第49話 遊園地で遊ぶ。−9

 よかったな、木のおかげでレジャーシートがすぐ取れた。


「はい、持って来ました。」

「うん、ありがとう。」

「ね、加藤くん。脚は大丈夫かな…」


 その話にびくっとして二宮のことを振り向いた。


「なんで分かった、って顔しているね。加藤くん。」


 そりゃ…当然だ。一度も会ったことない人にそんなことを言われると誰でもびっくりする。でも、二宮の制服はどこかで見たことがある気がした。友達も少ない俺がこんな制服をどこかで見たのか…それも思い出せなかった。

 もしかして知り合いの中でいたのか…


「二宮さんって…え…」

「さんはいいよ、同級生に敬語で話すのが苦手でしょ?」

「そう…」


 荷物を持った二宮がみんなのところまで歩き始めた。


「そういえば、加藤くん私に何か聞きたいことがあった?」


 少しだけ、二宮の制服を見つめていた。


「ない?」

「どこで会ったのか、それだけ。」

「うん?会ったことはないよ?」

「そうか。」


 …?

 会ったこともない人の事情を知ってるってことか…あれってなんだったっけ神通力ってやつなのか。


「嘘だよ、ある人から聞いた。一応陸上やってるし。」

「へー少しやけた肌を見て、なんとなくそんな感じがしたけどそうだったか。」

「うん、でもみんなが待っているからそろそろ行こうか?」

「あ、そうかもね。」

「うん。」


 お化け屋敷の前について、俺はすぐあれから目を逸らしてしまった。気まずい…入りたくない…


「加藤さんー!」

「え…武藤か。」

「入りましょう!」


 本当に入らないと行けないのか…お化け屋敷なんか誰が作ったんだ!!と心の中から叫んでいる俺。

 看板だけを見たのにもう鳥肌が立つ。


「決まったな!春木と武藤が1番目!」

「夕!先に行ってくれないか…」

「おい!春木、菩薩の顔やめろ!」

「…」

「春木、本当に苦手なんだ。この怖がり!」


 逃げたい…助けて…先輩…

 あ、考えて見たら先輩も使えない、あの人は存分に楽しむスタイルだ。

 そして人差し指を左右に振った夕が俺と武藤の背中を押して、この気まずいお化け屋敷に1番目で入ることになった。


「わあー!」

「入り口暗いな…」

「怖いですよね?加藤さん!」


 なんでこんな暗い場所でテンションが上がる…武藤、俺を見ているその目がキラキラしていた。


「俺、別に…別に…」


 見た目では古い日本家屋の廊下を歩いている二人、とても古くて触ったらすぐ壊れそうな様子だった。


 こんなことを作っていいのかよ…危険だ。てか、これは人気あるアトラクションだろう?なんで床鳴りがするんだ。

 一歩一歩、踏みながら感じられるこの音…嫌い。


「ヴァー!」


 床ばかり気にしていた時、隣の扉が倒れてお化けの扮装をした演技者が俺たちを襲った。

 目、目の前にお化けが…

 左の目をなくし、血まみれの服と灰色に染めた髪、全てがお化けそのものだった。そして中低音の声が静かな廊下で響いて恐怖感を現した。


「わあああああー!」

「かっこいいー!」


 すごくびっくりして隣にいる武藤を抱いてしまった。


「はっ…!か、加藤さん…」

「あ、ご、ごめん、びっくりして。」

 

 俺、なんてことを…慌ててそのまま廊下に倒れた。その後、お化けの姿が消えて、震えている俺はひとまず落ち着こうとした。

 びっくりする姿を武藤に見せて抱いてしまった…この後はどうなるのかよ…恥ずかしい。


「あ…怖かった…」

「加藤さん、大丈夫ですか…?」

「え…ごめん。怖がりで…」

「いいえ、ちょっとびっくりしただけなので…」

「え…武藤もびっくりするんだ…」

「はい…別の意味で…」

 

 ほほ笑む武藤が俺に腕を組んだ。


「これでいいですよね。」

「何がだ…」

「怖くないです。」

「腕を組むだけで、なぜ怖くないんだ…」

「隣にいます。」

「そ…っか。」


 もっと歩いたら2番目で入ってきた康二たちの悲鳴が聞こえた。誰が怖がりなんだ…自分も怖がりのくせに…。

 

「あの武藤、俺たち随分歩いてるだろう…」

「はい。」

「って出口は一体どこにある…」


 まるで迷路みたいな空間だった、似ているものばっかりで道を迷ってしまう。けれどわざわざこんな設計をしただけはよく分かっていた。

 迷っている時に驚かすつもりだろう…


「加藤さん…」

「うん?」

「そんなに怖いですか?」

「なんで…?」

「すごく…くっついてちょっと恥ずかしいです…」


 そう、俺も今更気づいた。

 次のお化けがどこで出るか、気にし過ぎて武藤にくっついてしまったのだ。緊張感が溢れ出すこの屋敷の中で俺は情けないけど武藤に頼っている。


「あ、そんなつもりじゃ…ごめん。」

「いいえ…いいえ!」

「うん?」


 何かためらってる武藤、その声が少し震えていた。


「行こうか?」


 ポケットの中から変なタイミングで鳴く携帯のベルが部屋に響いた。


「わあっ!な、なんだ…俺の携帯なのか…」

「もう、加藤さん〜」


 発信者、春日ちゃん。

『いつ帰ってくるの…』

 

 先輩からのメールだった。


「びっくりさせないでくれよ…」


 携帯をポケットに入れたら後ろで誰が俺の肩を叩いていた。


「何?武藤?」

「…」

「なんかあった?」


 答えない武藤。なんだ、驚かすつもりか…


「しかと…?」


 と、後ろを見た。


「女郎蜘蛛…?」

「へへー」


 女郎蜘蛛の扮装…まじリアル過ぎではないか…

 蜘蛛の足が頬に触れて嫌な感触が感じられた、そして上半身しか見えないのも特殊扮装か…やばい足に力が入らない…


「わぁ!」

「…!!」


 びっくりしてまた床に倒れた。

 6つの足で歩いてくる女郎蜘蛛は床に血を吐き出して、そのまま天井についている。俺を見下ろす蜘蛛は後ろから出る蜘蛛糸で床を散らかした、部屋の雰囲気のせいか倒れて体が固まった俺はただそれを見つめることしかできなかった。気持ち悪いのもほどがあるだろう…これは本当にどこの本で見たような姿だった。

 蜘蛛がゆっくり床に体を下ろした。サイズも大きいな…気づいたら俺の前に立っている女郎蜘蛛。

 そして女郎蜘蛛が俺を襲う時、その中から武藤が出て来た。


「ジャンー!びっくりしました?」

「武藤…?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る