第45話 行き着く先

 貴子は、立ち上がった。


「三枝君と田中さんの悪い噂を流すよう指示したのは私です。 私が桜井君に頼みました。 金子さんは桜井君に好意を持ってるから、彼はそれを利用して操ったのだと思います。 私は、三枝君が好きです。 今まで、一緒に勉強したりして付き合って来ました。 そんな中、桜井君との婚約を条件に父の会社を救うとの話が持ち掛けられたのです。 私は、家の事を考え応じました。 三枝君を裏切ったんです。 それにも関わらず、自分勝手にも三枝君と田中さんに嫉妬して、根も歯もない噂を流すようお願いしたんです。 だから、私が一番悪いんです」


 貴子は、目を真っ赤に腫らし必死に説明した。俺は、それを見て貴子の事が心配になった。



「三枝が不良で、あなたが洗脳されているとの噂はどうかね?」


 北見は、貴子に聞いた。



「その話は、知りません。 三枝君と私を別れさせるために、桜井君が仕組んだ事だと思います」



「桜井は、反論あるかね?」


 北見は、涼介に聞いた。



「貴子、待ってくれ。 俺はずっと、誰にも負けないで待ってたんだぞ。 頼むから、いなくならないでくれ! お前が好きなんだ」


 涼介は、少し様子が変だ。



「もう良い。 状況が分かった。 金子に言うが、ここであった事を口外してはならない。 君がやってる人の噂を広めるのは犯罪だと言うことを自覚しなさい。 今回の件で処分がある事を覚悟しなさい」



「申し訳ありませんでした。 二度としません」


 優香は、力尽きたように うなだれた。



「桜井と鈴木については、量定の検討が必要だ。 場合によっては、追加の聞き取りをするかも知れない。 それから 三枝は、今日だけは 鈴木を見てあげなさい。 君にも事情があるだろうが、今の鈴木を慰められるのは君しかいない。 分かるな」



「はい。 分かりました」



「貴子、ダメだ。 俺と来るんだ!」

 

 涼介は、必死に訴えた。



「桜井、黙りなさい。 君が、鈴木を苦しめてる事が分からんのか。 鈴木と関わってはならん。 この事は、桜井と鈴木の両親にも伝える」


 北見は、強く言った。それを聞き、涼介は、うなだれて この場から出て行った。



◇◇◇



 俺と貴子は、特別に早退させてもらった。


「元ちゃん、ごめんね。 もう迷惑かけないから安心して。 最後に図書館に付き合ってほしいな」


 貴子は、以前のように明るい表情になった。


 俺たちは、都立図書館に向かった。


 図書館に入ると、貴子といつも座っていた席に着いた。



「元ちゃん、この時間だと空いてるから貸切状態ね。 お得感があるよ」



「ああ」



「やだ、元ちゃん。 最初の頃に戻って寡黙になってる」


 貴子は、ニッコリと微笑んだ。



「元ちゃん。 会社に電話して父に話したんだって? 私のために電話してくれて凄く嬉しかったよ。 元ちゃんの事を 好きだった人と言ったら、絶対に会うなと釘を刺されたわ」


 貴子は、涙を堪えているようだ。



「私ね、親が離婚して辛い時期に、涼介に憧れていたんだ。 だから、のぼせてたのかも知れない。 それに、彼といる時、なぜか、私と同じ、いやもっと深い悲しみが見えた気がしたの。 それで助けてあげたくなり彼に優しくした。 そうしたら、これまで冷たかった彼の態度が豹変し、私を好きだと言うようになったの。 それで、婚約するしかないと思い始めた」


 貴子は、下を向いて涙をこぼした。



「涼介は、貴子の優しさに惹かれたんだよ」



「ううん。 涼介の父親から聞いたけど、小さい頃に母親を交通事故で亡くしてるんだって。 もしかすると、私にその面影を見ていた気がする。 あっ、涼介とやましい事はしてないよ。 元ちゃんとキスしたのが初めてで、他にはした事ないのよ」


 貴子は、必死に弁解した。



「貴子は、涼介が好きなのか?」



「ううん、違う。 私は過去に涼介に憧れていた事もあり、また、父の会社の事もあったから、涼介が好きだと思い込もうとしたんだと思う。 自分でも分からなくなる」


 貴子は、我慢できず泣きだした。



「私は、元ちゃんが好き。 これが本心よ。 でももう遅い。 元ちゃんには、安子がいるから」


 俺は、何も言えなかった。



「父にも言ってないんだけど、九州の実家の母に連絡をしたんだ。 私が来る事に叔父さんも賛成してくれた。 奨学金で九州の国立大学を目指すわ」



「そうなのか?」



「本当は、元ちゃんに相談したかったけど、メールを送っても無視されたからダメだった。 でも、今日伝えられて良かった。 実は、九州の公立の進学校に2学期から転校する予定よ。 九州に行くと決めたら、気分が楽になったわ」



「貴子の家の会社を救えるか、母さんが聞いてるから、結果が分かるまで待ったらどうだ」



「ううん。 父や桜井家と決別したいから、ここには居られない。 でも、もしも会社を救う方法があるなら、私の事とは別に進めてもらえると嬉しいな。 あんなんでも父だから」



「分かった。 なあ、お前が九州に行っても、俺たち友達だよな!」



「ありがとう。 もし、安子と別れてフリーになったら、もう一度私と付き合ってほしい」


 貴子は、小さな声で言った。



「まあな」



「それって了解って事よね。 最初に聞いた時、何言ってるか分からない時があったわ。 でもね、そうは言っても、私もいつまでも1人とは限らないから売り切れ御免よ」


 貴子は、明るく笑った。以前の貴子に戻ったようだ。



「元ちゃん。 最後に言うけど、変な噂を流してゴメンなさい。 安子との事に嫉妬して勢いで涼介に頼んだけど、凄く後悔した。 安子も言ってたけど精神がおかしくなってたと思う。 彼女にも謝ろうと思ってる」



「安子は、スマホを親に取り上げられてるんだ。だから連絡ができないぞ」



「じゃあ、家を訪ねるよ」



「お前、安子の家を知ってるのか?」



「えっ、元ちゃん。 付き合ってるのに家も知らないの。 信じらんないよ。 彼女の家は凄いお金持ちなのよ」



「訪ねる時、俺も行きたいが良いか?」



「校長室で、父親が安子を休ませてると聞いたけど、今 行けば会えるかも。 これから行く?」



「ああ、頼む!」


 

 俺と貴子は、安子の家に向かう事にした。

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