第23話 王太子殿下との密会(1)

 翌朝、エイナに起こされた私は、お母様と一緒に食事を摂る事になった。

 妃教育が行われてから、殆ど両親と食事を摂ったことがない私にとっては数少ない事柄ではあったのだけれど、お母様とは昨日、仲違いをした事もあり、話しづらいという気持ちがあった。


 現に並んで食事をしているという訳ではないのだけれども、お互いに言葉を交わすというか切り出すタイミングが無い事もあり、無言で粛々と朝食を口に運んでいるだけ。


「ディアナ様」


 私とお母様が、まったく会話をしない事に業を煮やしたのかエイナがお母様の傍に近寄っていた。


「どうかしたのかしら?」

「先日の件ですが――」


 後ろの方の言葉は聞き取れなかったけれども、文脈からして私が教会に赴いたことを話しているというのは容易に想像がついた。

 実際、教会に聖女としての認定をさせるようにとエイナに取り計らったのは、お母様なのは確かで……、そうでないのなら雇われている身分のエイナが勝手に私を教会に連れて行くなどと言う行為に及ぶはずもない。


「そう……」


 殆ど、声に抑揚の感じられないお母様と、職務に忠実なエイナの会話が終わったかと思うと――、


「クララ」

「はい」


 私の名前を呼んでくるお母様の言葉に、私はフォークとナイフを置き、お母様の方へと視線を向ける。

 お母様も、すでに食事を終えていた。


「貴女は、これからどうするつもりなのかしら?」

「どうするとは?」

「貴女が昨日、行った行動に関してはエイナから報告は受けています。その後、どうするつもりなのか? と、聞いているのですよ?」

「それは……、ラインハルト様をお救いする事です」

「そう」


 まるで演技をするかのように深く溜息をつくお母様。


「貴女の行いについては、マルク公爵家は一切、関与する事が無いという事は理解しておきなさい。貴女が勝手に一人で行動したのですから、分かっていますね?」

「分かっています」

「それならいいわ」


 いまの話のやり取りは、言質を取ったという事は分かる。

 つまり、何か問題が起きた時に公爵家は一切の責任を負わないということ。

 ただし、私が貴族籍に居る場合は、何か問題行動を起こした場合、家に迷惑が掛かることになる。

 でも、今回は事情が異なる。

 私を聖女として認定したのが教会となると、まずは教会の庇護下に入ることになる。

 そうすれば、貴族籍を持っていても教会としての聖女としての立場が最優先されるので、何か問題が起きたときに、娘が勝手に行動した事であり、教会の庇護に入っている為、教会に問い合わせてくださいと、外面上は責任を逃れる事ができる。

 まぁ、中から見たら、その限りではないけれど、爵位剥奪などを行うことは出来ない。

 何せ、教会と国が事を構えるのは国が乱れる可能性もある事から、賢明ではないから。


 



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