第89話 その5
「時間変更の件、承りました。ただこちらも予定外でしたので、私が行けないかもしれません。うちの一色は行きますので、よろしくお願いします」
「わかりました。個人的には佐野さんが来れないのは残念ですが、お待ちしています」
「ありがとうございます」
受話器を置き、千秋はふうと息をつく。
席を立ち、課長の席の前に立つとコンペの時間が変更されたことを報告する。課長はチカラなく返事をし、がっくりする。
私が会議に出られない理由が失くなってしまった以上、スケープゴート出来なくなったもんね。
今度は一色の傍に行き、電話の内容を伝える。
「あ、じゃあチーフも行けるんですね」
「たぶんね、ただ何があるか分からないから、いちおう行けないって伝えといたわ」
群春の都合で変わったのは癪だが、これで両方に出られる。千秋は追い風を感じた。
そして数分後、護邸常務の秘書が課長と千秋を迎えにやって来る。課長はスローモーションのパントマイムみたいな動きで立ち上がると、潤滑油のきれた二足歩行ロボットのように歩き始める。
その姿を見た秘書が舌打ちして腕を組み、足をトントントンと踏みはじめ千秋を睨む。
やれやれまたか。
千秋はまた課長の腰を後ろから押す形で、歩みを進めると、まるで介護か電車ごっこのように、3人は常務室へと向かう。
常務室では護邸常務がすでに会議室に向かう準備を済ましていた。
「行こうか」
それだけ言うと、4人は会議室に向かう。さすがに課長はちゃんと歩くようになったが、それでも足取りは重かった。
「君たちはここで待ちたまえ。声をかけたら入ってくるように」
大会議室の横にある控室で、千秋と課長と秘書は待機する。
11時過ぎた、会議が始まったようだ。
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