こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 ー19.1.1.

監督:前田哲



「時間がない、ということ。」

体の筋力が徐々に衰えてゆく難病にかかった主人公と、サポートするボランティアが繰り広げる笑いあり、の人間ドラマ。実話ベースである。


つまり主人公の人生には残された時間が少ない。

だがちょっと引いて考えてみたならそれは、

いつか必ず死ぬ人間、誰もが同じだということ。

主人公はとりわけ喫緊、差し迫っているせいで究極の近道。

欲望に忠実で、思いに率直なだけだ。

だから主人公の生き様は障害者に限らず、ボランティアとしてつきそう健常者にも通ずる。

病気だろうと健康だろうと、あなたは限りある命の時間を真剣に生きているか。

自立も目的も、夢も迷惑をかけることも、問いかけてくる作品だった。


こういった作品においてタブー視される事象にふれてみたり、同情をさそうような描写がなかったことは本当に天晴。

スカっと切なく感動できる作品。

意外とアツい系。



笑えない状況だからこそ「笑い」を。

だがまあ難しいのが「笑い」である。

シリアスは最低限、真面目腐っていればある程度カタチになるが、

笑いはフザケたからといって相手が笑うとは限らない。

カタチにもならないのだ。

だが本作はけっこう笑える。

それはただフザケているからではなく、土台に悲壮感がしっかりあるからで、

ギャップに笑いが生じるという構図なのだ。

つまり笑いはシリアスの成立が前提とされる。

なおかつフザケるというハイテク仕立てだ。

そして笑えるからこそ逆にシリアスな面もまた際立つわけで、人間ドラマでコメディーほど難しいものはない、と思うわけである。

嫌味なくまるっ、とこなす本作はちょっと憎い。

役者さんたちのうまさあって、も勝因のひとつなのだろう。


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