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もそもそと食べる日下さんを見ると何だか悲しい気持ちになる。


愛する人に旅立たれた日下さん。その悲しみは生半可なものではないだろう。香苗さんだって愛する人を残してこの世を去った。さぞかし無念だっただろうな。もしも私がその立場だったらどうするだろうか。


「……もしかしたら、奥様はあえて何も残さなかったのかもしれないですね。写真も手紙も、残してしまったらそれに囚われてしまう気がするから。私も、愛する人を残して先に死んでしまうなら、その人には私に囚われず好きに人生を歩んでほしいと思う、かな。なんて、理想論ですけど。……実際その立場になったら私はやっぱりそんな気丈に振る舞えないかも。香苗さんはすごい人ですね」


「……ごめんね、芽生」


「いえ。食べましょう!マヨネーズいりますか?お腹がいっぱいになると人は幸せになるんですよ」


私は精一杯の笑顔をつくってみせた。


日下さんの心の中には香苗さんがいる。それも、私なんかじゃまったく手の届かないところに。もしかしたら日下さんは私を通して香苗さんを見ているんじゃないだろうか。そう思ったら急にやるせない気持ちになった。


「日下さん、またご飯行きましょうね」


「ああ、そうだな」


私の言葉に頷いてくれる日下さん。

今はそれだけでいいや。

多くは望まない。

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