31
駄菓子屋にて、カピバラ君ソーダを二つ購入し、先程のことなど綺麗さっぱり忘れたような表情でアイスを頬張りながら、決まって襲いくるあのキーンに頭を抱えるパッツン少女がいた。
何を隠そう、僕の妹だ。
しかし今年は暑い。紗凪に帽子くらいは買ってやらないと日光で溶けてなくなりかねない。紗凪ならあり得る話だ。
金池は部活だし、あかりちゃんもピアノのレッスンが朝からあるみたいだし、——ピアノ、ピアノか。
ダァーン、と、二つの果実が鍵盤フルバーストを奏でる映像が浮かんだことは、墓場まで持って逝くとして、今日は二人で過ごすわけだ。
と、そんな思考を巡らせていると、僕に話しかけてくる数少ない女子、所謂希少種の声がした。
「お、お主は木下ではないか!」
「はい木下ですが」
生徒会長、
「き、奇遇なのじゃ〜、暇を持て余して散歩と洒落込んでいたところ、バッタリ木下に遭遇するとは」
「生徒会長なのに暇なんだな、鸞子」
「はうわっ、ららら、らん、らん!」
忙しいやつだなぁ。
「鸞子、僕たちに何か用か?」
「ららららんこっ……ぶふぁっ、はぁはぁ、びっくり、した、のじゃ……まさか、下の名前で呼び捨てにされ、る、とは、くはっ」
「え、じゃあ田間にするか?」
「鸞子でいいのじゃ」
えっと
「鸞子でいいのじゃ!」
「わかったわかった、何で二回も言うんだよ」
僕と鸞子の当事者ですら意味不明のやりとりを見る紗凪は、僕の服の袖を掴み、何か変なものを見るような、そんな警戒心に溢れた表情なのだけれど。
「兄ィ?」
「ん、あぁ、紗凪はまだ知らないのかな。この小さいのは田間鸞子。うちの学校の生徒会長だよ。小さいけど声は大きいし、小さいけど態度も大きいのが特徴な」
「小さい小さい言うななのじゃ!」
紗凪は鸞子の前で腰を低くし、その大きな瞳で鸞子のジト目をじっと見つめる。
「……の、のじゃぁ?」
「……」
「……の、のじゃらす?」
「……兄ィ……」
「……のんじゃら?」
「……兄ィ、これ、持ってかえ——」
「——駄目だ。テイクアウト対象商品じゃないの、鸞子は」
紗凪は膨れて心底残念そうに身体を捩らせた。
「我は別に……お、お、お持ち帰りされ、ても、よ、よい、とか? あ、いや……」
「兄ィ、ほら、この子いいって!」
「お、おい! これでも先輩なのじゃぞ!? こ、この子はやめるのじゃ!」
しかし、さすがは鸞子だな。あの紗凪がすぐに話せるようになった。待てよ、これはチャンスかも知れない。よし、今日は鸞子と遊ぶとしよう。
「なぁ鸞子、これから僕たちと一緒に遊ばないか?」
「良いのか!? 良いのか!? い、一緒に遊んでくれるのじゃな!? のじゃらっほーい! なのじゃぁ〜!」
めっちゃよろこんどるわ。
そうだな、この前行きそびれたスイーツでも行くか。半額券もあるし。
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