第三十五話 禁断のキス
Side 風紀委員長 飯野加奈
放課後になった。
三重野晴と雪度マリが会うことになっているのは、校舎裏だ。
校舎裏は、大木があって、周りかっらは見えにくくなっている。だが、言い換えれば、その大木に隠れれば、二人が一緒にいるところを相手に気づかれずに観察できるということでもある。
校舎裏に飯野加奈は急いだ。できれば、三重野晴が来るより前に現場についておきたい。
何とかその甲斐あって、彼女は間に合った。木に隠れ、スマホで写真を撮る準備をする。
ほどなく雪度マリも現れた。彼女は、飯野加奈の存在には気づいていない。木のそばで、三重野を待っている。
マリは緊張しているようだ。そわそわしながら、何回も自分のスマホを見る。
見るだけで、何も送ったりはしていない。
15分経過したが、彼はやってこない。
おかしい…彼とちゃんと約束したのだろうか?
30分経ったところで、マリがあたりを見回し、大声で加奈を呼んだ。
「カナちゃん、来ませんよ!」
飯野加奈も木の陰から顔を出す。
「そうね…彼から連絡は?」
マリは答える。
「ありません。あ、メールが今来ました。」
飯野加奈は聞く。「何て書いてあるの?」
「えっと…」マリは躊躇した。
その時、飯野加奈のスマホが振動した。若芽から電話がかかってきたのだ。
飯野加奈は急いで電話を取る。
「はい。飯野です。まだ来ていません。 どういうつもりと言われましても…はい、お待ちしています。」
業を煮やした若芽が直接やってくる。呼びつけるのではなく、現場にやってくるのだ。
若芽に怒られる…飯野加奈は恐怖で背筋が寒くなった。
自分があがめる元生徒会長のご令嬢、大岩若芽に直接頼まれた依頼をこなせない。
とすると無能のレッテルを貼られるかもしれない…。
怒った若芽がやってきた。色が白いので今日はまるで夜叉のように見える。美しい顔が台無しだ。五人パシリの一人、左右田勝男も一緒だ。彼は、きょろきょろしながらついてきた。 どうせなら雪度圭太を連れてくればよいのに…などと飯野加奈は考えたが、そんなことはどうでもいい。
歩いてくる若芽に、雪度マリとともに近づく。
「飯野。どうなってい…きゃあ」
歩いてくる若芽の足に、雪度マリの足がひっかかったのだ。
加速がついていた若芽は、前につんのめった。
このまま若芽を倒すわけにもいかない。
飯野加奈は、全力で若芽の体を受け止めようとする。
その瞬間、飯野加奈の視界に、若芽の顔が大写しになる。
と思うと、唇に柔らかい感触があった。
倒れてきた若芽を支えようとした二人は、出会いがしらにキスすることになったのだ。
そしてそのまま、飯野加奈は後ろに倒れる。若芽はそのまま、飯野加奈の上に乗っている。
頭は打たなかったが、背中が痛い。その一方で、体で感じる若芽は、意外に軽いが、柔らかくてよい感触だ。それに、そこはかとなく良い香りもする。香水だろうか?
飯野加奈は、反射的に若芽の体を抱きしめた。
結果として、またキスするような感じになってしまった。
飯野加奈は、その快感に我を忘れそうになった。女性の体と唇はなんと気持ちよいのだろう。
十数秒ほどしてから、マリが近づいてきて、若芽に声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
なぜか手にスマホを持ったままだ。
「私は大丈夫よ。」若芽はそういって、マリの手を借りて起き上がった。
飯野加奈は、できれば若芽の体をもっと味わっていたかったが、そうもいかない。
気づいたら、背中が痛い。
スマホを持った左右田勝男が、飯野加奈を起こしてくれた。
「大丈夫ですか?保健室に行きましょうか?歩けますか?」
左右田が言ってくれた。
飯野加奈は答える。
「お願いします。でも歩けそうにない。」
左右田は言う。
「わかった。じゃあ、連れていくから、ちょっと我慢してくれ。マリちゃん、先に保険審室に行って、受け入れてもらうように準備して。」
「行ってきます。」
そういって、マリは校舎に走っていった。
左右田勝男は、飯野加奈をゆっくりと抱き起こし、御姫様抱っこした。
「ちょっとの辛抱だから、我慢してくれ。」
彼の声が頼もしい。
意外にたくましい勝男に御姫様抱っこされた飯野加奈は、半分夢心地で、左右田勝男に身をゆだねた。
若芽とのキスも、若芽との抱擁も素敵だったが、逞しい左右田勝男の腕の中も悪くない。というか、ずっとこうしていたい。
堅物だった飯野加奈は、この日、二つの性癖に同時に目覚めてしまったようだ。
女性の体も、男性の体、どちらも素敵だ、と。
風紀委員長の彼女が、その後煩悶することになるとは、その時は自分でも予想できなかった…。
Side 三重野晴
俺は、現場に向かう前に、ふと思い出して、ポケットの中の手紙を見た。昼までに読んでくれ、とおかっぱ眼鏡ちゃんに言われていたが、すっかり忘れていたのだ。
読んでみると、こう書いてあった。
