第20話 教皇との対話(2)

 ドアを案内してくれた女性が開けてくれ、室内に通される。

 そこは教皇の間であり、諸国の王や使節の方、そしてイグニス王家関係者や上級貴族が通される部屋という事もあり、見るからにしてお金が掛かってそうな調度品が部屋の隅に飾られていた。


「もう下がってよいぞ」

「失礼致します」


 齢80歳を超える教皇アウラの言葉に、シスターは頭を下げドアを閉めた。

 私は、教皇様に視線を向けスカートの裾を掴むと貴族の礼をする。


「久しぶりであるな。クララ・フォン・マルク」

「はい。お久しゅうございます。教皇様」

「立ち話もなんだ。座るとよい」

 

 私は勧められるまま、ソファーへと腰を下ろす。

 

「――で、話は枢機卿から聞いたが、精霊神教の力添えが必要だとか」


 少しは雑談をするのかと思っていたけれど、教皇様は遠回しの話は無用だとばかりに、話を切り出してきた。


「はい」

「なるほど……。――では、教会として答えるとしよう」


 もう答えが決まっていたのね……と、思いつつ私は耳を傾ける。


「まず、聖女認定することは出来ない」


 その言葉に私は言葉が喉に詰まる。

 まさか、教会側が聖女認定をしないとは思ってもみなかったから。

 

「――では、回復魔法は必要ないと……」


 思わず、自身の特別性を持ち出し教会側へ話す。

 それは、言い換えれば教会からの要請で一切、回復魔法をする事は無いという事に近く、端的に言うならば脅しに近い。


「クララ殿。勘違いされては困る」

「どういう意味でしょうか?」


 教皇様の言葉に、私は少しだけ棘のあるような素振りで言葉を返す。


「あくまでも教会側は正式に聖女認定はしないという事だ」

「つまり裏では聖女認定をするという事ですか? ――ですが、それに何の意味があるのでしょうか? 王宮側に働きかける為には精霊神教の聖女としての肩書が、私には必要なのです」


 私の言葉に、教皇様は小さく頷く。


「それは分かっておる。だからこそだ……」

「つまり聖女として認定はしないけれど、裏では聖女として認定するという事ですか?」

「それに近いが……枢機卿」

「はい」


 教皇様は、隣に座っていた枢機卿へと説明を託す。


「まず、教会側はクララ様を聖女として認定を致します。――ですが、本洗礼に関しましては、婚約破棄をされた身と言うことで、神へその身を捧げる浄化期間を設けることで、洗礼を遅らせます」

「つまり、本洗礼はしないけれど……聖女として認定をするという事ですか? それって、教会として、どうなのですか?」

「ですから、教会としては表だって聖女としては認定は致しませんが、暫定的な立場として聖女としての地位を与えるという事です」





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