第72話 体育祭。−8
顔を上げられなかった俺は頬を伝う汗が地面に落ちるのを見ていた、長いリレーが終わってメンバーたちが俺の隣に集めて来た。
「春木ー!惜しかった!」
「…あ…ごめん。」
悔しい顔を隠せず、目を逸らした。
…後少しで勝てることだったのに。
「何謝ってる!大丈夫よ。春木は頑張った!」
「加藤、2位でもすごいぞ!」
「頑張ったー!いい結果だよ!やはり速いなー!春木は!」
「僕のせいで…みんなごめん。」
そんなに励まされたら逆に恥ずかしくなるだろう…でもいい人たちでよかった。いい思い出になりそう、本当に楽しかった…みんなのおかげで勇気をたくさんもらった。
リレーが終わったメンバーたちは席に戻って後の話を続けた、ほとんどアンカーの話だけでリレー最後の瞬間が話題になっていた、大したことでもないのに…何をそんなに褒めてるんだ。恥ずかしい…
そして席を外して3年たちのリレーを見ることにした。涼しい風が吹く気持ちいい天気に俺はぼーっとして運動場を見つめていた。いよいよアンカーたちの出番になって、ふっと先のリレーが浮かび上がった俺は心の中から悔しがってしまった。
もう…思い出にして仕舞い込んだ方がいいかも…
「ハル…」
「あっ!」
3年のリレーに目を取られて先輩が近づくのを全然気づかなかった。後ろから抱きつく先輩は萎えた声で俺の名前を呼んでいる、いつもかわいい先輩の声だったけど今はちょっと違った。疲れていたのか先輩はそのままじっとして何も言わなかった。
「先輩?疲れました?」
「うん…充電中…」
「こんなところでやってもいいですか?」
「知らない〜今はこうしたい〜」
先輩ってたまに赤ちゃんみたいに甘えるんだよな…
「先輩。」
「うん?」
「それで充電できませんよ?」
「え…?なんで?」
先輩に顔を向いて、先輩と目を合わせる。
「うん…?」
ちょっと慌てる先輩の顔が可愛い、こう見ると相変わらず小さくて綺麗な人だった。
「好きですよ。」
耳元で囁いたまま先輩の体を抱きしめた。
「うっ…はあ…」
「気持ちいいのは分かりましたけど…変な声は出さないでほしいです。」
「だって…そんなに強く抱きしめると…」
「変なことを言わないでください…」
「それにしても好きですよーとか恥ずかしい言葉も普通に言えるんだー!」
「はいーここまで!」
「え!ちょっともっと!してもいいじゃん!」
「へー分かんない〜」
「いいよー後、ハルの家でいろんなことをするからー!残り1%はそこで充電する!」
…やはり先輩だな。
「家に入れてあげませんけどー」
それでも笑顔を話す先輩。
「鍵持ってるよー!」
「あっ…?」
「私の勝ち!」
「この意地悪団子…」
「誰が意地悪団子なんだよ!」
いつの間にか二人は3年の席で騎馬戦を見ることになった。俺のももに座ってる先輩を後ろから抱きしめて運動場を眺めた。
「なんか…こうするのいいね。」
「そうですか?」
「ね、ハル。」
「はい?」
「手の位置…ちょっと恥ずかしいけど…」
「え?」
しまった…先輩の背が低いから思わず胸に触れていた。手でしっかり握ったものは確かに…先輩の胸だったから否定ができない…しかも疲れてどこに手を置いていたのか気づいていなかった、こんな恥ずかしいことを先輩に言われたらなんか罪悪感を感じる…クソ何してんだ俺は。
「外だからだめ…」
え…いやいや。これはそんなんじゃ…俺はどれくらい触っていた…?一体どれくらい…?
横から見られる先輩の横顔が真っ赤になって、ちらっと俺を見ていた。今の状況は確実に俺から襲ったように見えるだろう…どうしよう…誤解だと言わないと…
「先輩、あの…」
「つ、続きは家に帰ってからしようね?」
だめだーハハハ…
俺を見るその目はもはや…この人、変なスイッチが入ってしまった。
「…」
「ね、ここ人少ないよね?」
「そうですよね?」
「チューしよっか?」
「は…、うん?」
「外だからだめって言ったのは…」
「おいーそこの夫婦ー」
騎馬戦が終わって七瀬先輩がここに戻って来た。
「私が騎馬戦をやっている時にずいぶん楽しんでるねー春日!」
「チューするとこだったのに美也はいつもタイミングが悪い…」
「それは言わなくてもいいです先輩!」
「…春木くん…?肝が太いですね?」
「…え?俺はそろそろ帰ります!」
七瀬先輩はとにかく苦手だから…その場から即逃げて来た。武藤先輩の前でまた変なことをされるかもしれない…思ってみたら鳥肌が立つ。
「春日もう借り物競走だよ…?」
「そう?」
「イチャイチャする時間があったら自分の出番を確認してよ!」
「へへー」
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