「雪度マリからの呼び出しは、若芽元会長の罠。現場を風紀委員が押さえてあなたを断罪する予定。証拠写真も撮る。気を付けて。」
俺は驚いた。彼女がどうやってそれを知ったのか。果たしてこの書付は事実なのかとも疑った。
だが、彼女がわざわざ俺をこうやってだます理由がない。だますならもっと楽な方法が沢山あるはずだ。
俺はスマホを取り出し、充電を始めた。
そして、左右田麗奈からメッセージが入っているのに気づいた。
左右田麗奈からは「雪度マリちゃんの呼び出しは、風紀委員が現場を押さえるためのもの。気を付けてください。」と。
俺は、麗奈に電話をした。雪度マリにメールを転送してほしい、と。そして、そのメールはすぐ削除しるように伝えてくれ、と。
「俺は今日はいかない。ワカメちゃんが来たら、足をひっかけて、風紀委員と抱き合うようにしてくれ。できればその状況を写真に撮ってくれるとありがたい。」と。
俺は、左右田勝男にもメッセージを送った。
「あとでワカメちゃんが風紀委員と抱き合うから、写真とかビデオを撮ってくれ。:
彼からは「Yes, sir」というスタンプが返ってきた。
疑問をいわないパシリ気質はありがたい。
俺は、そのままバイトに向かったのだった。
店に着くと、希望が迎えてくれた。
「意外に早かったのね。ちゃんと話を聞いてあげた?」
希望が笑顔で聞いてきた。
ここはウソをつくわけにもいかない。
「いや、ブッチしてきた。」
希望の顔色が変わる。
「何それ! ハルくん、女の子を傷つけて平気なの?」
俺は反論をこころみる。
「いや実は…」
「聞きたくありません。」
とりつく島がない。
こういう時はとりあえず放っておくしかない。
いくら言っても、火に油だ。
これは、うちの母から学んだことだ。正確に言うっと、うちの母に対処する父から学んだことだ。
女性が怒ったときには論理は通用しない。話を聞かないから、とりあえず放置しておくしかない。頭が冷えたところで話をする、というものだ。
それでうちの家族はとりあえず円満にやれているのだから、一つの正解なんだと思っている。
休憩時間にバックヤードでスマホをチェックする。
左右田麗奈から写真が来ていた。ワカメちゃんと女の子が地面に倒れて抱き合っているところだ。ワカメちゃんのスカートがめくれあがって、パンツが見えている。画面が小さくておよくわからないので、あえて拡大してみたが(笑)どうやら上質のシルクのようだ。まあ実はわかっていないが。どうやら、雪度マリは直前のミッションをちゃんと果たしたようだ。
左右田勝男からもメールが来ていた。こちらは、ワカメちゃんと女の子のキス、それから地上で倒れた二人の写真だ。こちらはスカートが戻っている。
どちらも顔がばっちり映っているので、使える。さてどうしようか。
俺は考えて考え抜いたところで休憩時間が終わる。
バイトをあがろうとしたとき、オーナーから声をかけられた。
今日は閉店までいてほしい、というのだ。夜の人間が少なく、希望には頼みにくいという理由だった。。それはそうだろう。慣れている莉乃ならともかく、希望には遅くまで働かせるわけにはいかない。
俺は快諾した。いずれにしてもオーナーと話がしたかったから。
希望の機嫌はおさまったようだが、話をする暇がなかった。ここはあとでじっくり説明するしかないな。
店は八時で終了した。掃除、片付け、ゴミ捨てなどをする。オーナーは売上金の確認をする、ただし、いまはレジが出入金を自動で計算してくれるので、計算上の残高と実際の金額を確認するのは簡単だ。あとは、現金を近所のATMで預けtしまえばよい。オーナーは近所のコンビニのATMを使っているのでセキュリティ上もそれほど心配ない。
八時半にはほぼ終わった。あとは電気を消して鍵を締めるだけになったところで、俺はオーナーにあるお願いをする。
オーナーはしばし考えていたが、決心してOKした。あとは、俺の仕事だ。ちゃんと残りの材料を確認し、実行するのみだ。
俺はぼっちで、何もしないはずだったのに、何故こんなことをするのだろう。自分でもよくわからない。変われば変わるものだ。
まあ、急激に変化したものは、急激に元にっ戻る、ともいう。
そのうち、俺はまたぼっちに戻るのかもしれない。
ちなみに、体重についても同じことが言える。
急速に短期間でダイエットした場合には、同じ時間軸でもとに戻る。
俺は、これを「ダイエットにおけるアルジャーノンの法則」と呼んでいる。
ちょっと話がそれたな。
俺はこれからどうなるのだろう?俺自身にも見当が付かない。楽しめるか、貶められるか、ぼっちに戻るのか。
とりあえず、イルカに祈っておくか・
ーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
ダイエットにおけるアルジャーノンの法則。わっかるかな~ わっかんねえだろうな~(笑)
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