第63話 違和感。−7
その後のことなんだけど、川田正樹は平然と学校に出ていた。人のことを殴って、いじめても証拠が残っていなかったからあの連中に法律的の話をするのはできなかった。悔しいけど、俺にできるのは何もなかった。
しかし、あの事件から自分たちも事態の深刻さを分かったのか川田は俺を避けているように見えた。その件で学校中に俺が川田の連中にいじめられたと言う噂が広がっていたけど、川田はその噂をあえて無視してしらないふりをした。
徐々に体の具合が良くなった俺は久しぶりに部活をしようとした。
「お!春木!」
「加藤さん!」
扉を開けた部室の中にはみんなが揃っていた。
「うん、みんなちゃんと部活やってたな。」
「誰とは違って恋人いないしさ〜暇なんだから〜」
「俺、そんなに会ってない…けど…」
「…加藤さん、ここんとこ全然来てませんよ?」
「…悪かった。」
次に入ってくる夕が俺の背中を叩いて元気そうな声で話をかけた。
「よっ!!春木!体はもう大丈夫か!!」
「お、おう。いい感じだ。今は。」
「そっかそっか!」
「あのね、春木。前の先輩たちなんで逮捕されなかった?犯罪者のくせに堂々と学校に出るなんて…」
木上の苛立ちの顔が見られた。
「そうね、川田…あの人はな…」
「何があったんですか?」
木上の隣に座っていた武藤が俺のそばに来て事情を聞く。
「なんか他人に嫉妬されて、殴られたみたい…」
「どこの誰が!」
「3年生だ。」
「そんな…」
「その話はもういいだろう?俺も完全復活したし。」
「でも…」
「いいよ、心配かけてごめん。武藤。」
武藤の悲しい顔は誰のためにやっているのか、俺のためだったらそこまで心配しなくてもいいのに…なんか悪い気がして顔を見られない。
「それにしてもみんな試験勉強はちゃんとやってるかい?」
「試験かー」
「嫌だ…試験。」
テストの話で浮いていた雰囲気が一気に沈む。
5月になったらいよいよ中間テストが始まる、その後は体育祭が俺たちを待っていた。俺はこの体育祭で証明しなければならないことがある、それはまた自分が走れるかあるいはやめるのかと言う選択だった。
まだ走りたい、その気持ちは変わっていなかった。先輩と出会ってやっと俺は自分の居場所と生きる意味を見つかった気がして、そろそろ自分の過去と立ち向かう時だった。
みんなが話している時、携帯から一つのメールが届いた。
『ハルー今日一緒に帰ろう!生徒会の仕事が終わったら相談室に行くねー』
先輩か…
『待ってるから仕事頑張って!』
『うん!』
先輩からのメールを見るとなんとなくニヤついてしまう。こんなメールで浮いている俺も純粋だな…
メールに気を取られてそばに来ている康二に気づかなかった。
「いけない!このリア充!」
「え?」
「こそこそ会長とメールしてることを知らないと思ったのか?」
康二…目がいいな…これが見えるのか。
「いや…別にメールくらいお前もやってるだろう。」
「しかも!ため口で!?」
「いや!分かったから静かに…」
「へ?なになに?なんの騒ぎ?」
「さやか!春木が生徒会長にため口で話してるぞ!」
「えええ?!生徒会長と!?」
何、この状況…俺は何も言ってなかったはずだけど、みんなは勝手に想像して楽しんでいた。
まぁーこんな部活だったなー。少しにぎやかな雰囲気もいいだろう。
俺たちの読書部は具体的に何をするのか分からない部だったから、そのうち本当に相談部にしようと武藤と木上が話していたことがあった。
俺がいなかった間、実際に数人が相談しに来たって言われたし、けれど俺ももう部活なんかやめて走りに集中した方がいいと思っていた。
「ハルー!」
生徒会が終わった先輩が部室の中に入って来た。
「先輩…お疲れ様です。」
「へー外で会う時は敬語なんだ。」
隣の康二がこそこそ言った。
「うるさい…」
「…?」
「先輩帰りましょう。」
「うんー!」
「俺、先帰るからみんな頑張って。」
あいさつをした後、先輩と学校を出て家に向かっていた。橋の上を歩いていると風が先輩の髪を乱して、先輩はその髪を指先で整えて俺のことを見つめていた。
「ハル。」
「うん。」
「実はね、言わなきゃならないことがあるの。」
「それは?」
「私、知ってたの…」
「知ってたって…」
二人は川がよく見える芝生の上に座って話を続けた。
「ハルが遊園地に行ったあの日、うちの前で川田が急に話をかけて来たの。」
「待ち伏せ…ってことか、なんか言われた?」
「自分と付き合うべきだと、何回もしつこく私に自分の彼女になるべきだと言った。」
「それはしつこいな…」
「もちろん、全部断ったの…でも川田は諦めなかった…その上、力を使って私を壁に押しのけて変なことをしようとしたの…」
「…なんで今まで黙ってた?」
先輩は俺を抱きしめて震える体を落ち着かせた。
「ごめん…あの人がこの話を他人にしたらハルを殺すって言ったの…」
「まじ…?」
「ごめん…ハルに言っておくことだったのに…怖くて…怖くて言えなかった…半分は冗談だと思ったのに、ハルが殴られたことを聞いたら…ハルがいなくなると思ったら涙が止まらなかった。」
「うん、頑張ったね。ありがとう春日。」
「…」
「実はあの人、前から春日のマンションでよく見られた。勘違いだったか、川田本人なのか、いろいろ考えたけど春日の話を聞いたらあの人は間違いなく川田だったと確信できた。」
「じゃ前から…?」
「うん、よっぽど春日のことが好きだったそうだ。悪い意味で。」
「怖い…なんで…」
しばらくの間、先輩の背中を撫でながら慰めてあげた。
「大丈夫、俺がいつもついているから…」
「ずっと…ずっと…ずっといてね。」
「うん、ずっーと。」
「約束だよ、この約束は死ぬまで守ってね!」
「はいはい。」
先輩の明るい笑顔が見られた。先まで悩みが浮かんでいた先輩の顔が少しは楽に見えてようやく安心した。
そして夕日が沈む頃、俺たちはお互いのそばにずっといてくれる約束を交わした。
「春日、もし一人でいる時が怖くなったらいつでもうちに来ていいよ。」
「本当!?」
「うん。てか、鍵も持ってるし…好きに入ってもいいよ。」
「ハルー大好き!」
春日はいつになく、かわいい笑顔で俺を見上げてくれた。
「かわいい…」
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