8 仕事

 着替えを詰めた鞄を肩に下げ、日本刀を腰に差す。それと、様々な形のタッパーを詰め込んだ大きな手提げ袋を手に持つ。前日、和香奈が作ってくれたおかずが詰め込まれたタッパーたちだ。見た目以上に重いことに少し驚く。

 事務所を出て駐車場に停めてあるバイクのところまで荷物を運ぶ。一度地面に袋を置いて、考える。

 さて、このおかずをどう運ぼうか。車での移動ならこの程度の荷物で苦労はないだろうけれど、残念ながら車を持っていない。庭瀬さんの自宅は公共交通機関が通っていないところにあるので、バイクで移動するしか方法がない。

 とりあえず、バイクの後ろ座席に紐で袋を括り付ける。バランスを崩したら落としてしまいそうだが、まあそんなに急ぐ道中でもない。多分大丈夫だろう。着替えの入った鞄はその袋の上に置いた。荷物を括り終えたところでバイクから少し離れて状況を見る。正直、この荷物の配置状況を警察に見つかったら怒られる気がする。けれど他に方法はない。警察に呼び止められないことを願おう。

 ゆっくりとバイクを発進させて、庭瀬さんの会社へと向かう。庭瀬さんの会社まではバイクで一時間半か二時間あれば着く。朝早く出発するので渋滞に巻き込まれる心配はない。おそらく早めに到着できるだろう。

 バイクで国道に出て、高速道路に乗る。庭瀬さんの管理区域は海沿いになる。四十分くらい高速を走り、その後高速を降りて一般道を海に向かって移動する道になる。

 一般道を降りてしばらく真っ直ぐ進み、途中で角を曲がる。曲がったところで潮風の香りが前方からした。遠くの方に海が見える。その手前の土地に、広い敷地内に大きな建物が乱立している場所がある。その建物の間には大きなものから細々としたものまで様々な大きさのパイプが有象無象に繋がれている。庭瀬さんの工場だ。

 バイクでその近くまで行く。工場の周りには金網が張ってあり正面玄関からしか工場に立ち入ることができない。正面玄関には鉄で作られた大きなゲートがあり、そのゲートのそばに小さな小屋が建っている。そこには常に人が二人いて守衛をしている。

 俺がゲートに近づくと、小屋の窓を開けて守衛の人が声をかけてきた。

「あんた、ここに用があるの?」

「はい。社長の庭瀬さんに言われて来たんですが」

「そうなの? 来客があるって連絡来てないけどなぁ。ホント?」

 疑いの視線を向けられる。

 ………来れるならさっさと来いと言ってたのに。守衛の人たちに何も連絡していなかったのか。その事実に少し腹が立つ。

「社長に問い合わせてください。それでわかるはずです」

 もし知らないとでも言えば、速攻で来た道を引き返そう。庭瀬さんなら俺がいなくったって問題が起きたら自分でなんとかするだろうし。

 俺の言葉にそれもそうだと守衛の人は納得し、どこかに電話をかける。待つこと数分。工場の向こうの方から、何やら変な乗り物に乗って庭瀬さんがやってきた。その乗り物は、タイヤが横並びに配置してあり、そのタイヤを板で連結してある乗り物で、庭瀬さんはその板の上に乗っている。そして板の真ん中に細長い棒があって、庭瀬さんはそれを支えに立っている。それが大きな音を立てず比較的静か且つ滑らかにこちらに移動してくるのだ。

 ………………不気味な乗り物だな。なんなのだろうか、あれは。新しい物好きな庭瀬さんだ、どこかで新しいおもちゃでも見つけてきたのかもしれない。

 庭瀬さんは謎の乗り物に乗りながらゆっくりとゲートに近づき、

「思いの外、早かったな。守衛、開けてやれ」

 そう言うと、守衛の人がゲートを開いた。

 荷物が崩れないように気をつけながらバイクで工場の敷地内に入る。

「変なものに乗ってますね。なんですかそれ」

「なんだ、知らないのか? 電動立ち乗り二輪車だ。エコなんだぞ?」

 庭瀬さんはそう言うと、体を少し右前方に倒す。すると二輪車が旋回しながら前進し始めた。どうやら体重移動に反応する乗り物らしい。ただ、移動速度がバイクと並走するには馬力が足りなさそうなので、俺は仕方なしにバイクを降りて手で押すことにした。

