第86話 その2
「嫌いじゃないけど、あんまり興味ないわね」
「興味のあるヲタクの
「それは想像できる」
なにしろ身近にそういうのがいるから。
「財団側の3人のうち2人がAAのファンなのを、資料から知りました。その2人はどのくらいディープなのかを調べてました」
金曜日、一色君の端末にヲタらしいサイトが出てたのはそういう意味かと千秋は思い返した。
「そういうの分かるの? というか、そのダブルエーって何なのかから説明してくれる」
「あ、そうですね。AAは通称で、[青木川アリス]の事です」
「青木川アリス?」
「メジャーデビューはしていませんが、とある小説投稿サイトの有名作家です。ファン数はかなりのもので、しかも大半が熱狂的な人達ばかりなんです。その人のグッズを付けます」
そう言われても、千秋にはピンとこない。知り合いの熱狂的というか偏執的なのは、部屋や持ち物にグッズをところ狭しと置いてあるが、それ以外は普通である。とてもプレゼンを左右するほどの付加価値とは思えないのであった。
「一色君、悪いけど、それって億単位のコンペを左右するほどの付加価値に思えないわ」
千秋の不安げな言葉に、一色は平然と答える。
「なりますよ。間違いなくね」
なんだろうこの奇妙な自信は。千秋は急に不安が大きくなってきた。
一色君はそつなく仕事が出来るのは間違いないが、その仕事ぶりは社内での事だけかもしれない。対外的な仕事はしたことないんではなかろうか、それでピントがずれているかもしれない。
とはいえ、もう時間も無いし、人手も無い。彼に任せるしかないのだ。
「一色君、その付加価値は出すタイミングを間違えないでね。まずは正当にプレゼンをして、それからよ」
このくらいのアドバイスしか出来なかった。
一色は、はい、というとても爽やかな返事をした。
8時半になった。今回は千秋の方が先に喫茶店を出て、会社に向かう。社内に入り、エレベーターで企画部があるフロアではなく、重役室のあるフロアで降りる。
フロア内を進み護邸常務の部屋に来ると、秘書に声をかける。
「おはようございます。常務はおみえでしょうか」
「おはようございます、佐野主任。常務は9時にお越しになると連絡がありましたので、まだいません」
待たせてもらうことにして、フロアロビーにあるソファで座っていると、秘書がコーヒーを淹れて持ってきてくれた。
今日2杯目のコーヒーであった。
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