第6話 謁見
(うわぁ~、凄いなぁ……)
大きなシャンデリアに赤い
華美な内装に驚きつつも城の中を歩いていると、やがて巨大な扉が立ちふさがった。
兵士がその扉を両手で押し開けると、中には数人の兵士と、先の方に大層煌びやかな椅子が二つ。
そこに腰掛けているのは長い白髭を顎に
その気品漂う風格から、雫はすぐにその男性が王であることを悟った。
そして隣に座っているのは、これまた気品のある年を重ねた女性。恐らく王妃であろう。
身分の違いに雫は緊張のあまり、ガチガチになりながら兵士とビビアンの後を歩く。
そうして王と王妃の目の前まで来たところで、雫は床に片膝を付けて口を動かした。
「お、お初にお目にかかります! へ、陛下におかれましては――」
「ほっほっほっ。そのような堅苦しい挨拶は要らぬぞ。却ってこちらが緊張してしまうのでな。楽にしてくれ」
王はたどたどしく挨拶する雫の言葉を遮り、立ち上がりながらそう告げた。
「そうよんっ! 見ているこっちが辛くなっちゃうわ! 王様ちゃんはそんな礼儀とか気にしないから、気張り過ぎないで大丈夫よん!」
「そ、そうですか……」
一国の主をちゃん付けするビビアンに唖然としつつも、王に言われた通り、雫はゆっくりと立ち上がった。
「では、改めて互いに自己紹介といくとしよう。ワシはこの国、ニーログーネ王国の王、ノザンチ・ニーログーネだ。そして、隣に居るのが――」
「リパンカ・ニーログーネです。突然別の世界に迷い込んで、さぞ不安なことでしょう。何かお困りのことがあれば、どうぞ遠慮せずに申してくださいね」
(ほっ。いい人達そうでよかった)
その
「僕は坂月雫と申します! えっと……これからお世話になります!」
おかげでお世辞にも品があるとは言えないが、堂々と挨拶を済ませることができた。
「うむ。それではシズクよ。早速そなたに一時金を授けよう」
「あっ、王様ちゃん、それはちょっと待って! 実は他にも話があるのよ!」
「ん? どうしたのだ?」
「ほらっ、雫ちゃんっ!」
ビビアンは肘で雫の脇腹を小突き、発言するよう促す。
そう、今日はただ挨拶をしに来ただけではない。バーの営業許可をもらいに来たのだ。
雫は生唾をごくりと飲み込んでから、口を開いた。
「あの、実は僕、自分のお店ごとこっちに来たみたいで……。よろしければ営業の許可を頂けないかと……」
「ほう、そうだったのか! それでどんな店なのだ?」
「バーです。お酒を提供するお店で――」
「バーか! ということは、異世界の酒を扱っているということだな!?」
念のためバーというものについて説明しようとした瞬間、王は食い気味に尋ねてきた。その必要はなかったようだ。
「は、はい! その通りです!」
「そういうことなら、もちろん構わん! いや、むしろこちらから頼みたいくらいだ!」
「よろしいんですか!?」
「うむ! 実はビビアンを始め、これまで多くの迷い人から酒に対する不満の声が上がっておってな。何でも異世界の酒は、この国にある酒よりも何倍も美味いと聞く。それだけ美味い酒を飲めるのであれば、我が民も喜ぶであろう」
「そうですか! それならよかったです! ではお言葉に甘えて、営業させて頂きます!」
「うむ! ぜひとも頼む! 必要な物などあればすぐに用意させる故、遠慮せずに申してくれ!」
呆気なく、許可をもらえたことで雫はホッと胸を撫で下ろした。
「必要な物は特に――あっ!!」
そして「特にありません」と続けようとしたところで、ふと肝心なことを思い出した。
バーは現在、停電中かつ断水中だ。
このままではとても営業なんてできない。
「どうしたの? 雫ちゃん?」
「その……転移した影響で、今お店に電気も水も通ってなくて……。これでは営業どころでは……」
「あー、言われてみれば確かにお店真っ暗だったものね。久々のタリスカーに夢中で気がつかなかったけれど」
「なるほど、電気と水だな。あいわかった! それでは早速、魔術師を手配しよう」
「あ、ありがとうございます!」
王はそう言うと、近くに立っていた兵士にその旨を伝えた。
話を聞く限り、どうやら魔法で何とかしてくれるようだ。
店の詳しい場所はビビアンが伝えてくれた。後ほど、店にその魔術師が来てくれるとのこと。
それから雫は王に税金のことを聞いた後、ひとまずの生活費として金貨20枚の貸付を受けた。
利息なし、返済は余裕のある時に税金と一緒でいいという、破格の条件だ。
これでしばらく生活には困らない。
「色々と本当にありがとうございます! 助かります!」
「うむ。また何か困ったことがあれば言ってくれ。それと最後に一つ頼みがあるのだが……」
「はい、何でしょう?」
「実はワシも異世界の酒に興味があってな。開店前……そうだな、明日の昼にでも店に伺わせてもらえないだろうか」
他に客が居る状態で王が来店すればパニックを起こす。それを見越しての開店前ということなのだろう。
本来、昼は寝ているものの、他でもない王の頼みだ。断る理由はどこにもない。
「もちろんです! むしろありがとうございます!」
「そうか! それでは12時前に伺わせてもらうことにしよう」
「はい! お待ちしております!」
真っ昼間から王が酒を飲んでも大丈夫なのかという不安はあるものの、口は災いの元。
まあ一・二杯程度だろうし、大丈夫だろうと気にしないことにした。
そうして用事を済ませた雫は、ビビアンと共に城の外へと出る。
「じゃ、お店に戻りましょっ!」
「えっ? ビビアンさんも来てくれるんですか?」
「ええ。アタシが居たほうが魔術師との話も色々とスムーズだし」
「ありがとうございます! 助かります!」
(ビビアンさんにはお世話になりっぱなしだな。いつかしっかりとお礼しないと)
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