第十二話 最初(?)のキス
月曜日、例によって桜でんぶハートの愛妹弁当(こんな言い方あるのか)を、美女三人と食べていた。
おかずのおすそ分けもすでに固定された手順になっている。
いちおう、「イルカへのお供え」という建前で落ち着いたらしい。まあ、もらえるなら半分欠食児童のような俺としては文句はない。 子ども食堂かよ。
ランチでは、珠江の陸上記録会の話で盛り上がった。なんと、二種目も新記録でぶっちぎりトップだったそうだ。
「珠江ちゃん、凄いね。」と俺が言うと、
「これはハルくんのお陰なんだから。ガゼルも、イルカもね。」
と答えられた。
イルカは加護の話だと思うが、ガゼルってなんだろう。まあ、いいんだが。
「放課後、生徒会室に来てくれる?」香苗が言ってきた。
「いいけど、なぜ?」俺は問いかける。
「あしたのお弁当の打合せしたいのよ。あと、生徒会の仕事が多くて、ちょっとだけでも手伝ってくれると嬉しい。」
香苗が答える。
「ごめん、私は今日、約束があって。」希望が片手で謝ってくる。
「希望の手は期待してないよ。あなたは手を動かすより歌ったりお菓子食べたりするほうが多そうだしね。」
結構辛辣な言葉だな。だが、希望は自分の頭をちょっと叩いて、「てへ、バレたか」といって舌を出した。 おお、これがかの有名なてへぺろか。かわいい子がやると絵になるなあ。
珠江はどうせ練習があるだろうから、あえて香苗も聞いていない。べつに、それで誰も問題だとは思わない。むしろ練習頑張ってほしい。
放課後、すでに習慣にしている歯磨きをすませてから生徒会室に行く。
中には、生徒会長の山口秀(やまぐち しゅう)と、もう一人良く知らない女子が居た。
山口が俺に手をあげて合図する。
「やあ、三重野くん、忙しいところ悪いね。会計の子が風邪で寝込んでてね。事務作業と打合せ、同時進行でやらないといけないんだよ。少しでも手伝ってくれるなら、とてもありがたいよ。本当にありがとう。」
そう言ってイケメン山口は俺に頭を下げた。こういうことができるのもイケメンだからなのかな、などと思いつつ、俺は
「いや、大丈夫だから気にしないでくれ。邪魔しない程度に手伝うよ。」と答える。
香苗ちゃんが俺にもう一人の女性を紹介する。小動物っぽい、目がくりくりした背が低めの女の子だ。
「三重野くん、彼女は生徒会書記の若原瞳さんよ。」
若原瞳は、俺の目をじっと見てから頭を下げた。
「若原です。よろしくお願いします。」そのあと顔を上げたが、その目は俺の胸のバッジに注がれていた。
「じゃあ、僕らはそろそろ行くよ。あとはよろしく。」会長の山口はそう言って手をひらひらさせながら生徒会室を出ていく。その横に、書記の若原瞳がぴったりついていく。
いかにも「離れません!」と宣言しているような感じだ。
二人が出て行ったので、俺は香苗に対峙する。
「打合せが必要なのかな?」
香苗は答える。
「明日はBLTでいいわよね?」
俺には意味がわからない。「あの、BLTって何ですか?」何となく敬語になる。
「ベーコンとレタスとトマトを挟んだサンドイッチよ。文句ある?」
「いえいえ、めっそうもございません。よろしくお願いいたします。」
打合せってこれだけかよ。
「打合せなんてどうでもいいし、生徒会の仕事は私がやっとくわ。それより、聞きたいことがあってあなたを呼んだのよ、ハルくん。」
彼女は真剣な目をして俺を睨んだ。長い黒髪が風もないのに揺れるのがちょっと怖い。美しい顔立ちだが、氷のような目で睨んでくる。
「何だい?俺の態度に問題でもあったのかな?」
俺は平静を装って答える。だが、心臓がちょっとドキドキしている。何を尋問されるのだろう。
香苗は言う。「単刀直入に聞くわ。HKHPってなんのこと?」
俺はちょっとびくっとしたが、何とか答える。
「希望ちゃんが言った通り、ハルくんをカッコよく変身するプロデュースだよ。」俺は答えた。
「ウソは駄目よ。HKHPのことを希望が言及したよね。あのときのハルくんの反応は、明らかにおかしかった。焦ってたよね。それで、希望がハルくんの言う略称を言ったら、ハルくんは明らかにほっとしてた。これは、違う意味があるからよね。」
ご明察だ。
「私はね。ウソをつかれるのが嫌いなの。とくに、希望とあなたがよからぬことを企んでるのなら、生徒会の総力を挙げて全力で阻止するからね。覚悟しなさい。」
彼女の目は真剣だった。
俺は結局、HKHPの内容について話した。「妹」原中理恵のキス目撃から始めて、キス放題の内容まで。
そういえば、希望に口止めされたかな?あまりされてないかも。まあ、こんなこと他人に話すわけないからもともとそんな話もしなかったのかな。
「キス放題、ねえ。」香苗は呆れたようにつぶやいた。
「で、ハルくん、希望とはキスしたの?」いきなり香苗は特大の爆弾をぶち込んできた。
俺は慌てて首を横に振りながら、右手も左右に振った。両方同時にやると、なんだかおもちゃみたいだ。「いやいやまさか。」
「キスは、欧米ではただの挨拶。たしかにその通りね。家族でだってしてることがある。希望は、ハルくんが女子にキスしてもらうための環境を整えてくれてるわけね。」
俺は首を縦に振った。
「うん、その通りだよ。だんだん心構えができてきた。」
香苗は微笑んだ。「そう、よかったわね。じゃあ、あとは実践練習あるのみね。
俺には意味がわからなかった。実践練習?ぬいぐるみとでもキスするのか?
