第106話 すべては2年前から

 千秋の質問に、意地を張ったり見栄を張ったりしてサトウの話はなかなか進まなかったが、まとめるとこういう事らしい。




 スズキショウコは5年前、東京の大学生だった。

単位も取り終え、就活をしている時、同じサークルだが、ほとんど話したことのない女性声をかけられた。


「ショウコさん、人脈や情報を得るには合コンがいちばんよ。今日の合コンひとり足りないの、来てくれない?」


 まじめで、ほとんど遊ばなかったスズキは遊びで経験値をあげるのも必要だなと思い、参加する事にした。


それが集団レイプサークルの合コンだったのだ。


 その後の生活は詳しくは話さなかったし、千秋も聞きたくなかったのでスルーした。ただかなり酷い目にあったのだけは伝わった。


 事件が明るみになった時、運良く卒業のタイミングだったので、逃げるように実家である名古屋に帰ってきた。東京での事はすべて忘れようと名古屋での新しい生活をはじめる事にした。


 3ヶ月ほど自営業である実家の仕事を手伝い、中途採用の求人を出したエクセリオンに応募して採用された。

 エクセリオンに就職したのは、外資系なら誰にも知り合いに会わないだろうと考えたのが理由だったからだ。


携帯電話の番号も変え、SNSのたぐいもすべてやめた。スズキショウコは新しい生活を始めたのだった。




 その当時、サトウ課長は係長で、現在長期療養中の企画部部長(当時は課長)の腹心の部下として働いていた。

 その仕事ぶりは有能のひと言につき、誰もが次の課長はサトウで決まりだと思われていた。


 このくだりを聞いたとき、千秋は(私が知らないと思って盛るんじゃねぇ)と思ったのだが、後日、護邸常務と話す機会があり、この話をすると本当だと言われかなりのショックを受ける事になる。


 サトウ係長達の活躍で大きな仕事を成し遂げた功績で、当時企画部長だった護邸は常務に、課長が部長に、そしてサトウが課長に昇進したのだった。


 新たな課員も補充され、新しい体制が始まった。誰もが、企画部はまた会社に多大な利益をもたらす企画を生み出すと信じていた。


 しかし、その期待は大きく裏切られる事になる。サトウの部下がことごとく、異動もしくは退職を願いでたのである。


 いったいどういう事かと護邸は部長に訊ねると、どうもサトウの部下に対する接し方に問題があるらしいと答えた。


 サトウは人に使われることによって能力を発揮する事が出来るのだが、人を使う能力が壊滅的に無かったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る