第61話 違和感。−5
自習が始めてから数十分、春木は教室に戻らなかった。
ふと自習中の康二は先から戻ってこない春木のことを気づいて、隣席の夕に小さい声で話をかけた。
「夕、春木どこ行った?」
「知らない…てかまだ戻ってない?」
「あ、先からいなかったぞ。」
「なんだろう…」
「ちょっと探してくる…先生によろしく。」
「え?今?…分かった。」
川田正樹が言ったあの言葉を思い出した康二はこっそり教室を抜け出した。急いで階段を下りる康二が向かった場所は学校の焼却場、おそらく先輩たちはそこに春木を連れて行ったと直感した。
「康二?」
「さやか?」
1階についた時、通りすがりのさやかが康二を呼び止めた。
「ここで何してる?今、授業中じゃない?」
「さやかこそ…」
「保健室だよ。康二は?」
「ん…」
事情を説明した康二はそのまま建物を抜け出そうとしたけど、外から降っている大雨に足を止めた。
「すげー大雨…」
「はい!」
康二の頭に傘をさすさやか。
「早く探してみて、私はもう教室に戻らないといけないよ。傘は保健室にこっそり戻してね。」
「ありがとう。」
——————大雨が降っている焼却場
否応無しに連れ出した3人の先輩と焼却場にいるこの状況は一体なんだ。あまりにも強圧的な態度を示しているから聞こうともしなかった、何をやっても変わらない事実から何がしたいのか…
あ、そうか。『嫌い』と言う言葉に理由なんてないよな、その理由は勝手につけたらそれなりの理由になるんだから。
しばらく、静寂だった焼却場から川田が口を開いた。
「単刀直入に言う加藤春木、春日と別れろ。」
「いやですけど?」
「別れろってつってんだろう!!」
隣の先輩が力で俺の肩を押す動きが見られ、先からやられっぱなしだった俺はその手首を強く掴んで振り切った。
「いい加減にしてください。ダサすぎるのもほどがあります。」
「なんだと?」
「武藤先輩を辞めろって意味です。」
「春日は俺と付き合う人だった!前も帰り道で春日と話をしたからな!春日も別に嫌な顔をしていなかった!春日は!」
「まさか、ストーカー行為まで?」
「俺が春日の住所を知ってるだけなんだけど。」
「それが犯罪ってことも知らないのか!お前!」
こいつだったのか、俺が感じていた違和感の正体は…
「お前、正樹に何を。」
胸ぐらを掴まれた俺は構わず話したいことを隠せなかった。
「答えろ!先輩の周りをしつこく付き纏ったやつはお前だったのか!」
「は?春日と普通に話しただけで、話すために待つだけなんだ!別にいいだろう!」
「胸糞が悪い…本当にこんな人間がいるなんて知らなかった。」
川田の苛立っている顔が目の前で見られた。2年差もある後輩に女を諦めろって言うのも自分のプライドに傷つくだろう、今はただ自分たちの感情を抑えられないから他人に怒ってるだけにしか見えない。
いけない、興奮してしまった。落ち着こう…
「そんな話を聞くためにお前を連れて来たと思ったのか?」
「どうせ先輩たちの話が武藤先輩と別れろ、それだけなんでしょう。」
「諦めろ!彼女を。」
声を上げる川田。
「無理、そして諦めません。俺たちはお互いを欲しがってたから付き合ってます。」
「この…クソが…なんでお前みたいなやつが…」
「だから先輩たちも他の人と付き合えばいいじゃないですか。」
「今はそんな話じゃないだろ!」
「だから別れませんって言ってるんじゃないですか!何度も言わせないでください!」
話は終わりだ。
これ以上言えることもないし、川田が傷心したのは分かってるけどこんなやり方じゃ何一つも解決できない。でも待ち伏せされるのは危険だな、どうかこれ以上の過ちは犯さないように願うだけだ。
後で先輩に言っておこう。
「教室に戻ります。これで…2度と俺たちに関わらないでください。」
「…」
実にくだらない会話。この人、前にREONで会った時とあんまり変わっていなかった。人の嫉妬はどうしてこんなに醜いだろう、2年上だとしても結局全てが自分の思いどおりになってほしいわがままだった。
話を終わらせて雨宿りをしていた焼却場から出る時、後ろから感じられる一瞬の痛みとともに突然視野がぼんやりしてその場から即倒れた。
「正樹!何を…!」
川田の隣に立っていた先輩が声を上げた。
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