 俺の横を二輪車で走りながら、庭瀬さんが話かけてくる。

「相変わらず浮世離れしてるんだな、黒猫。もう少し世の中の見聞を広める努力をしろ。そういえばスマホも持っていないだろ? 今時スマホを持っていないだなんて不便すぎる! 今後のこともあるしな、買いに行け」

「余計なお世話です。それで、どこに行くんですか?」

 庭瀬さんは工場の奥へと二輪車を移動させていく。この工場に来るのはまだ数回なので、どこに何があるのかを把握できていない。だからいったいどこに向かって移動しているのか、皆目検討もつかない。

「とりあえず、お前が泊まり込みできるように仮眠室を用意してある。そこに荷物を置いておけ」

「その仮眠室には、冷蔵庫がありますか?」

 和香奈が作ってくれたおかずを冷蔵庫に入れておかなくてはならない。そうしないとおかずが全部腐るぞ、と昨日の夜、和香奈にきつく言われたのだ。せっかく作ってくれたのだ、無駄にするのは惜しい。

 俺の質問に驚いたのか、庭瀬さんが二輪車を止める。止めたら倒れてしまうのではないか、と思ったのだが、そうはならない仕組みらしい。真っ直ぐな姿勢のまま停車した。ますます気味の悪い変な乗り物だ。

「冷蔵庫? そんなものが必要なのか?」

「はい。おかずがあるんで」

 俺の返答に、庭瀬さんが驚愕の表情になった。憐れむかのような、それでいて恐怖の表情だ。どうしてそんな顔をされるのか意味がわからない。

「お前、まともに茶も淹れられないのに料理に手を出したのか? やめとけ! そんなもん、食えたもんじゃない!」

 ………そういえば随分と昔に事務所でお茶を出したら、味が気に入らなかったのか吐き出していた。その後、こんな不味い茶を二度と出すなと怒られた。そんな昔のことを未だに覚えているのか、この人は。

「失礼なこと言わないでください。人をなんだと思ってるんですか」

「食中毒なんかで倒れるなよ! 倒れるなら工場の敷地を出てから倒れろ! 社内で食中毒が出たなんてなったら大事おおごとだ! わかったな!」

 本当にこの人は、俺のことをなんだと思ってるんだ。

 腹が立ったので庭瀬さんの忠告を無視する。自分の料理の腕の悪さは自分が一番よくわかっている。でも、流石に食中毒を起こしたことはない。そんな毒物をわざわざ作り出す才能は俺にはないし、そんな才能がある人間なんかこの世に存在しない。そもそもこのおかずは和香奈が作ったものだから、庭瀬さんの心配は的外れだ。失礼にも程がある。

「まったく、変な趣味を始めやがって。そのおかずは悪臭を放ったりしないよな? 冷蔵庫か、なら仮眠室にはないな。じゃあ俺の仮宿を貸してやる。来い、こっちだ」

 庭瀬さんはそう言うと目の前の角を左に曲がる。そこは裏道だったのか、建物の間を縫うように多くの配管が入り組んでいる。少し道幅は細いが通れないこともない。ゆっくりと移動する。配管の中を何かが通り抜けていくような大きな音や、鉄と鉄が打つかるような音が、あちらこちらで反響して聞こえた。

 しばらく行くと、工場の敷地の端っこに到達した。そこにはそこそこ立派な二階建ての建物がある。工場の敷地内にはそぐわない、まるでひと家族が住んでいそうな風貌の建物だ。ご丁寧に花壇まである。ただ今は誰も手入れをしていないのか、土と枯れかけた雑草しかないが。