「ハルくん、こっちに来て。」香苗はそういって、生徒会室の作業机の椅子に座っていた俺を呼んだ。
俺が香苗のほうに近づくと、
「うん。そこでストップ。動かないでね。」
香苗はそういって、俺を立ち止まらせる。
そして、俺のほうに来ると、横を通り抜けて後ろへ回る…
ように見えた瞬間、香苗はちょっとバックステップして、俺の頭を両手で固定し、俺の唇に彼女の唇を合わせてきた。
やわらかい感触が俺を包み込む。ちょっとミントの香りがした。
俺は、あまりのことに驚いて硬直した。時間にして2,3秒後だろうか。彼女は俺から離れた。
「うん、最初はそんなものね。下手に動かないほうがいいよ。手もそのままでいい。あくまで、ハルくんはキスされる側なんだからね。」
俺はまだ信じられなかった。あの高橋香苗が俺にキスしてきたなんて。
「何ぼうっとしてるのよ、ハルくん。キス放題目指すんでしょ。私としっかり練習しましょうね。」
え?練習?
「そう。練習よ。ハルくんと私のキスは、ノーカン。これは恋人どうしの愛を確かめあうキスじゃなくて、ただの挨拶の練習。だからノーカンよ。ハルくん、もしファーストキスがまだだったとしたら、まだあなたのファーストキスは実現してないわ。」
俺は混乱しながらも、何となく理解した。
香苗は、単純に俺がキスしたいなら、といって他の女の子とキスしたときに失敗しないよう、練習台になってくれているんだ。
なぜそこまで?とも思うが、協力してくれることはありがたい。
「今のは、ちょっとぎこちなかったわね。もう一回練習しましょう。」
香苗はそういって、また俺にキスしてきた。
今後は頭には手を回さない。俺が逃げないとわかっているからなのかな。そのかわり、唇を合わせながら、体をだきしめてきた。
キスの感触も嬉しいが、香苗の巨乳が直接俺の胸板にあたる。これ以上はいろいろまずそうだ。
柔らかい唇の感触は、まるでマシュマロか何かのようだ。だがもっと弾力がある。むしろこんにゃくゼリーかもしれない。シャンプーのいい香りもする。
今度は十秒くらいはキスとハグをしていただろうか。俺はうっとりとしてしまった。まるで天国のようだ。女の子ってこんなに気持ちよいのか。
香苗は、俺から離れると、背を向けたまま言った。
「もう、帰っていいわよ。仕事は、私がやっとく。 明日もいらっしゃい。もう少し練習しましょう。」
香苗の声がちょっとうわずっていたのは、多分気のせいだろう。
「わかった。香苗ちゃん、今日はありがとう。感謝するよ。明日もよろしくね。
俺はそう言って、生徒会室のドアを開けた。出るとき、振り向いて彼女の様子を見たが、背中を向けたままだったので、彼女の表情はわからなかった。ただ、ちょっとだけ肩が震えているような気がしたが、たぶん気のせいだろう。 いつもクールな彼女のことだし、これくらいで照れたりしないだろう。
俺ですらもう落ち着いているんだから。
こうして、HKHP,ハルくんキス放題プロジェクトの実践練習がスタートしたことになる。あれ、でも俺のキスはノーカン、なんだよな。
ということは、俺のファーストキスは、いったいいつになるんだろうか。ああ、相手だけノーカンにしてもらうのもありかな?でもそれもフェアじゃないような気がする。 よく
まあ、香苗とはまたキスすることになるんだろうから、急いで定義して選択肢を狭めることもないのかもしれない。
遠くから、生徒会書記の若原瞳の声がかすかに聞こえた。振り向いてみると、俺の後ろ側の廊下の突き当りのところで、若原が会長の山口にじゃれついている。
なんだか青春ラブコメみたいだな。だが向こうはイケメンハーレム系主人公っぽい、などと思いつつ、俺は帰途についた。 妹の笑美に、弁当の感想を伝えないとな…そう思い、足を速めることにした。妹はバド部の練習があるから、まだ帰ってはいないだろうが。
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