第184話 その2

 お茶を手に、千秋は資料課の現状を2人に訊ねる。


「うんまあ、簡単に言えば姥捨山だね。あとは定年を待つばかりの人がまわされる部署だ。業務内容は年に1回総務課からまわってくる前年度の業績をまとめる事だね」


「あとは何か」


「しりとりと休憩かな。でも退社時間までは居ないといけないよ」


「えっ…と、失礼ですがどちらかが課長なんですか」


茶をすすりながら町屋と塩尻は顔を見合わせる。


「課長はいない」


その言葉に千秋は驚くが、町屋は言葉を続ける。


「僕は課長代理で塩尻くんは課長補佐という肩書きだ。というのも僕と塩尻くんは同期でね、業績もまあまあ一緒なんだ。どちらかが上司になると角が立つから、課長無しでやってる」


「町屋くんの方が半年歳上だから課長にという話だったんだけど、僕のために律儀に断ってね。だからイーブンという立場になってる」


「何かあった時はどうするんです」


「1日毎に責任者交代をしている。ちなみに今日は私の番だ」


 だいたい現状を理解したところで、今度は2人が千秋の事を訊いた。大まかに入社から転勤までと、日本に来てから半年の話をして、ここ1週間の話を少しだけ詳しく話した。


「はは、そりゃまた災難だったね。それで名前だけの部長としてここに来たのか」


「郷くんもその辺り話してくれればよかったのに、どんなおっかないが来るかとびくびくしてたよ」


「おっかなくて、すいません」


3人は笑いあう。

 そこへノックもそこそこに、入室してくるものがあった。


「失礼します、佐野主任、ここに居たのね。何のんびりしているのよ」


 不機嫌そうにそう言ったのは、加納だった。


「おはようございます。どうしたんです血相変えて」


 つかつかと近寄ると、小脇に抱えていたバインダーから書類を取り出し千秋の鼻面に突きつけた。


「……加納……何て読むんですこれ」


「冠羅と書いて[かんら]と読むの」


加納冠羅かのうかんら、上記の者 調査資料部兼務を命ずる」


その下には、護邸常務と郷常務と総務部長の認印が捺されていた。


「どういうことです」


「早い話が、私があなたの部下になるってコトよ」


面白くなさそうにイライラしながら言う。


「今まで通り、護邸常務担当で秘書課に在籍するけど、当面仕事が無いだろうからと、こっちの手伝いをするように言われたのよ」

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