 庭瀬さんはその建物の隣に二輪車を停め、家の壁に立てかけるようにして置いた。この二輪車はどうやら自力で突っ立っていることはできないらしい。庭瀬さんに倣って俺もバイクを二輪車の隣に停める。詰んだ荷物を倒さないように気をつけながら手に持ち、庭瀬さんの後を歩く。

「ここ、庭瀬さんの第二の家か何かですか?」

「いいや、俺の親父が昔、愛人を囲うように作った家だ。今は退去させたがな。時々仕事で帰れない時に俺が寝泊まりしている。だから電気も通ってるし水道も通ってる。冷蔵庫もあるぞ」

 庭瀬さんはズボンのポケットから鍵を取り出して中に入る。庭瀬さんの言う通り普段から使用しているのだろう、室内には程よく生活感があった。リビングには大きめのソファとテーブル、大きなテレビが設置されている。台所はリビングの様子がわかるようにするためかすぐ隣に設置されていて、壁で仕切られていなかった。料理をしながらテレビを見ることができるようだ。

 リビングから外がよく見えた。大きな窓が嵌め込まれているのだ。けれど見える景色は工場だけだし、外からはこちらが丸見えだ。ここに住んでいたという愛人もこれでは退屈だっただろう。

「二階は俺の書斎や書類置き場に使っているから使うな。一階で生活しろ。風呂とトイレはあっちの奥だ。洗濯機もあるから好きに使え。あっちの奥に座敷がある。そこの押し入れに布団があるから、寝る時はその部屋を使え。あと、料理はするな! 絶対にな! いいな!」

 そう言うと庭瀬さんは俺に向かって家の鍵を投げて寄越した。それを受け取る。

「料理しませんよ。それじゃ、お借りします」

 鍵には豚が愛らしく表現されたキーホルダーが付いている。庭瀬さんの趣味なのだろうか? 想像と違う。

 とりあえず鍵を胸ポケットに収め、おかずを冷蔵庫に収める作業を開始する。庭瀬さんはその間、黙って俺の行動を見ている。

「………随分とたくさん作って来たんだな」

 どうやら持ってきたおかずの量に驚いたらしい。そんなことに驚かないで、さっさと仕事に戻ればいいのに。暇なのだろうか?

 仕方がないので、今回の依頼のことを尋ねた。

「ところで、問題の魔術具はどこにあるんですか? 確か地脈に潜ったとか言ってましたよね? おおまかな場所を教えてください。すぐ処理できそうならその場で処分してきます」

「ん? ああ、そうだな。それなんだが、場所はわからん」

 庭瀬さんの言葉に驚き、思わず手を止め振り向いてしまう。

 わからない? どうしてだ? 庭瀬さんは脈主だ。もし自分の管轄内の地脈に異変があったら一番把握できる存在なのに、それがわからないなんてことがあるのだろうか? 経験年数の短い井倉さんでさえ異常を把握することができるのに、そんなことありえない。

 庭瀬さんが気難しい顔をして腕を組んだ。

「なんといっても精度の高い魔術具だからな。脈主に存在を感知されないように徹底的に研究されて作られたんだろう。素晴らしい技術だ。あれが現在でも作成できるとなれば、一攫千金狙えるぞ」

「何馬鹿なこと言ってるんですか。そんなことしたら脈主たちの恨みを買うし、魔警が黙っていませんよ。………異常の場所がわからないんじゃ、俺に出来ることはないですよ。脈主が無自覚なものを地脈の中からどうやって処理しろって言うんですか」

