことすらなく、ただ淡々と仕事をこなしているように見える。


聞いていいものか躊躇ってしまう。

ただ私の思い過ごしならいいけれど、また勝手にいろいろ想像して日下さんを困らせるのもよくない。


だけどふらりと立ち上がった日下さんに生気が感じられなくて、私は慌ててパソコンを閉じて後を追った。仕事なんかより日下さんのことが心配でたまらないのだ。


「日下さん、一緒に帰りませんか」


「いいよ」


日下さんは短く返事をすると、そのまま前を向いて歩き出した。

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