第123話 その3
千秋達が出ていった後、残った4人が口を開く。
「なるほどな、あの方が気に入るだけのことはあるな」
「専務、圧倒されてましたねぇ」
「そんな事はない、だが、たしかに骨のあるのは確かだな。護邸くん抑しきれるのかね」
「なんなら替わってあげようかい」
郷常務の言葉に護邸は首を振る。
「ご心配なく、私が頼まれた事なので」
「そうかい、無理そうならいつでも替わるからね」
郷常務が残念そうにこたえた。
そんな社長室の会話を他所に、千秋と社長秘書はエレベーターに乗り、地下の駐車場に向かっているところだった。
地下に着くと目の前に社長専用車がもう停まっている。千秋が躊躇なく乗り込む際に、社長秘書が頑張ってねと、ひと言言ってくれた。
エクセリオンのビルから、丸の内にある森友財団の支社まではクルマで15分くらいで行ける。コンペはすでに始まっているが、先手にしろ後手にしろ間に合う筈だ。
その筈だった。
軽快に走っていたのに止まってしまったのだ。
「どうしたんですか」
「あー、こりゃ工事ですね」
「工事? なんで?」
「年度末ですからねぇ」
(年度末になると、道路工事がやたら始めるのは何となく感じていたけど、なにもこんな時と場所でやらなくてもいいでしょうがぁ)
何とかならないかと、千秋は車窓の外を見るが、三車線の真ん中で前後左右どこもクルマが渋滞で停まっている、少しづつ、少しづつだけど進んでいるが、これでは間に合わそうにない。
千秋はスマホで時間を見る、午後3時半になろうとしていた。
(ダメだわ、このままじゃ間に合わない。一色君、大丈夫かしら、あのコなら大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だわ)
そのうち渋滞で完全に止まってしまった。運転手は気を紛らわそうとしたのか、ラジオをつける。静かな音楽が流れはじめるが、焦っている千秋には逆にイライラするだけであった。
千秋はじりじりしながら聴いていると、音楽が突然中断され違う内容が流れた。それを聴いた千秋は顔色を変える。
「運転手さん、お願い、なんとかしてっ」
「そう言われても……」
「お願いっ、早く行かないと、間に合わないと意味がないのよ」
千秋の懇願に応えたくても、運転手はどうしていいか分からず困惑するだけだった。
千秋は駄目だと思っても、すがるように一縷の望みを願って繋がっていないスマホに叫んだ。
「助けてっ」
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