「それをなんとかするのがお前の仕事だろう」

 適当なことを言う。

 なんだか、庭瀬さんが言う魔術具が本当に存在するのかさえ疑わしく思えてきた。この人、俺を試したいだけで呼び寄せたんじゃないだろうな? そんなことを勘繰ってしまう。

「いったい何の魔術具を起動させたんです?」

 せめて、どんな魔術具だったのかくらいは知りたい。それがわかればこっちだって対策くらいは出来るだろう。そう期待して質問したが、

「それを確認する前に地脈に潜った。だからわからん」

 庭瀬さんはつまらなそうにそう言った。

「わからないものをいきなり起動させないでください。何か問題でも起きたらどうするんですか?」

「別にいいだろう? 俺が脈主だ。被害を受けるのは主に俺なんだから、問題はない」

「問題ないわけないでしょう。これが一般人にも影響が及ぶものだったらどうするんですか」

「そんな危険なものだったら気軽に起動なんかしない」

 言っていることが矛盾している。起動した魔術具の性能がわからないくせに、どうして一般人に危険が及ばないなんてことを断言できるんだ。

 依頼そのものが嘘である可能性がかなり高い気がする。そうなると俺がここに呼ばれたのは庭瀬さんの嫌がらせか。もしそうだとしたら、苫田さんにお願いして今回の依頼料を高めに請求してもらおう。そうじゃなきゃ割に合わない。

 ため息が出る。

「………魔術具は、どこで起動させたんですか?」

「自宅の自室で。そこが一番安全だからな」

「そうですか」

 どこにあるのかわからないものを処分しろという依頼だ。その起動の場所が自宅だというのなら、まずはその付近から捜索してみよう。何かわかるかもしれない。

 おかずを冷蔵庫に全て仕舞い、着替えの入った鞄を持つ。俺がおかずを仕舞い終えたのを確認して満足したのか、

「守衛には俺から上手いこと伝えておくから、今日は町を散策でもしてろ。くれぐれも工場内を勝手にうろうろするな。他の職員の邪魔だからな。じゃあな」

 庭瀬さんは捨て台詞のようなことを言う。そのまま出て行こうとするので、呼び止めた。

「庭瀬さん、苫田さんから伝言を預かってます」

「伝言? なんだ?」

 嫌そうな表情だ。もしかしたら昨日の脈主会議のことを思い出したのかもしれない。

 けれどそれは苫田さんも同じ気持ちだろう。俺が庭瀬さんから仕事の依頼があった、と話をしたら、とても嫌そうな顔をされた。猫なのにこんなに嫌そうな顔ができるのだな、と感心するくらいには嫌そうな顔だった。

「勝手がすぎると怒りますよ、です」

 伝号を聞いて、庭瀬さんは悪ガキのような笑みをして出て行った。



 さて、どうしようか。

 荷物を片付けソファに座って考える。正直、依頼そのものが本当なのか疑わしい状況だ。けれど、だからといって何もしないで帰るとなると問題だろう。せめて依頼は嘘だった証拠ぐらいは集めておきたい。

 そのためには庭瀬さんが魔術具を起動させたという自宅近くまで行ってみるのが一番だろう。庭瀬さんの自宅はここから歩いて行ける距離だ。そこで何かしら異変があれば依頼は本当だろうし、なければ依頼は嘘の可能性が高い。面倒だが、ここで何もしないでじっとしているよりは有意義だろう。

 そうと決まればのんびりしている時間が勿体無い。日本刀とナイフの装備を確認し、家を出る前に忘れ物を思い出した。冷蔵庫を開けて、包みをひとつ取り出す。

 昨日、和香奈が「お弁当」と言っておかずが詰まったタッパーとは別に用意してくれたのだ。炊飯器がないのにお弁当を作るだなんて不思議なことをする。もしかしたら俺が知らないやり方で和香奈はご飯が炊けるのかもしれない。

 包みを手に工場を出る。出る時、守衛の人が少し不思議そうな表情をした。気持ちはわかる。手に包みだけ持って歩いている姿は、そこそこ間抜けに見えただろう。けれど仕方がない。鞄を持ち歩く習性はないし、いちいちお弁当を食べに戻ってくるのも馬鹿らしい。

 工場を出て道路沿いを歩く。庭瀬さんの自宅はこの道路をしばらく真っ直ぐ歩き、途中の坂を登った先にある。山の斜面を一部住宅地にしていて、その住宅地でも一等地に自宅があるのだ。確か、その道の途中に海を眺めることができる小さな広場があった。そこでお弁当を食べよう。

