第43話 遊園地で遊ぶ。−3

 なんだこれ…初めて見たけど、心がすごくワクワクしていた。遊園地の派手なアトラクションに目を取られてしまって、隣の武藤が何を言うのか全然聞こえなかった。

 この歳でワクワクするって恥ずかしいな…


「よー!まずは遊園地のハイライトから行こうぜー!」

「ハイライトってなに?」

「地獄に導く列車!それは〜!ジェットコースター!」

「ジェットコースター…!」


 あれって…すごく速くて空でくるくるするやつだな、乗りたい。


「じゃー行こうぜー。」


 夕ってもともとこんな性格だったのか、さりげなく言えるのはいいことだ。少しは夕みたいな性格がほしかった。


「加藤さん、行きましょう!」

「うん…」


 6人でそれぞれの話をしながらジェットコースターまで歩いていた。


「ジェットコースターに乗った後はドキドキするデートの始まりだぞー!」

「それは夕だけだよ…」


 話と顔が違う木上、そう言っていても腕を組んだままじゃ説得力がない、恋人ごっこを存分に楽しんでるよな。


 てか…この感触はもしかして…

 俺、なぜか武藤と手を繋いでいる。いつこうなったのか分からない、ムードに乗っちゃったのか…子供じゃあるまいし、自分が言ったことすら忘れちゃった。俺…

 隣にいる武藤の顔を見るのも少し気まずい感じがする。


「え…あの武藤って…手はもういいかな…」

「やはり…嫌ですね…」

「嫌ってわけじゃないけど…」


 ためらってる武藤が俺を見つめて手を離した。


「うん…」


 落ち込んでいる武藤に何をしてあげればいいのかな。

 不意に武藤の顔から先輩の姿が見えた、その表情も振る舞いも似てる気がしてびくっとした。

 せっかくの遊園地だからいいだろう。


「ごめん…。」


 俺みたいなやつとそんなことやっても嬉しいか…でも…先輩の妹だし、少しくらいなら叱られないだろう。

 俺から他人に何かをするなんてありえないことだと思っていた。でも先輩のおかげで少しは人に慣れていたかもしれない。


 武藤の手を握った。


「あ…!」


「二人!何してんの〜」


 木上が入り口から俺たちを呼んでいる。


「今、行く!」

「…」

「行こう、武藤。」

「はい!」


 ジェットコースターって近いところから見るとなんか逃げたくなる気がするけど、気のせいか。


「これってすごく高くない?」


 二宮さんもこんなの苦手かな、不安の顔をしていた。


「やべー超高いし早く乗りたい。」

「僕もジェットコースターは好きだ、高いほど面白いからさ。」

「そうそうやばいぞーこのスピードって。」


 やはり普通の人はこんなジェットコースターに慣れていたのか…


「武藤は大丈夫?怖くない?」

「初めてなんですけど…でも乗りたいなと思ってます。」

「そうなんだよ!武藤ー!」

「夕!声がでかい!」

「へー!」


 前に並んでいる人たちがどんどん減って行く、そして俺たちの順番が来た。夕からジェットコースターに乗ってテンションを上げている、6人全員が乗った時にジェットコースターが出発した。


「なんかワクワクするぞー!」


 実際に乗って見たらなんかの車に乗った気がした、隣に座っている武藤の手が震えていた。

 二人の手が安全バーで触れていたからなんとなく感じられる。


「怖い?」

「あの高さはちょっと…」


 何かの機械音が響いてジェットコースターが動き始めた。高いところまで上がるこの瞬間、怖いって顔をする武藤が目を閉じていた。


「怖がってるね。」

「全然…平気です。」

「目を開けてから言って…」

「前…ちゃんと見えます…」

「え…だから閉じたままじゃ前は見えないよ?」

「そ、そうですね。」


 緊張と恐怖の感覚が武藤の体を襲ってるみたいだ、そんな武藤の手に俺の手を重ねて言った。


「行こう!!」


 頂上間近に着いたジェットコースターはすごい角度で走っていた。いや、これは落ちるってより空から飛行機とかが墜落する気分だった。


「うわー!」


 ギリギリ…


 風を切る凄まじいスピードから感じられる快感、気持ちいい。2回目の時、俺は完全に

ジェットコースターに慣れたと自慢している間、またコーナーを回る時の角度にびびっていた。

 …やばい。

 人が落ちそうな角度だったけど、俺は武藤の手をしっかり握って反対側の手を上に伸びた。


 目を閉じたまま乗っている武藤の手を離して背中を叩いてあげた。


「加藤さん…」

「前だけ見ていこう!」

「はい…」


 恵が目を開けた時、その前から広がるジェットコースターにしか見えない景色がいた。

 周りのみんながそのスピードを楽しんで笑っているのが見えて、恵も少しはほほ笑むことができた。


「わあー!」


 勇気を出して叫ぶ恵。


 そしてジェットコースターは一瞬で終わってしまった。みんなが降りる時、隣で目眩をしているように見える武藤が俺に腕を組む。

 慣れないジェットコースターのせいだろう。


「す、すみません。少し…」

「目眩したか。」

「面白いけど…速いものに慣れていませんので…腕組んでもいいですか…?」

「うん、いいよ。」

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