15時17分、パリ行き ー18.3.9.
監督:クリント・イーストウッド
「あなたはとっさに動けるか?」
誰しもヒーローのように常に緊張し、
そのことばかりに対応しているわけではない。
退屈で平凡な日常が人生のほとんどだ。
だからこそ「イザ!」という時に、英雄的行動のスイッチを弾き入れ、
瞬時に自らを切り替えることがどれほど難しいことなのか。
旅行先で列車内テロに遭遇し、咄嗟に対処した若者たちの
そこに至るまでの人生を追いかけた実話ベースの物語は
ひたすら続く観光シーンに退屈を感じている人ほど
(どっぷりつかっている人ほど)、
そしてその後の決定的瞬間に興奮した人ほど
(イザというとき冷静でいられない人ほど)
難しいのではないかと感じる。
もちろんたいがいの人がそんな具合のはず。
本作品は、それら落差を見せつけることで現実を体感させることが、
喚起することが狙いの映画と鑑賞した。
これがまたシンプル極まる仕組みながら、
毎度キレキレの手腕を見せるイーストウッドに脱帽。
大好物、イーストウッド作品。
全て見てきたわけではないが、毎度、何かこだわりを感じるところが好きだ。
本作はそのうちでも、ハイライトとなるテロリストとの決戦までをひたすら丁寧に描く、というある意味じらしにこだわりを感じて止まない。
だがそうした日常を追いかけているうちに
なんだか愉快になってきて、
やがて出くわすテロリストのことを半ば忘れる構図を取り、
その瞬間が訪れた時、何も知らず出くわす不条理と、
驚きを結構リアルに感じることができる。
これ、忘れさせる時間がなければここぞで見え切る歌舞伎役者かと、
主人公たちの取った行動がいかに咄嗟で的確、勇敢だったかは伝わりにくいだろう。
同時に、そうやって襲い来るテロの無差別さも味わえなかったと思う。
イーストウッドがこの映画で見せたかったのはおそらくそこで、
決して歌舞伎役者と恰好よくテロリストをたたんだ若者像ではなかったのだろうとよむ。
が、世間はCMに洗脳されて、後者と思い観に行く人がけっこう多かった様子で、
延々、やんちゃボーイズの話ばかりでつまらなかった、という感想をめっぽうめにしている。
わたくしの見解が正しいかどうか、イーストウッドから聞いたわけではないからわからないが、
もしかするとイーストウッドの本意が伝わっていなかったとしたら、
観客の見たいものを見せるだけがエンタメなのか、
見たこともないものを含め、作家性を提示するのもまたエンタメなのか、
結構な問題だなと思うわけである。
これはモノカキも、特にエンタメ系なら絶対、共通する事項だとおもうのだった。
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