 歩きながら周囲に気を配る。海の音が絶え間なく聞こえ、海鳥たちが鳴いている。潮風が少し肌に張り付く感覚があるが、この気候なら気持ちよくも思える。道路は思い出した頃に車やトラックが通るくらいで、のんびりと時間が流れていく。特に変な印象はない。

 坂道を登る。斜面を切り崩して無理矢理住宅地にしたためか、坂の勾配がキツい。この住宅地に住んでいる人たちにとって車は手放せないものなのだろう、どの家にも車庫や駐車場が見て取れた。運転が出来なくなったらどうやって生活するつもりなのだろうか? そんなことを心配してしまう。

 周囲を観察しながら歩いていると、目的としていた小さな広場に到着した。本当に小さな広場なので、ベンチがひとつあるだけで他には何もない。おそらく、この坂道を登って疲れた人が一時休憩できるように用意した場所なのだろう。その広場もほとんど手入れされておらず、雑草が生えている。

 ベンチに座って海を見る。太陽の光が反射して水面が輝いている。とても綺麗だ。その海の上をゆらゆらと海鳥が飛んでいる。潮風は坂道に沿って登ってくるようで、風が熱った体に心地よい。自分の実家は山に囲まれていて海は遠かったので、この光景がとても面白いものに思える。見ていて飽きない。

 海を眺めながら周囲を観察する。ここも特に異常がない。これだけ庭瀬さんの自宅に近づいているのに一つも異常を感じないのだ、おそらく自宅側に行っても何もないだろう。無駄足だったようだ。

 することがないので、包みを開ける。開けて驚いた。お弁当というので中にはきっとご飯とおかずが詰まっているんだろうと思ったら、中身はサンドイッチだった。そうか、だから思いの外軽い包みだったのか。

「器用だな」

 具材は玉子、ツナ、ハムキュウリ。それとポテトサラダか。それが綺麗にきっちり詰まっている。どうやったらこんな小さな箱に綺麗に詰めることができるのだろうか? しかも、使い捨てのお手拭きも一緒に包みに入っていた。準備がいい。

 早速ひとつとって食べる。食べながら、そういえばデートするとかなんとか言っていたなと思い出した。相手は万富さんのお孫さんだという。俺は会ったことがないのでどんな人なのかを知らない。大丈夫だろうか? と少し心配に思う。

 和香奈は苫田さんの弟子だ。まだ魔術師とは呼べない。相手の魔力を眼で見て反応はできるかもしれないが、対応はできる技術は身についていない。もし相手が悪意でもって魔術や呪いをかけてきたとしたら、彼女では対処できないだろう。それなのに見知らぬ魔術師と二人で会う、というのは正直おすすめできない。何かしら護符でも持たせておくべきだっただろうか?

 ただ、相手は万富さんの孫だ。苫田さんとの関係をわざわざ悪化させるようなことをしてくるとは思えない。和香奈がどういう人間なのかを確認したいだけなのだと思う。ただ、それだけでは終わらないだろう。万富さんの孫とはいえ、魔術師だ。何かしら情報を要求するか、もしかしたら和香奈に変なことでも吹き込もうとするかもしれない。そこが心配だ。和香奈は素直すぎる。

 おそらくだが、万富さんは苫田さんが魔警を辞めた後に和香奈が後釜になると推測している。そして万富さんの孫は脈主の後継ぎだ。今回のデートは今後のことを考えての行動だろう。他の脈主たちよりも有利な立場を築くために何かしら賄賂を渡してくるかもしれない。

 苫田さんはこのデートのことを知っているだろうか? 俺の口から伝えるのは変だと思ったので伝えていない。だから苫田さんはまだデートのことを知らないはずだ。土曜日にでも和香奈が苫田さんに伝えてくれれば心配は少ないのだが。

 デートは日曜日と言っていたか。なら、日曜日にこの依頼の白黒をつけて帰れるようにしよう。そうしたらもし何か問題が起こったとしても俺が処理することができる。

 サンドイッチを食べながら、お茶でも買って持ってくればよかったな、と少し思った。

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