第26話『紙飛行機の二宮君』

鳴かぬなら 信長転生記


26『紙飛行機の二宮君』  






 このごろ暇があると屋上に来ている。




 自習時間とか昼休みとか放課後とかね。


 学校の奴らには嫌われたり敬遠されたり。


 そういう奴らを連れまわしても面白くないし、逆らう奴はみんなシバキ倒したしね。


 無理やりひっ捕まえれば、付いてもくるし、命令はなんでもきく。


 そういうのカッタルクって、時々切れてしまう。


 切れると、そいつらは蜘蛛の子を散らすように居なくなる。そういうのが嫌になった。



 中には付いてこない奴もいる。こないだのパヴリィチェンコみたいなの。


 そういうやつは、ハナから寄ってこない。




 屋上からは御山が見える。


 御山は、この街の真ん中に聳える神の山だ。


 御山を挟んだ向こう側には転生学院がある。兄の信長が通う女子高、うちの転生学園より偏差値で10も高い。


 前世では、名のある戦国武将とか戦国大名だったやつとか、その道の英雄とか、たいそうな奴らがいく高校。


 そういう奴らは、来世で生まれ変わったら「今度こそは!」というはた迷惑な気概に満ちている。


 だからなのか、男のままでは受け入れられず、みんな女になっている。


 癪に障ることに、揃いも揃って美少女だ。


 フン、あたしほどじゃないけどね。


 でも、兄き、いや、いまは姉か。あいつは、胸糞が悪くなるほどの美少女だ。


 あいつは、あたしのプロトタイプなんだ。最近は、そう思ってる。


 プロトタイプって分かるよね、試作品よ。


 あたしという完成品が生まれる前のお試し品。


 試作品だから、欠点が多い。


 最大の欠点は性格。前世から性格悪くって、そのために家臣の光秀に殺されちまった。


 クソッタレなんだけど、あいつにはきちんと転生してもらわなきゃ、あたしが困る。


 あたしも頑張らなきゃ……




 スーーーーーーーーーーーーー




 そんなこんなを思っていると、目の前を白いものが横切った。


 白いものは、屋上に沿って西に流れていくと、校舎の切れ目でグイっと首をもたげて上昇していき、校舎の倍ほどの高さに至るとグルっとグラウンドの上空を旋回して、屋上に戻ってきた。


 ん?


 給水タンクの陰から男子生徒が飛び出してきて、受け止めると、あたしに一礼する。


「式神?」


「え?」


「あんたの、その手に持ってるの?」


「紙飛行機」


「え?」


「紙飛行機の飛距離を伸ばそうと思って、いろいろチャレンジ……」


「あんなに飛ぶものなの?」


「まだまだだよ……」


「てっきり式神かと思った」


「あ、僕は、そういうんじゃ……」


「もっかい、飛ばして見せてくれないかなあ」


「えと……」


「あ、気が進まないならいいよ」


「あ、そういうんじゃなくて、さっきみたいにいい風が吹いてこないと……」


「あ、そか……」


「あ、やってみるよ。さっきみたいにはいかないかもしれないけど」


「ありがと!」


 男子生徒は、給水塔の後ろから道具箱みたいなのを持ってきて開ける。


「わあ、他にもあるんだ」


「うん、試作品だけどね。あ、今飛ばしたのも試作品。改良の余地があり過ぎて、なかなか完成形にはならなくてね……」


 男子生徒は、さっきよりも小振りなのを選んで箱を閉めた。


「揚力が高いから、ちょっと風が吹いただけで飛んでっちゃうから……いくよ」


「うん!」


 紙飛行機を持った手を肩の高さに上げて、二三度ためらってから、小さく掛け声をかけた。


「えい」




 スーーーーーーーーーーーーー




 今度は、さっきよりもグラウンド寄りに飛ばす。


 グイッと頭をもたげるけど、さっきほどではなく、グラウンドを一周し、ゆっくりと朝礼台の方に下りていく。


「取りに行く」


「うん」


 外階段を駆け下りて、グラウンド。


 紙飛行機は朝礼台の脇に墜ちていた。


「すごいね、あんなに飛んで墜ちたのに、どこも傷んでない」


「軽いからね、でも、水たまりとかに墜ちた時は悲惨だけどね」


「ね、あたしでも飛ばせるかな?」


「もちろん、やってみる?」


「うん」


 手持ちの紙飛行機を貸してくれるのかと思ったら、差し出されたのはA4のコピー用紙。


「折るところからやらないと、紙飛行機は面白くない」


「そうなんだ」


「まず、縦に二つに折って……」


 一から教えてくれて、あっと言う間に折り上がる。


「じゃ、朝礼台の上から飛ばしてみよう」


「うん」


「バックネットに向かって飛ばすといいよ」


「なるほど、ネットでキャッチさせるのね」


「ここからだと、バックネットまでは飛ばないよ。風がそっちに吹いてるからね」


「あ、そうか(^_^;)」


「いくよ」


「うん」


「いち……に……」


「「さん!」」




 スーーーーーーーーーーーーー




 二つの紙飛行機は仲良く飛んで行った……けど、あたしのは、グラウンドの中ほどで墜ちてしまい、男子生徒のはバックネットの手前まで飛んでホームベースに滑り込むようにして着地した。


「うん、こんなものかな」


「同じようにしても、ぜんぜん違うんだね」


「きみ、なかなか筋がいいよ」


「そう? 嬉しい」


「よっぽどうまくいくとね、見えなくなるところまで飛んで、回収もできないことがある」


「見えなくなるところまで……」


「うん、シカイボツっていうんだ」


「シカイボツ?」


「……あ、こんな字」


 グラウンドに書かれた文字は『視界没』と読めた。


「場外ホームランとホールインワンを足して100を掛けるぐらいにすごいこと」


「やったことあるの?」


「うん、一回だけ」


「見てみたい」


「視界没する寸前に願い事すると叶うっていうよ」


「そうなの!?」


「うん、ぼくは叶った」


「えと、君の名前は?」


『二宮忠八』


 地面に書いた名前は、ちょっと古風だ。


「にのみやただはち?」


「ちゅうはち」


「ちゅうはち……」


 古風だけども、ちょっとかっこいい。


「きみは?」


「あ、織田市(おだいち)」


「あ、信長の妹の……」


「アハハ」


 あたしは、やっぱり信長の妹って括りになるんだね(^_^;)


 

 あとで敦子に聞いて驚いた。


 二宮忠八くんは、れっきとした神さまだったのだ!





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手


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