23


 迫る〜テスト〜、イイィーー! 地獄の期間〜、

 数字にまみれた黒い影〜、


 期末試験まで残すところ数日。日曜日を二日後に控えた金曜日の放課後、僕の前に仁王立ちで現れ、その柔らかそうな丸い頬を薄く染め上げては、グイッと反りかえり、漫画で描いたようなジト目で見上げる同級生がいた。


 何を隠そう、僕の学校の生徒会長だ。


「お主、暇なのじゃな? よしわかった、暇ならばお主に仕事を授けようなのじゃ!」


 あかりちゃんより、更に少しばかりミニマムな彼女の名は、田間鸞子たまらんこ、裏では堪らん子とも呼ばれる我が校の生徒会長である。


「会長殿が僕みたいなボッチに何の用事かと思えば、つまりはパシリか」

「パパ、パシリだなどと! そ、そんなつみょ、つもりは微塵もミジンコもないのじゃぁ!?」


 慌てる素振りが小学生のそれである。

 この田間だけれど、何かと僕に用事を押し付けてくる節がある。態度は身体のわりに大きいし、真面目すぎるとかで嫌う生徒も一定数いるけれど、僕に話しかけてくる貴重な女子ということもあり、蔑ろには出来ない自分がいるわけだ。


「で、その会長殿はどのような件でお困りなのかな」

「そ、その会長殿というのはやめてくれなのじゃ。そ、その、なんというか……たに、他人、たに、たに」


 谷間? ないだろ、そんなものは。


「他人行儀ではないか。我のことは、ら、ら、ら、あーもういい! せ、せめて田間と呼べなのじゃ!」


 肩で息をする田間。


「はいはい、で、その堪らん子は僕に何をしろと?」

「はうわっ!? そ、そんないきなりフルネームなんかでっ!? くわぁっ、なのじゃ!?」


 変な奴だなぁ。


 さておき、堪らん子こと田間のお願いとやらは、大量のプリントを生徒会室へ運ぶというものだった。

 無事生徒会室にブツを運び終えた僕たちは、一息つくために適当な椅子に座った。


「生徒会も大変なんだな。堪らん子も小さいのに頑張って偉いじゃないか」

「ひにゃ!? よ、よしよしするんじゃないのじゃーー!」

「んじゃ、僕はこれで」

「あ、もっと、じゃなくて、ま、待ってなのじゃ! お、お礼がまだなのじゃ!」

「お礼とかいいって。なんだ、ありがとうのキスでもくれるのか?」


 ………………


 何この沈黙?


「お、お主が、それ、を望む、のなら……い、いたしか、た、ある、まい」


 ん、今、何か言った?

 と、その時、チャイムが鳴った。いけない、このままではライブ配信が始まってしまう。


「悪いな鸞子らんこ、急いでるからこれで!」

「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ、ふぬぬぬぬぬの、ふぬぬぬぬーーっ」


 ふぬぬ長ぇ。どこかの誰かに似てる気もする。


「またいつでも手伝ってやるよ」

「はっ、お、おうなのじゃ! あ、ありがとうなのじゃぁ!」


 あどけなさの残る笑顔を背に、僕は生徒会室を後にした。

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