第89話 ケインに急接近

 高鳥 佐智代は、怒っていた。


 菱友 香澄に反感を抱くケイン田嶋のファンを取り込んできたが、その数が減少していたのだ。いくら、自分が香澄に対抗心を燃やしても、太刀打ちできない もどかしさを感じていた。



(ところで、香澄に相手にされないケインって、どんな奴なんだろうか?)


 佐智代は、これまでケインを見た事がなかった。香澄を常に意識していたが、間接的に 自分に影響を与えていたケインを気にする事がなかったのである。


 ケインの影響が下火になってきた今、初めてケインの事が気になり始めたのである。



 そんな ある日のこと、佐智代はケインを訪ねた。



(あの人がケインだ。 背が高くてモデル見たい。 結構、イケメンじゃん。 香澄が相手にしないって本当かな?)


 佐智代は、いろいろと想像した。そして、思い切って近づいた。



「あの〜」


 佐智代は、不安から声がかすれた。ケインは無視して先に進んだ。



「あの〜!」


 佐智代は、大声で叫んだ。



「なんだ! 俺に用か?」


 ケインは、驚いて振り向いた。



「私は、2年の 高鳥 佐智代よ。 私の事を知ってるよね!」



「知らない」


 ケインは、そっけなく返事した。



「あんたさ。 なんで、菱友 香澄に猛アタックしてるの? あんな女のどこが良いの? 私の方が、絶対に美人よ」


 佐智代が、自信を持って主張すると、ケインは首をかしげた。



「君が、静香より美人だって? まずスタイルが違うぞ。 それにフェイスも違いすぎる。 香澄は整った美人だが、笑うと凄く可愛い。 アメリカにも彼女ほどの美女はいなかった。 もちろん 日本でもナンバーワンだ!」



「あなたの目は、どうかしてるわ。 良く見てよ! 私の身長は、平均より高い160センチよ。 スリーサイズはナイショ。 顔だって、皆んなに美人って言われてるんだから!」


 佐智代は、ムキになった。



「ふ〜ん。 確かに君は平均より上だが、香澄に比べたら足元にも及ばないぜ」



「そんな事はない。 他にもあるわ。 私の父は、優良ベンチャー企業を経営してるわ。 社長令嬢なのよ」


 住菱グループに敵わない事は分かってるが、悔しくて つい言ってしまった。


 しかし、ケインは食いついた。



「高鳥さんと言ったっけ? 君は、お嬢様なのか?」



「そうよ。 朝晩、父を会社の車が送迎してるわ」



「親父さんは、なんの会社を経営してるんだ?」



「システム開発の会社よ。 独自のノウハウがあるとかで、不動の地位を築いてるわ。 大企業にだって負けないんだから!」


 佐智代は、得意げな顔をした。



「そうか …。 さっきは酷い事を言ったが、俺って素直じゃないんだ。 大体が反対の事を言ってしまう。 特に美人の前ではな!」



「どう言う事よ! ハッキリと言っちゃってよ!」



「佐智代さんは、凄く美人だよ」


 佐智代の顔が赤くなった。



「菱友 香澄と、どっちが美人?」


 佐智代は、挑戦的な顔をした。



「佐智代さんの方が美しい。 なあ、今度の休みに、一緒に出かけないか?」



「良いわよ」


 佐知代は、嬉しそうに言った。



「俺は、将来実業家になるのが夢なんだ。 君の、親父さんを尊敬する」



「今度、言っとくわ」



「サクセスストーリーを聞きたいぜ!」



「じゃあ、家に来なよ。 パパに言っとくからさ」


 佐智代は、爽やかに笑った。


 気のせいか、彼女のトゲトゲしさが無くなったようだ。



「本当か? 楽しみだぜ!」


 ケインも、爽やかに笑った。



◇◇◇



 日曜になった。ケインは、佐智代と待ち合わせの駅に着いた。約束の時間を過ぎていたが、気にする様子は無かった。



(ヤベー。 遅れたから帰っちまったのかな? まあ、良い。 俺も帰るか)


 そう思って帰ろうとしたところ、誰かに呼び止められた。



「ねえ、ケイン。 遅いじゃん。 まさか、この私がスッポカされるかと思ったわ」



「スマン。 まだ日本の電車に慣れてなくてさ。 それと、日本人は時間に正確だけど、俺が育ったアメリカでは、そこまでの観念がなくてさ。 まあ、言い訳になっちまうがな」


 ケインは、両手を広げ謝った。



「今回は、多めに見るけど次は許さないからね」


 佐智代は、わがままなお嬢様であった。



「イエッサー。 ところでさ。 まずは、君の親父さんのサクセスストーリーを聞きたいんだが可能か?」



「えっ。 この私がいるのに何でパパなの? 意味分かんない!」


 佐智代は、ムッとした。



「交際するにあたっては、まずは親の承諾がいるだろ。 俺は、そこら辺をちゃんと しときたいのさ。 つまり佐智代を大事に思ってるって事さ。 ダメか?」



「分かったわ。 でも、普通は親に会いたがらないものよ?」



「さっきも言ったが、佐智代のためだと思ってるから、嫌でもケジメをつけなくちゃならないと思うんだ」



「よく分かんないけど、まあ良いか。 これから、家に行くから着いて来な」


 そう言うと、佐智代は先に歩いて行った。



「ちょっと待てよ」


 ケインが追いかけて手を握った。



「えっ、いきなり何?」


 佐智代は、顔を赤らめた。



「どうした佐智代。 手をつないで緊張したのか?」



「そんな訳ないわ。 何よ、この位 平気よ」


 佐智代は、強がったが、実は 男子と交際したことがなかったため、かなり緊張していた。



 しばらく歩くと、高級住宅街が立ち並ぶ一角に入った。



「ここが私の家よ」



「そうか!」


 豪華な家を見て、ケインは満足そうだ。



「何をニヤついてるの?」


 佐智代は、不思議そうにケインを見上げた。


 

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