第108話 その3

 2年ほど経った。


 サトウの辣腕は予定外、いや予想以上の成果をあげてしまっていた。

 2年の間に企画3課に配属されて辞めていったのは2桁になってしまい、社内では企画3課に配属イコール退職勧告と同意義となっていた。


負の環境は精神を蝕む。


 不本意な職務を続けてたせいで、サトウは家でも愚痴や文句が出るようになり、夫婦仲から始まり家庭不和となり、妻と2人の子供はサトウを無視するようになる。


 同じ理由で友人も離れていき、趣味の海釣りも誘われなくなり行かなくなった。


 朝9時に出社し、自分の席につく。仕事が無いので、ただ座っているだけで時間が過ぎてゆく。昼休みになると会社を出てコンビニでおにぎりとお茶を買い、適当なところで食事をし、休みが終わると会社に戻り、退社時間まで時間まで過ごし、時間きっかりに退社。家に帰りたくないので、ネットカフェなどで時間を潰し、家族が寝静まった頃に帰って寝る。そんな毎日だった。




 そしてある日の昼休み、2人は出逢うことになる。



 その頃のサトウは昼休みを同じ場所で過ごしていた。

 そこは児童公園だったらしいが、三方を高いビルで囲まれ、唯一道路に面している部分も、道路の向こうに高層マンションが建っていたので、ほとんど日が当たらず、うらぶれた公園になっている。

おかげで誰も来ないからサトウにとっては好都合な場所で、唯一心を安らぐ場所とひとときであった。


 申し訳程度にある遊具のひとつであるブランコに座り、いつも通り昼食を摂っていた。

 ふと見ると、公園の端にあるベンチに座り、同じく昼食を摂っている若い女性が目に入った。


 他に見るものもないし珍しく思ったので、ぼんやりと見ていると、持っていた可愛らしい弁当箱を落とすと、小刻みに震えはじめ、頭を両手で抑えベンチからくずれおちた。


 あわててサトウが近寄り助け起こすと、薬をとってほしいと頼まれ、女性のポシェットから薬を取り出して手渡し、女性はそれを飲む。

 薬を飲んで落ち着くと、サトウに御礼を言って去っていった。


 翌日、また公園に向かうと昨日の女性が待っていた。彼女は時々ああいう発作に襲われるので、助けてくれてありがとうと昨日の御礼をふたたび言う。そして、迷惑でなければここで昼食を摂ってよいかと訊かれ、サトウはべつにかまわないと返事した。


こうして2人は逢うようになるのだった。

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