@yamatenryo

ちょうちんかんかん

ちょうちんかんかん(1)

 赤い花を見ると、あの日のことを思い出す。


 薔薇バラの花束。少し高級なレストラン。月に照らされた夜景。

 手から零れ落ちた、指輪。


 あれから三年が経っても、忘れることはできない。



 研究所からの帰り道、宏樹は信号待ちの集団の後ろの方に立っていた。

 ふと、彼女の匂いがしたように感じて、周りを見渡す。

 隣に立つ女性と目が合った。高校生くらいの少女だ。

 キョロキョロする宏樹を、怪訝そうな顔で見上げていた。

 数秒見つめてしまい、慌てて前を向く。


 彼女に似ている。

 そう感じた。

 どこが似ているのかは分からない。

 ただ、この少女から、あの香りがした。


 いつの間にか、信号が青になっていた。

 少女はもう交差点の真ん中にいた。


 後ろ姿が彼女だった。


 あの日以降、彼女の姿を見ることはなかった。

 連絡もつかない彼女を探すのを止めたのはいつだっただろうか。


 宏樹は追いかけるように歩き出した。


「あっ」


 身体に重い衝撃が走った。

 信号が赤になっていたことに気づいたところで、意識が途切れた。

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