第75話 立石の逆襲

 黒塗りの高級セダンに乗り、駒場学園高校に着いた。



 降りぎわに、運転手が声をかけた。


「旦那様から、控え室のカードキーを渡すように仰せつかっています。 お受け取りください。 お帰りは午前11時50分に お待ちしております」



「香澄さんは、来てるんですか?」



「香澄お嬢様は、違う運転手が送りました。 だいぶ前に、着いています」



「分かりました」


 俺は、運転手に一礼し、校舎に向かった。



 玄関に入ると、校長の宮坂が出迎えた。


「菱友社長から聞いております。 ご指導よろしくお願いします」



「承知しました。 場所は分かりますので、入らせていただきます」


 校長に断ると、新館の武道場に向かった。



 道着に着替え、菱友家の専用控え室から出ると、大勢の女子部員が集まって来た。



「三枝 特別師範、よろしくお願いします!」


 皆が一斉に挨拶すると、素早く整列した。見ると、前より部員が多いように思える。


 俺が、不思議そうな顔をしていると、すかさず香澄が大声で話した。



「押忍! 新1年生が多く入部したので、部員が 8名増えて 20名になりました。 今日の練習を、ご指示ください」



「了解した。 まずは、道場を10周した後、次に、形の自主練習をしてくれ」


「畏まりました。 皆、私に着いて来るように!」


 香澄が先導し、外周を走り出した。



 しばらく眺めていると、空手着姿の男が、俺の前に現れた。



「ようっ、三枝 特別師範! 女子部だけでなく、俺にも指導してほしいが、少しだけ付き合えよ! それとも、怖くて来れないか?」


 立石だった。



「怖かないが …。 あなたは、卒業したんじゃ?」



「ああ、卒業したさ。 今日は、三枝 特別師範が来るってんで、わざわざ見に来たのさ」 


 立石は、不敵な笑みを浮かべた。



「この通り、俺は 女子部を指導しているから行けない」



「女子部の指導だと? 笑わせるな! お前より菱友部長の方が、練習の段取りが上手いわ」


 悔しいが、立石の言う通りだと思った。



「来いよ!」


 立石は、目配せして先に進んだ。俺は、無言で彼の後を追った。



◇◇◇



 しばらく歩き、旧館の武道場に着いた。そこには、他に5人の男子がいた。



「以前、お前に喧嘩組手で敗れたが、あの時は 油断していたからだ。 本来なら、お前ごときに負けるはずがない!」


 立石が言い終わると、他の男子も同調した。


「そうだ! 立石先輩は油断していたが、今日は違う。 俺たちが見届けるから、これから、もう一度試合をするんだ!」


 そう言うと、5人の男子は逃げ道を塞いだ。俺を倒そうとウズウズしてるようだ。



「おいおい、6対1で俺を倒そうとしてるのか? それで勝っても自慢にならんぞ!」


 俺は、呆れた顔をした。



「つべこべ抜かすな! ビビってるんだろう。 だが、安心しろ、相手はこの俺1人だ。 おい、お前らは手を出すなよ!」


 立石は、俺を挑発した。



シュッ



 立石は、いきなり、上段回し蹴りを放ってきた。



 俺は、それを低くかいくぐり、相手の後ろの間合いに入った。



シュッ



 立石は、足を払ってきた。


 俺は、それをかわすと、間髪入れず手刀で背中の急所を強打した。



ドスッ



「ウグッ」



 立石は倒れて、もがき苦しんだ。


 それを見て、周りの部員は一斉に構えた。



 俺は、1人の部員の間合いに入り、古武道の体術により、腕を絡めて一気に投げ飛ばした。


ズドンッ



 すると、他の部員の1人が叫んだ。

 

「おいっ、空手以外の技を使うとは卑怯だ …」



バンッ



「ウゲッ」


 俺は無言で、脇腹に回し蹴りを入れた。彼は倒れ、苦しそうに息を吐いた。



「大勢で1人を相手にするのは、卑怯じゃないのか? これは喧嘩だよな! テメエらがその気なら、俺も本気で行くぞ。 良いか、命懸けで来いよ!」


 俺は、残りの3人を睨みつけた。



「ウアー」



ズドッ



 立石が起き上がり、叫びながら 俺の左肩に回し蹴りを放った。油断していたため、まともに受けてしまった。


 左肩に激痛が走ったが、相手に悟られないよう無言で 立石の間合いに入り、古武術の技で逆関節を取り、勢いよく投げ飛ばした。



ズドッ



「ギャー」


 立石は、のたうち回った。右肩の関節が外れたようだ。



「おいっ、どうする!」


 俺が、残りの3人を睨みつけると、素直に道を開けた。


 俺は、ゆっくりと歩き、新館の武道場に戻った。



◇◇◇



 新館の武道場に着くと、女子部員達は 形の自主練習をしていた。周りを見渡していると、香澄が近づいて来た。



「三枝 特別師範、どちらに行かれてたんですか?」



「すまん。 立石に呼ばれ旧館の武道場に行ってたんだ」



「えっ、あいつ卒業したのに、何しに来たんだろ。 まさか、何かされた?」



「喧嘩組手をして来た。 だが、仲間が5人もいたから、いつの間にか喧嘩になってしまい、立石と他の2人を倒してここへ戻った」


 俺の話を聞いて、香澄は 驚いた顔をした。



「立石先輩は、第一志望の東慶大学に落ちて浪人してるはずだけど、何やってるんだか? 浪人中にも関わらず、時々、食事に誘われるのよ。 あいつダメ人間よ! もちろん断ってるけどね」


 香澄は、呆れた顔をした。



「そうなのか? まあ、俺には関係のない話だ」


 俺は、さっき痛めた左肩をおさえた。



「私を誘うのよ。 関係なくは無いでしょ!」


 香澄は、不満そうに俺を見た。



「それより、肩を怪我したの?」


 香澄は気が付いたようだ。俺は、左肩から手を離した。



「どうって事は無い。 練習に戻ったらどうだ?」



「分かったわ。 ねえ、元太さん。 私の性格だけど …。 改善してるか見てよ!」


 香澄は捨て台詞を吐いた後、赤い顔をして走り去った。


 俺は、また肩を押さえ 香澄を見送った。

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