055

その後、奇跡的にドナーが見つかり手術をすることになった。余命半年だと言われていたけれど、手術をしたことによりそれがなくなった。心底ほっとした。


薬の副作用で髪の毛は抜けてしまったけれど、香苗はそれを悲観したりしなかった。


「ねえ、私の誕生日プレゼントリクエストしていい?」


「いいよ」


「可愛い帽子がほしい。これあんまり気に入ってないんだよね」


「どんなのがいいの?」


「暁くんのセンスに任せる」


「それはプレッシャーだなぁ」


香苗は以前と何ら変わらない。

一時は落ち込んだ俺だったが、香苗の前向きさに逆に励まされて普通に接することができるようになった。


香苗は退院して自宅に戻ったけれど、入院していた分を取り戻すかのようにデートの誘いが絶えなくなった。あまり無理はさせられないけど、香苗が行きたいところには連れていってやった。


俺は無事に就職も決まって、香苗は金木犀でお祝いをしてくれた。その頃の香苗は以前にも増してすっかり元気で、来月には大学に復学したいと目をキラキラさせながら語った。


それはもう近い未来。


まさかその数日後にまた香苗が入院すると、誰が想像しただろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る