第1話
『軽巡航艦、それは
その最大加速度は巡航戦艦、重巡航艦を凌駕し、搭載する大型ステルスミサイルは巡航戦艦を一撃で轟沈し得る……。
(中略)
軽巡航艦はいわゆる万能艦である。艦隊戦ではその機動力を生かして敵の側方や後方に回りこみ、大型ミサイルにより敵の戦列を脅かす。
また、その加速性能と長大な航続力は、
武装商船や仮装巡航艦を凌駕する能力は、国内での
しかし、この万能艦にも弱点はあった。スマートな艦体に重巡航艦とほぼ同じサイズの
小型艦であるスループ艦に比べ容積比で十倍以上、逆に乗組員数は二倍程度でありながらも、下士官兵たちはスループ艦の方が、居心地がいいと断言するほどだ。
また、その防御力は前面こそ同クラスの主砲に耐え得るものの、側面の防御力は駆逐艦の主砲にすら耐えられないほど弱い。そのため自慢の機動力を失った状態、すなわち、〇・〇一
それでも軽巡航艦に憧れる宙軍士官は多い。私も憧れを持つ一人だが、やはり美しく力強い
(中略)
タウン級はそのバランスの良さから半世紀以上にわたり基本設計を変更する必要がないほど完成された艦である。アルビオン王国軍士官が軽巡航艦と聞き、最初に思い浮かべる艦でもあった。
タウン級には多くの派生型が存在するが、その中でも最も特異な存在が、“DOE”と略されることが多いデューク・オブ・エジンバラ型であろう。
“デューク・オブ・エジンバラ”という名は本来二等級艦以上の戦艦に相応しい名である。その名が五等級艦である軽巡航艦に付けられている理由はただ一つ、それはアルビオン王室専用艦を表すためだ。
DOE型はその名に相応しく、艦長は慣例として
(中略)
タウン級に大きく劣る戦闘力であり、王室専用艦という制限が多い艦でありながらもクリフォード・カスバート・コリングウッド中佐は優勢な敵に対し……(後略)……
ノーリス・ウッドグローイン著「ライトマン社発行:マンスリー・サークレット別冊“軽巡航艦”」より抜粋』
■■■
アルビオン王国軍少佐クリフォード・カスバート・コリングウッドはキャメロット星系の首都チャリスにいた。そして今、王家の離宮で数多くの軍関係者、それ以上に多い報道関係者に囲まれている。
彼はジュンツェン星系会戦での活躍により、二度目の
彼の胸に勲章を付けた人物はアルビオン王国第一王位継承権保有者、王太子エドワードであった。王太子は人好きのする笑みを浮かべながら、
「おめでとう、
「ありがとうございます、王太子殿下。ですが、私は
クリフォードは王太子が言い間違えたと思っていた。
彼は自分の功績ではDSCでも充分すぎると思っていたし、何より少佐に昇進してからまだ二年しか経っておらず、今回昇進するとは考えていなかった。
「そうだね。言い間違えたよ、
勲章の授与式が終わり、大広間から出ると、彼の周りに記者たちが殺到する。軍の広報担当官が「他の受勲者と共に会見場で質問は受け付けます! 下がってください!」と叫びながら遮る必要があったほどだった。
彼らにとってクリフォードは“若き英雄”であり、国民、すなわち、顧客である“消費者”が好む絶好の“コンテンツ”だったのだ。
クリフォードは自分が若き英雄と呼ばれていることに違和感を覚えながら、控え室に向かった。
控え室では愛妻ヴィヴィアンが出迎え、「お疲れ様でした、あなた」と言ってキスをする。
「ああ、本当に疲れたよ。何度経験しても慣れないものだ」
そう言って深く息を吐き出しながら、ソファーに身体を沈める。
すぐに紅茶が用意されるが、彼にそれを楽しむ時間は与えられなかった。白磁のティーカップを手にしたところで、ドアをノックする音が響いたのだ。
「コリングウッド少佐、少し早いですが、予定を繰り上げます。会見場にお越しください」
広報担当官の声が聞こえ、クリフォードは肩を竦めながら、「了解した」と答えた。
「まあ、これが終われば落ち着くだろうし、もう少しの我慢かな」
そう言って立ち上がった。
記者会見を終え、自宅である官舎に戻ろうとした時、旧知の人物が彼を呼び止める。
「午後二時に人事部に出頭よ、
その声はややハスキーな女性のもので、彼が振り返ると、そこには小柄な女性士官の姿があった。
そこに立っていたのはキャメロット防衛艦隊総参謀長アデル・ハース中将だった。
「
そして、自分の昇進が確定していることを悟った。しかし、そのことは口にせず、別の疑問を口にする。
「総参謀長がなぜ人事部への出頭を伝えられたのでしょうか?」
ハースは笑いながら、「あら、ただのついでよ」と言い、事情を説明する。
「すぐに人事部から
彼女は今回の式典に司令長官の代理として出席しており、クリフォードの昇進の話を聞いたため、伝えたとのことだった。
「奥方様との時間を奪って悪いのだけど、少しだけ時間をいただけないかしら?」
その表情はいつものコケティッシュなものではなく、真剣なものだった。
クリフォードは何があるのかと思いながらも、もう一度「
そして、二人は離宮にある応接室に向かった。
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