第78話 指輪をくれた君。
夢の中で先輩と会った。ベッドの上で喘ぎ声を出して俺に抱きつく姿が生々しい…近づく唇と胸、先輩の顔が真っ赤になってすごく興奮していた。
堪えなかった俺はすぐその夢から目を覚めた。
「変な…夢だ。なんの夢なんだよ…俺本当に変態だったのかよ…」
夢を見ただけで心がドキドキして頭が真っ白になる、なんでも食べて気分転換をするため居間のテレビをつけてキッチンに行った。
静かな居間から広がるテレビのニュース、その内容は最近高山で起こっている連続強盗事件のことを報道していた。
「犯人はまだ捕まれてないのか…」
金山駅、先輩のマンション…そしてまた他のところで事件を起こしている。狙いはなんだろう…
顔もすごく怖いなーこんな人が人を殺すとかするよな。
「メール…?」
『ハルー私のネックレスがいないけど…ハルの部屋にあるかな?』
『多分あるんじゃないかな…探してみる。』
部屋の床に落ちている布団の下から先輩のネックレスが見つかって写真とともにメールを送った。
『見つかったよー』
『ありがとー明日持ってきて!愛してるー』
『俺も…』
明日は学校に行ける。恥ずかしいメールのやりとりがあってから、ふっと学校のことを考えたら俺はどんな顔で先輩を見ればいいのか悩み始めた。
何をしても何を食べても…先輩のことが頭から消えられなくて、そのまま夜の10時までぼーっとしてソファーからテレビを見ているだけだった。
—————そして次の朝。
「夜更かしなんて…するつもりじゃなかったのに…」
その夜、結局春木は眠れなかった。
二日ぶりの学校、教室に入って席に着いたら背中を叩く康二が前の席に座る。
「よっ!風邪は治ったかい?」
「うん。ゆっくり休んでたら熱が下がった。」
「春木が学校に来ないから夕が寂しがってたぞ。」
「へー、夕だったら授業中に彼女とメールすることしか思い出せないけどー」
「それな!」
「だろう?」
そう言えば康二って佐々木先輩とうまくいってるかな、付き合ってるって言ってから何も聞いてなかったからなんか気になる。
「春木その顔、何〜?」
「いや、別に。」
授業が始まる前に雑談する二人。
その間、クラスの扉を開けて俺の名前を呼んでる夕がいた。
「春木ー客だぞー!」
「ハルー」
先輩の声が聞こえて素早く体を隠してしまった。
「春木?」
指で「しーっ。」と頼みながら康二の後ろに隠れて先輩が戻ることを待っていた。
「あれ?春木いないのか?」
「あ…うん!トイレかな…?」
「そうか?」
クラスの中を見回す先輩ががっかりした声で話した。
「ハルいない…?」
「トイレとかいちゃったみたいですね。先輩。」
「うん…休み時間にまたくるねー」
「はい〜」
ごめん…先輩、顔を見られない。
先輩の声が聞こえる度、心の底からすごい勢いで何かが湧き上がってしゃがんだまま我慢してきた。二日前のことがまだ忘れない、未だにもその感触が残っていて心臓を激しく動かした。
そして机の後ろから頭を上げてひそかに扉の方を見つめる。
「春木、先輩と喧嘩でもした?」
隣の康二が携帯をいじりながら言った。
「別に…」
「ていうか、春木顔真っ赤だぞ?」
「え?そう…?熱いかな…もう6月になるし…」
「全然…普通なんだけど…?」
「なんでもない。」
次の休み時間も、次も、先輩は俺を探している姿が見えた。トイレに隠れたり階段で待ってたりして丸一日先輩のことを避けてきた。携帯にはたくさんのメールと電話の通知が届いていて気づいたらもう部活の時間になっていた。
「どうしよう…俺ってなんで先輩のことを避けているんだ。乙女かよー!」
でも、先輩が大切にしているネックレスを返さないと…
携帯を出して先輩にメールを送ることにした。生徒会室にいないうち、ネックレスをささっと置いて逃げるプランを立てる。
4階、生徒会室の前でノックを2回する。聞こえなかったかもしれないからもう1度2回ノックして中に人がいるのか確認した。
ゆっくりと生徒会室の扉を開けて中に入った俺は先輩の机にネックレスを置いて胸を撫で下ろす。
「いないのか…よかった。」
「ふんー誰がー?」
先輩の声…?先まで誰もいなかった生徒会室だったけど、こっそり入ってきたのか。後ろから俺の体に腕を回した先輩が囁いた。
「なんで私を避ける?私…なんかしたかな…?」
「そんなことじゃない…ただ恥ずかしくて、春日の顔を見る勇気が出てこなくて…」
「何が恥ずかしい…?」
「…なんでもない。」
少しためらう先輩が何か思いついたように答える。
「それか!そうかーハルはそれを気にしてたのかー」
「言わなくてもいい…」
「かわいいねー」
「ネックレスは…机の上に置いているから、また明日。」
机に置いている指輪を指で掴んだ先輩が生徒会室を出る俺にこう言った。
「ね、ハルもこれと同じ指輪持ってたよね?」
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