第2話 グループ交際

 土曜の深夜、寝ようと思ったら涼介から電話が来た。


「夜分すまん。 明日のグループ交際の件だけど、9時の待ち合わせより30分ほど遅れそうなんだ。 必ず行くから、それまで待っていてほしいんだ。 田中 安子と、もう1人女子が来ると思うから、相手してやってくれ!」



「もう1人の女子って、誰だ?」



「田中が連れて来ると思うが、誰か聞いてない」



「しかし、俺1人だと間がもたないから、女子どもは帰ってしまうぞ!」



「大丈夫、堂々といつもの通りにしてれば良いさ! もしも彼女達が帰ってしまったら、2人で海釣りにでも行こうぜ。 その方が楽しいかもな。 すまんな」



プツッ



 電話を切られた。



「女子2人と何を話せば良いんだ?」



 俺は、悶々としながら寝た。



◇◇◇



 いつの間にか、翌朝になっていた。少し寝不足だ。


 俺は、律儀な性格のため、約束の時刻より早い、8時40分には待ち合わせ場所に着いた。


 約束した場所の、城東公園の入口を見渡すと、安子がいるのが見えた。しかし、俺を見ても知らんぷりだ。



「あのう」


 俺は、恐る恐る声をかけた。



「え~、まさか君なの?」


 安子は、いかにも残念そうに答えた。美しい顔が台無しだ。



「まあ、そんなとこさ。 迷惑なら帰るが?」



「迷惑なんて言ってないじゃん。 それはそうと桜井君はどうしたの?」


 安子は、不満そうに聞いた。



「涼介は、30分ほど遅れると言ってた」



「あっ、そうなの。 私、少し離れるけど、ここに居てくれる」



 そう言うと、安子は何処かへ行ってしまった。



 俺は、腕を組み仁王立ちで待った。


 しばらくすると、遠くから女性が近づいて来るのが見えた。



(あれは、もしや)


 俺の心臓の鼓動が高鳴った。初恋の人、鈴木 貴子だった。



「あれっ」


 貴子は、俺の方を見た途端、違う方向に歩いて行ってしまった。



(助かった!)


 緊張しまくりの状態から解放され、一安心だ。嬉しいようで悲しい複雑な気分になった。



 俺は仁王立のまま、結局、9時40分まで立っていた。



(涼介も用事で来れないようだし、田中 安子もどこかへ行ったきりだし、待っててもしょうがないか)


 そう思い、帰ろうとした。



◇◇◇



「元太、だいぶ遅れてしまった。 すまん!」


 背後から、涼介の声がした。


 彼が来ると、何故か、安子ともう1人の女子が現れた。もう1人の女子は、俺の初恋の人、鈴木 貴子だった。



(鈴木さんは早くに来たのに、いったい何処にいたんだろう?)


 素朴な疑問が浮かんだが、初恋の人を意識してしまい、再び、心臓の鼓動が高鳴った。



「元太さんだったんだ。 安心したよ」


 貴子が俺の名前を呼んだのを初めて聞いた。しかも、まぶしい笑顔を俺にくれた。



「三枝さん、今日はよろしくね!」


 安子は、さっきの態度とは打って変わり、愛くるしい笑顔で俺に挨拶した。涼介が来てから、態度が明らかに違う。



「なあ、今日はどうする?」



「公園の外れにある、観覧車に乗ろうよ!」



 涼介が尋ねると、貴子が答えた。



「そうね、行こうよ!」


 安子も同意した。


 俺は、正直、気が進まなかったが、成り行きに任せようと思った。



「なあ、元太は、それで良いのか?」



「ああ、文句は言わないさ」



 俺は、精一杯の笑顔で答えた。涼介は、そんな俺を見て不思議そうな顔をした。



「分かった。 元太が、それで良いなら決まりだ」



 4人は、公園の外れにある観覧車に向かった。



 乗り場に着くと、女性2人が、何やらもめている。



「この観覧車は2人乗りだけど、私が桜井君と乗るね。 貴子は幼馴染の三枝君と乗るんでしょ」



 安子が言うと、貴子はムキになって反論した。



「えっ、三枝君とは近所だけど、幼馴染じゃないよ。 ジャンケンで決めようよ!」



 何やら、女性2人険悪なムードだ。



「俺と元太で乗るから、君達2人で乗りなよ! 仲良くな」



「えっ、別に喧嘩してないよ」



 安子は、困ったような顔をした。



「そうよ、喧嘩なんてしてないよ。 でもね、観覧車は男女で乗らなきゃ楽しくないでしょ。 だからジャンケンで決めようよ」



 ジャンケンなんて言ってるが、貴子も、涼介と乗りたいのが見え見えだ。


 俺の初恋の人は、明らかに涼介を狙ってる。何だか、惨めな気持ちになった。



「元太と鈴木さんは近所なのか?」



「近所と言うだけよ。 だから、何でもないから!」


 涼介が言うと、貴子はムキになって否定した。



「近所のよしみで、鈴木さんは元太と乗りなよ」



 涼介に言われ、貴子は渋々と頷いた。


 それでも貴子と2人きりになれると思うと、俺の鼓動は高鳴っていた。

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