女房の女ともだち
昔、誰かに何を考えてるのかよく分からないやつと言われたが、自分でも自分が何を考えているかなんて分からなかった。今でもそうだ。俺には自分の考えていることが分かるというのがどういう状態かということさえぴんと来ない。
それでも俺は俺をちゃんとコントロールできているという感じはある。だが、俺の中のどこか、俺の手が届かないところに、どうも誰かがいるような気がするのだ。ずっと前、俺が俺になるよりも前から。
どんなやつかは知りようもないが、本当はそいつが俺に必要なことをすべて考えてくれているのかもしれない。だから、俺は自分で考える必要がないわけだ。そして、そいつは俺が来るのをどこかでじっと待っている――。
なぜか、そんな気がするのだ。
俺は毎朝七時十五分の電車に乗って仕事に行く。給料は少ないが職場の雰囲気は悪くない。同僚と笑い話をしながら事務をこなし、たいてい夕飯に間に合うように家に帰る。そして妻との団欒。
寝て起きて、同じことを繰り返す。
よく陽の入る明るい部屋、好みのブランドで揃えた家具類。脆くて、心底くだらない幸せ。
子供をほしがってなかった妻が、近頃子供の話をよくするようになった。なぜかは分からない。妻の両親は実に出来の悪い親で、妻には子供を作りたがらないだけの正当な理由があるからだ。
妻の両親は、子供が金に不自由しないようにする代わりに、何一つ決定権を与えずに育てた。子供の要求には耳を貸さず、自分たちの思う通りに操ったのだ。それでいて自分たちは優れた親みたいな顔をしている。胸糞の悪くなる連中だ。なのに、子供がほしくなったというのか。人の気を知りもしないで。
ある日、仕事から帰ると妻が家に女ともだちを連れてきていた。パート先で知り合った妻と同年代の、妻と同じように不幸な女だ。その女を一目見た途端、俺は自分が本当に考えていることがはっきりと分かった。
俺はこの女を殺すことになるだろう。
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