第40話 失われた記憶の欠片。−6

 久しぶりに食べる夕飯、いつも通りに先輩は俺の隣に座っていた。


「先輩…毎回言ってますけど前にも席が空いてますよ…」

「こっちがいいって毎回言ってるでしょう?」

「…」


 もっとくっついて密着する先輩、恥ずかしくて顔を合わせるのが出来なかった。茶碗を持って震える俺の右手、頭の中で考えた…今が先輩に聞くタイミングなのかと何度も繰り返していた。

 そして静かな居間の雰囲気を変えるためにテレビをつけた。


「テレビ?」

「静かな雰囲気だったから…」

「そう?ねね、ご飯を食べ終わったら何する?明日休みだからね!外に出よう!」


 みそ汁を一口飲んで先輩を見た。


「日曜日だったらいけます。」

「約束?」

「はい…友達と。」

「よかったねー!友達と遊びに行くなんて!」


 先輩にカップルデートだと言ったら叱られるかな、ひそかに先輩の顔を見ていた。横顔を見て、話そうとしたけど先輩のことが気になって話しづらかった。


「それで誰と一緒に行くの?」


 来た。

 あの質問…


「え…友達…です…ね。」

「うん?」

「康二…夕…で行くことにしました…」

「なんで声が小さくなるの?何隠してる?」


 なんで分かった…この先輩感がいい、違う俺が先輩のことを意識し過ぎだったかもしれない。


「え…何も。」

「春木、分かりやすいよ?その表情。」

「え!」


 そんな顔していたのか…


「女もいるんでしょー?」

「…!」


 ド正論…


「先輩…俺が、あの、女と、それ、できると、おも…思いますか。」


 冷たい先輩の目線が槍のように俺の体を刺していた、ただの目線で心臓が貫かれた気がする。

 先輩の話にドキッとした。


「口ごもってるし、文法も間違っているし…なんだよ!春木!本当に女と遊びに行くの!?」

「え!俺…そんなこと言ってません!」

「何!?本当だったの?ただ聞いて見ただけなのに!誰とイチャイチャするつもりなのー!」


 慌てて先輩から目を逸らした。


「目を逸らしたよね!この浮気者!!」

「えー!俺、彼女もいないのになんでそんな話を…」


 胸ぐらを掴まった先輩が左右に揺さぶって目眩がする…食べたご飯を吐き出しそうだった。

 ただの遊びだと言うところだったけど気づいたら怒っている先輩がいた。


「二股!」

「…先輩、あの…先輩…一応、俺彼女いないので…」

「うるさい!もう…寝るから話しかけないで!」

「え…」


 嵐のような一瞬、閉鎖された俺の部屋に勝手に入ってベッドに横たわる先輩を見つめていた。

 背中を見せながらすねた言い方でしかとする先輩。


「…知らない。」


 また制服を着たままベッドに寝るのか…全く大人気ない先輩だな…、俺は食べた食器を洗った後、他の部屋で寝衣を取って来た。

 

「先輩…?」

「何よ。」

「寝る時には寝衣に着替えないといけません。」

「…」


 体を回して俺を見つめる先輩、横になっている先輩の顔は布団に半分くらいが隠されていた。けれどそのすねた表情はしっかり見える。


「はいはい…もう仲直りしましょう。」

「別に喧嘩してないし…ちょっとムカついたから…」

「え…そうなんですか、すみません。先に言うべきでした。」


 じっと見つめる先輩。


「うん?話したいことでもありますか?」

「じゃ私から仲直りしてあげるからそばで寝て!」

「やっぱりそうなるんですか…」

「でもベッドの方がもっとフワフワするのに春木はいつも居間で寝るじゃん…」

「…俺の部屋は嫌なんです。」

「じゃ…着替えない…」

「え…意地悪い。風呂に入りますから先に寝てください。寝衣はここに置いておきますから。」


 風呂の中に入って一息をした。

 いつ見ても先輩って本当に無防備だな、男の部屋でさりげなく寝る癖も直してあげないと他の男と転がるとか…


「いけない、なんの想像をしてるんだ。俺。」


 先輩がそんなことをするわけない。


 そうして風呂の中で天井を見てぼーっとしていた、お湯はいい今日の疲れが一気にとれる…気持ちいいなー。

 体がキレイになる感じ、好きだ。


 風呂から出て服を着るとこだったけど、寝衣の上衣が床に落ちているタオルに濡れていた。多分、先輩が置きっぱなしにしたと思って上衣と先輩が使ったタオルを洗濯機に入れた。


 寝衣…二つしかいないから濡れた服を着るのはダメだな、俺の部屋なら他の服があるかもしれない…今まで開けてない箪笥の中に。

 こそこそ、先輩が寝ている部屋に忍び込む、よかった先輩はぐっすり眠れたようだった。


「服って…あ、暗いから何も見えないな…」

「えい!」

「わあ!びっくりした…」


 後ろから先輩が驚かせた。本当にびっくりしてしばらくそのまま体が動かなかった。

 ホラーは苦手なんだから…俺。


「ごめん…そんなにびっくりすると思わなかった…」

「寝てると思ったんです…」

「全然?春木のことを待ってたよ?」

「そうですか…」

「へー春木…半裸なんだ。上衣がない!」

「ちょうど…探しに来ました…」

「いらない!寝よう!」


 手首を掴んだ先輩はそのまま俺をベッドに引っ張った。ベッドの上で先輩が俺の上に乗っている感じがした。左手で体を触る感触と先輩の肌から温かい体温が伝われた。


「春木の体、けっこ筋肉ついてるね?」

「うん…筋トレしているから…」

「格好いい…触りたい。」

「先輩も運動したら腹筋とか作れますよ?」

「私は…フワフワの方だけど…」


 そう言った先輩が自分の服を脱ぎ始めた。

 制服のブラウスとスカートをベッドの外に投げ出した先輩は下着姿で俺を抱いていた。

 先輩の胸と細い体が俺にくっついている、肌と肌が触れる感じってものすごくいいことだった…恥ずかしいけど。


「気持ちいいよ…春木。」

「本当…先輩って恥ずかしくないですか…年下の前で下着姿なんて…」

「春木の前なら全裸でも構わないよ?」

「…もうからかわないでください。」


 そう言いながら人差し指で腹筋を触っている先輩が俺に耳打ちをした。


「春木にあのお守りをあげたのは私よ…」

「へ…やはり先輩だった。」

「うん…そうよ。今まで黙ってて…ごめん…」

「いいえ、それだけ…確認したかったんです。」


 ベッドから半裸で絡み合う二人はお互いの赤い顔をバレずに暗い部屋で体を触っていた。


「先輩…一応、俺たち…高校生なんですけどこんなことをやってもいいですか…」

「知らない…春木も感じているくせに…」


 …母、すみません。俺…否定できない行き過ぎたかも。


「それで先輩もう一つ、なぜ俺のことを避けたのか教えてください…」

「その話は…また今度にしよう…今日はこうして寝よう…」

「はい…」

 

 うん、そうこれだけ言ってもらったらいいと思っていた。


「それと、これは…私からのご褒美。」

「はい?」


 先輩が首と上半身を舐めながらキスマークをつけてくれた。


「心配をかけちゃってごめんね。」

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