第47話 支援の条件
母は、心の中を覗くように俺の目を見据えた。
「元ちゃんは、まだ女の子と付き合った事が無いでしょ?」
「少しだけなら、あるさ」
「へえ~、本当に? 誰よ、直ぐに紹介しなさい!」
母は、興味深そうに聞いてきた。
「いや、事情があって紹介できないんだ」
「なんだ、思い込みかな?」
「そうじゃ無いけど、菱友さんの言う条件てなんだよ?」
俺は、話を逸らした。
「そうそう。 菱友さんには子供が2人いて、皆 女の子なんだって。 長女の 香澄さんは、成績優秀でスポーツ万能、でも少し変わっていて武道を好むらしく空手三段だって。 凄く綺麗な娘だってさ。 でもね、見かけと違い気が強くて男子を見下すから、両親はとても心配してるんだって」
「それが何だよ?」
「元ちゃん、察しが悪いよ。 香澄さんとデートする事が条件だってさ。 菱友さんは、元太ちゃんを見所がある男子と思っているらしく、香澄さんの男性観を変えてくれるんじゃないかと期待してるみたい。 もしだったら付き合ってくれても良いってよ」
「なんだよ、俺だってジャジャ馬は嫌だよ。 だいたい、その娘の歳はいくつなんだ?」
「同じ高校1年よ。 元ちゃんの通ってる高校と肩を並べる進学校の 駒場学園高校に通ってる。 あちらは、同じ私立でも名門だから、金持ちが行く学校よ」
「俺には、好きな人がいるからダメだ」
「嘘でしょ。 本当なら直ぐに説明しなさい!」
「複雑な事情があって、今は言えない」
母が、シャシャリ出ると面倒になるから、その先は言えなかった。
黙っていると、母が切り出した。
「やっぱり嘘ね。 案外、元ちゃん意気地がないね。 あ~、情けない! でも、無理する事はないよ。 母さんがいるからさ」
母は、嬉しそうに俺を見た。
「何で、母さんがいるからなんだよ?」
「そんな事、言わないの!」
「じゃあ、1回だけなら会ってやる。 どうって事はねえ」
「そう、会うのか。 実は、もう段取りが決められてるのよ。 今度の日曜の午後1時に、武道館の施設内にある小道場で待ち合わせなの。 これが地図だから彼女を探すのよ。 何かゲーム見たいでワクワクするね。 写真とか無いから声をかけるしかないわ。 あと、自分の空手着を持参してね」
「えっ、空手の稽古をするのか? 空手は中学1年でやめたから、道着が小さくて着れないよ」
「空手着は、買って行けば良いでしょ。 これで友人を救えるのよ。 でもね、元ちゃんが嫌なら、無理にとは言わないわ。 母さんが断ってあげるからね」
母は、ニコニコしながら言った。
「・ ・ ・」
「それじゃ、夕飯を作るわよ! 元ちゃんも手伝って」
俺が黙っていると、母は肩を叩いた。
◇◇◇
日曜になった。本来であれば、安子が家を訪ねる日だったが、例の転校問題で、それどころでは無くなっていた。菱友の娘の事を考えると、複雑な気分になった。
今日は、日曜なので朝から両親がいる。
「元太。 今日は、菱友 香澄さんとデートだろ。 香澄さんが中学3年の時に会った事があるが、礼儀正しくて凄く可愛い娘だぞ。 まあ、母さんほどでは無いがな! ハハハハハ」
父が、嬉しそうに母を見た。
「何言ってんの! 歳を考えてよ」
母は、照れていたが満更でもなさそうだ。目を見れば分かる。
「元太。 人生において 美人と巡り会えるチャンスは、そんなには無い。 俺が母さんと出逢えてチャンスをものにしたように、お前も頑張るんだぞ!」
いつもは寡黙な父が喋り過ぎると、何か不安になってしまう。
「もう出かける!」
「えっ、元ちゃん。 もう行くの? やっぱり、嫌ならやめて良いよ。 元ちゃには母さんがいるものね」
母は、少し寂しそうな顔をした。
「おい、母さん。 子離れしないとダメだぞ!」
「良いのよ。 いつまでも可愛い、私の子よ」
母の話しを聞いて、父は 少し不機嫌そうな顔をした。
俺は、2人から逃げるように家を出た。
◇◇◇
待ち合わせの時刻には だいぶ早かったから、最初 空手着を買いに行った。新品ピカピカで、いかにも練習して無い事が分かる。俺は、空手は2段だが、彼女の方が上だ。負ける事は無いと思うが、少し不安になって来た。
組み手で体力を消耗しそうなので、少し早いが昼食を食べてから行く事にした。デートには、ほど遠い雰囲気である。
その後、腹も膨れたので早々と武道館の施設内にある小道場に向かった。
12時過ぎに着いたが、昼に差し掛かったため、誰もいなかった。
しょうがないので、俺は空手着に着替え 正座し黙想した。祖父と古流柔術の練習をする時にいつもしていた事だ。ちなみに、柔術は俺の最も得意とする分野で免許皆伝だ。
20分ほど黙想していると、人の気配を感じたが、そのまま続けた。
「なんや、お前?」
誰かが、話しかけて来たので、俺は目を開けた。そこには、柔道着を来たデカイ男がいた。若そうだが、老け顔なので年齢不詳だ。
「お前、新調した空手着で、何しに来たんや? これから柔道の練習が始まるんや。 部外者は、どこかへ行け!」
かなり、横柄な態度だ。
「俺は、ある人を訪ねて来たんだ。 場所はここに間違い無い。 午後1時に来るはずなんだ」
俺が答えると、男は苦々しい顔をした。
「まさか、菱友のお嬢様を待っとるんか? お前が、嫌がるお嬢様に無理矢理に会おうとしとる、どこぞの馬の骨か?」
「馬の骨とは失礼だな。 お前は、誰なんだ?」
俺は、少し怒りが込み上げて来た。
「このモヤシが、俺と乱取りする勇気があるんか?」
男は、俺を挑発した。
「ああ、上等じゃないか。 いつでも相手してやるぜ。 但し、俺は、柔道のルールではやらないぞ!」
俺の怒りは、頂点に達していた。
「このモヤシが粋がるな! 直ぐに落としたる」
そうこうしていると、他の練習仲間が集まって来た。
「飯尾、どうした?」
「これから、口のデカイ馬の骨野郎と試合をする。 お前ら見届けてくれ。 菱友のお嬢様に良いところを見せたいからな」
言い終わると、俺と奴は 畳の中央に相対した。
「お前、眼鏡外さんで良いんか? ぶっ壊れるぞ。 ホンマ素人やな」
「気にしないで良い。 飯尾さんとやら。 俺を甘く見ない方が良いと思うぞ!」
俺は、飯尾を挑発した。
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